死別
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そのことが分かったのか、携帯電話の振動が止まる。留守番電話サービスのアナウンスが流れる。

つーか、一体誰だよ掛けてきたの。せっかくオレが一人で死のうってときに水差しやがって。

ピー、とコール音が流れる。相手が声を出す。


『あー…』


隼人だった。

どこか気だるそう…というか眠そうな声。もしかしたら寝てないのかも知れない。

なんでこんな時に、こいつから…と思ってから、思い出した。隼人に何時頃戻ると聞かれてなんと答えたかを。


確かオレは明け方頃と答えた。

オレは目の前を見た。

空の白味が増し、日が昇りかけていた。

明け方だった。


『シャマル…てめー、明け方には戻るっつったくせに……』


あー、うるせーうるせー。

オレがいい加減なことしか言わないってのは、お前が一番よく知ってるだろーが。

まだからかわれたりないのか?

つか、なんで電話してきたんだよ。いつもならしないくせに。

……………ああ、そうか。

煙草か。


『もうこっちのストック切れるんだぞ……どうしてくれるんだ、てめー』


知らねーよ買ってこねーつったろうがそもそもオレなんかを信用するお前が全面的に悪い。

ああ、全くもう。最悪だ。

オレは一人でいきたいのに。こいつが片端から邪魔をする。


『仕事は終わらなねぇし…』


愚痴かよ。


『さっさと煙草買って帰って来い』


―――。



『それまで起きてて、待ってるから』



その言葉を最後に、電話が切れる。辺りに静寂が訪れる。

………はぁ。

だから、帰ってこねぇって。

無理だって。

煙草ぐらい自分で買って来い。

もうガキじゃないんだから、オレのお守りも必要ないだろ?


待たなくて良い。

もう寝ろ。



―――オレも寝る。



目蓋を閉じれば、急速に力が失われていく。

指先から、煙草が落ちる。


…隼人。


お前はもう良い大人なんだから、自分で道を見つけられるだろ?

もうオレの真似なんかしなくても、生き方が分かるだろ?

もうオレがいなくても、生きていけるだろう?


じゃあな、隼人。


オレの腕の力が抜けて、地面に落ちて。

そうしてオレは、事切れた。


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こんな人生だったら、また味わってもいいね。