白雪姫
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「もう嫌だ…」


と、白雪姫という二つ名で呼ばれる獄寺がテラスで嘆きました。

外見のみで言い寄ってくる男共(男!!!)も、自分の意見をまったく聞いてくれない姉も。全てが。


「…逃げるしかない…」


そう、悲痛な顔で獄寺は呟きました。そんな獄寺の身を包むのはシルクのドレスと煌びやかな宝石の数々。

いらない。こんなもの何一つとして望んだことはない。


獄寺の瞳に決意が宿る。


獄寺は城に来ていた狩人に頼んで城から出してもらうことにしました。

狩人は突然の獄寺の頼みに面食らったものの、すぐに応じてくれました。

姫は狩人と共に城から抜け出し、馬に乗せてもらい、深い森の奥まで連れて行ってもらいました。


「本当にここでいいのか?」

「いいんだ」


獄寺は当然のように頷いた。

逃げ先を選んだのは獄寺自身でした。狩人は隣町か、それとも海を越えた遠くの町まで、はたまた自分が獄寺を守りつつ生きていこうとすら思っていたのでかなり驚きました。

獄寺は物心付いたときからずっと、いいえ生まれたときから周りから奇異の視線に晒され続けていました。

銀の髪。碧の目。白い肌。周りの人間に綺麗だ、美しい、宝だと言われ続け獄寺の行動すら制限されました。


たとえばそれは、

帰りの遅い父親を出迎えようとしたり。


たとえばそれは、

病弱の母のためにあたたかいスープを作ろうとしたり。


たとえばそれは、

数少ない遊び友達の姉に柄もなく礼をしようと、花の冠を作ろうとしたり。


怒られた。


夜更かしをして、肌が荒れたらどうする、だの。

刃物や火を扱って、血を流したらどうする、だの。

外に出て攫われたらどうする、だの、虫に刺されたらどうする、だの、なんだのかんだの。


一見ただの過保護にも見える態度。

だけど、その実態はそんないいものではなかった。

城に来る客人の、自分を見る目。

それの意味が何となく分かった時、自分の立場が分かった気がした。


自分は、大事な商品なのだと。


その商品に傷が付くことは、とんでもないことなのだと。

つまり、それだけのことなのだと。

この世界では自分は人ではなく物なのだと。

それを知ってから、獄寺は心を殺した。


何もせずに過ごす日々が多くなった。

攫われそうなときも何度かあった。


人が怖くなった。


だから、城を抜け出ても町に行くことは嫌がった。

人はみんな同じなのだと。

だから、言っては悪いが狩人すら信じることが出来なかった。

獄寺は身に着けていた宝石全てを狩人に押し付け、森の奥へと足を進めた。