空を見上げた深海魚
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「―――どうする?」

「んな事、決まってるだろ。獄寺」

「………」

「お前なしの人生なんて考えられねぇよ」

「―――そっか」


獄寺の引き金を持つ手に力が篭る。


「何となくそう答えるとは思ってたがな。やっぱりお前馬鹿だな」

「ああ、オレは馬鹿さ」


獄寺はまた笑った。見ていて痛くなる笑みだった。


「山本――…じゃあな」


ぱしゅっと。そんな音がして。崩れ落ちる山本。


「………じゃ、後は頼んだぜ」


獄寺は運転手に言った。


「―――雲雀」


雲雀と。そう呼ばれた運転手がマスクを剥ぎ取る。黒髪の青年が現れた。


「…全く。よくやる」

「山本がか?」

「両方だよ、馬鹿」


酷ぇなぁといって。獄寺は手に持ってた銃を仕舞った。中身が麻酔の銃を。


「日本につき返してもきっと戻ってくるよ彼は。そういう男だからね」

「オレがいないと分かれば諦めるだろうさ…雲雀。ここでいい。降ろしてくれ」

「最後の仕事かい?」

「ああ」


きゅっと。タクシーは停止して。獄寺が出る。雲雀が窓を開けて獄寺を見上げる。


「…一体どんな取引したのやら。彼の抹殺指令が出たのは本当なんでしょ?なのに本当に彼を一般人に戻すなんて」


タネを教えてよ手品師さん。なんて素直じゃない子供のような事を言う雲雀に獄寺は思わず笑ってしまった。


「ぜってぇ、お前にだけは教えてやんね」


自分で見つけろと言う獄寺に雲雀は少しむっと来て。


グィッ


「――わっ」


獄寺のネクタイを思いっきり引っ張って。強引にキスをした。


「び、っくりしたー…何するんだよ雲雀!」

「彼の運び代。これくらいは貰わないと気が済まない」


きっぱりと言い切る雲雀に獄寺は呆れたような顔になって。


「はぁ…?こんなもんで駄賃になるのかねー…よく分かんねーわ」


まぁいいやと獄寺は笑って。雲雀と別れた。先ほども言った通り仕事に出かけるのだ。……最後の仕事に。

獄寺の身体は先ほど吐血したように既に危うい状態だった。薬で落ち着かせたがそれも一時凌ぎにしかならないほどで。



―――もう既に。助からないほどで。



これから行く所の戦いは決して勝ち目のあるものではない。…それこそ誰かが死ぬ気にでもならない限り。

だから獄寺はその役を自ら志願した。最後は自爆で。これはボンゴレに…いや、己の武器をダイナマイトにしたときから決まっていた事だ。

さぁ行こう。身体の痛みなんて気にならない。むしろ痛むという事はまだ自分が生きているという他ならぬ証であった。

後悔の念はない。自分の人生は充実していた。太く短く。結構な事じゃないか。

ボンゴレに入れた。10代目の右腕にもなれた。…山本を、堅気の世界に戻せた。

元々山本がマフィアになったのはそれはひとえに獄寺がそこにいたからで。だから獄寺がいなくなるのでは山本もまたボンゴレにいる意味はなくて。


獄寺にはどうしてそこまでして自分に執着するのが理解出来なかったようだが。


とにかく。山本を日本に返せた。上層部の情報を知りすぎている彼が無事に戻れるなんて。これは異例の事だった。

そしてそのあらゆるきっかけがどうやら自分にあるようで。獄寺にとってはなんとも複雑な気持ちでもあったが。


―――けれど。望みは叶えられた。これ以上何を望もう。


望めない…何も。もう十分すぎるから。

――さぁ、これから行くのは死に戦。けれど何処にも恐怖はない。

いざ参ろう。地より深い所にて、皆が来る日を待つ事にしよう。



――…ああ、けれどと獄寺は想う。一人だけもう会えない人物を。

…でも。それで良い。それが良い。彼には日向が似合ってるのだから。

獄寺はもう二度と逢えない彼と過ごした昔を思い出しては密かに笑って。そして太陽を見上げては眩しそうに目を細めた。


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さて、いくか。