シンデレラ
4ページ/全10ページ
「じゃあ行ってくるわ」
そう言って女は出掛けていった。親父は仕事。家の中はオレ一人。
…ブトウカイ、ねぇ…
オージサマだの結婚だのには興味はないが、きっとオレの知らない世界が広がってるんだろう。
…行ってみたいが……家を留守にするわけにはいかねぇな…
……………。
行ってみてぇなぁ…
―――と、
コン、コン。
ノックの音が聞こえて、オレの思考は中断した。
誰だ…?こんな時間に。
扉を開けると、そこには黒尽くめの男が立っていた。
………。
ま、まさか借金取りか!?
「随分な感想だな」
「す、すいません!!オレガキだから金のある場所分からないんです!!」
「聞け。オレは借金取りじゃない」
「え……?借金取りじゃなかったら、一体…」
「そこまで言うかお前」
「あの…うちは貧しいので新聞とか洗剤は……あ、あと神様とかは自分の中にいるって思ってるので…」
「勧誘でもねぇよ。オレは……そうだな、魔法使いだ」
気違いですか?
「お前な…」
聞かず目を逸らしつつ扉を閉めようとするオレに…自称魔法使いが声を投げる。
「お前を舞踏会に連れてってやるぞ」
「え………?」
一瞬だけ止まったオレの隙を付いて、自称魔法使いは扉の隙間に足を入り込ませてそのまま強引に家の中へ入って来た。
「な…!不法侵入罪で警察を呼びますよ!!」
「やってみろ。徒労に終わるがな」
「は…?」
「この辺の警察は既に手中だ。同情はされても誰も取り合わねーよ」
なんつー魔法使いだ…!!!
「それはそれとして。お前を舞踏会に連れてってやるぞ」
「申し訳ないんですが…知らない人に着いて行ってはいけないと今は亡き母に習いましたので…」
「別にオレは案内しねーぞ。お前が一人で行くんだ」
「……生憎ですが家を留守にするわけには………」
って。まさか。
「ああ、だからオレが留守番しといてやる。お前は思う存分楽しんで来い」
「流石に知らない人を家に一人置いて行くわけには…!!!」
「お前舞踏会が見たいってだけで踊りたいわけじゃねーんだろ?その格好で行ったら門前払い受けるからこのスーツ着て行け」
「…上質な布ですね…ってそうじゃなくて!!ですから気持ちはありがたいんですけどそれは…!!」
「ああ、オレ12時に帰んなきゃなんねーからそれまでに戻って来いな。戻って来なかったら勝手に帰るから」
「最悪だ…!!って、ですから駄目です!!」
「なんでだ?金はねーんだろ?別に何も盗らねぇよ」
「いや、そうですけど…そうですけど…!!うー…」
舞踏会か………
行っては、みたい。
のだ、が………
「おめー、いつかここを出るんだろ?」
…え?
「そんで、いつか自分が認める君主を見つけるんだろ?」
なんで…それを……
「なら、行くといい。いい経験になるだろうさ」
「………」
「どうして知ってる、って顔だな。それはオレが魔法使いだから………って言ったらこの辺の住民全員が魔法使いになるか」
「は……?」
「ここの女が井戸端会議でことあるごとにそう言い触らしてるからだぞ」
………。
こ…殺す…!あの女絶対殺す…!!!
「ああ、ちなみになんでここの女がそれ知ってるかって、お前が寝言で毎晩言ってるからだそうだ」
オレの身から出た錆かよ…!!!
「つーわけで、行ってこい」
「………はい」
なんだか断る気力も突っ込む気力も全てを失い、オレはふらふらと家を出ようとして………
「ああ、でもせめてお茶を出してから…あとすぐ帰ってきますので少し見たらすぐ帰ってきますので待ってて下さいね…!!」
「分かった分かった」
次
前
戻