シンデレラ
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「………お、お待たせ…しました……」

「遅かったな」


時間は12時を過ぎていたが、家には自称魔法使いがまだいてくれた。


「す、すいません…」

「いや、別に構わないが………ってお前。あの服どうした?」

「へ?」


服………?

あ…そういえば…服……

…オレ……あの人が血を流してるのを見て……思わず着ていた服…引き裂いて………

……………。


「どうして土下座をする」

「す…すいませんオレ…借り物を…その、あの………傷物にしてしまいました!!!」


怒られる!と、オレは身を強張らせる。

しかしオレに振ってきたのは拳骨でも罵倒でもなく。…頭を触れられる感覚。


………。


「………あの、」

「なんだ。どうした」

「なんで…オレの頭を撫でてるんです?」

「肌触りがよさそうだったから…」


どんな理由ですか。


「じゃなくて、その……怒ってないんですか?」

「ああ。あれオレのじゃねーし。借りもんだから」


そっちの方が不味いんじゃないでしょうか!?


「じゃーオレ帰るわ。またな」

「ええ…」


またなって…また来るのだろうか?

オレは閉まるドアを見つめつつそう思った。


「…ああ、そういえば」


って戻ってきた…!!


「お前。名前は?」

「名前…?」


ああ、そういえば名乗ってなかったか。


「オレの名は…」


………。


本名…名乗るのなんとなく嫌だなぁ…

この人も本名言わずに「魔法使い」って言ってるし。オレも偽名でいいか。


「シンデレラ」

「そうか。じゃあな。シンデレラ」


そう言って、今度こそ本当に魔法使いは去って行った………

なんだか疲れた…

でも、あの人の言う通り確かにいい経験をしたと思う。

行ってよかった。とも。


………。


もし、仕えるなら…

オレが誰かに仕えるのならば。

今日会った、あの人がいい。

身を挺してまでオレを…見ず知らずのオレなんかを庇ってくれたあの人が。