白雪姫
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それから、数ヶ月の月日が流れた。

獄寺も何もしないでいるだけというのは我慢ならないと家事を手伝ったりしていた。

無論失敗も沢山した。


ナイフで指を切ったり―――大丈夫かと慌てて手当てをしてくれた。そのあと、一緒に料理をした。

狩りの帰りが遅いのを心配して、帰ってくるまで外で待ったり―――こんな時間まで外で何をしてるんだと怒られた。だけど、事情を話すと心配させてすまないと逆に謝られた。

綺麗な花が咲いていたから、花の冠を作ったり―――ありがとうと言われた。とても喜ばれた。


ありがとう。


その一言だけがほしかったのだと、いいや、少しでも喜んでもらえればそれでよかったのだと。そうなのだと思い出してまた獄寺は泣いて、リボーンに心配を掛けた。

楽しかった。

生まれてきて14年。それまでで一番楽しかった。そう胸を張って言える時間だった。


だけど……


「白雪姫が、城から逃げ出たらしい」


不意に、そんな情報が入ってきた。

今まで隠し通していたのだが、ついに情報が漏れて近くの町までにもあふれたらしい。

それだけならまだしも。


「白雪姫を生け捕りにした奴には、報奨金を与える」


などという情報さえも。

獄寺は身を強張らせ、震えた。

情報はまだ止まらない。


「白雪姫は城の近くの森の奥にいるらしい」


情報源はあの狩人だろうか。いいや、それともまさか、逃げるところを誰かに目撃されていたのかも。

ともあれ…おしまいだ。

このままここにいたら、みんなの…リボーンさんの迷惑になる。


それだけは、獄寺は、嫌だった。


ならばどうすればいいのか、逃げればいいのか、無駄だ。逃げられるわけがない。

仮に逃げられたとしても…どちらにしろここは荒らされる。みんなの迷惑になる。

ならばどうすればいいのか…簡単だ。


帰ればいい。城に。


それで全てが解決する。

帰ってあの森は関係ないと…そう一言言って、もう逃げないと言って、従うと言って………

そこまで考えて、身体が震え落ちる。

立っていられない。

がたがたと震える身体が止まらない。


帰りたくない―――――


涙があふれる。

ここから出なくてはいけない、という気持ちと、ここから出たくない、という気持ちがごっちゃになる。

そこに、そんな心境の獄寺のところに。


「獄寺?」

「リボーン、さん」


リボーンが、声を掛ける。


「どうしたんだ?泣いているのか?…どこか痛むのか?」

「ちが…違うんです」


罪悪感に胸を強く抉られるような感覚を覚え、更に涙があふれる。


「オレは…あなたたちをずっと騙していました」

「………」

「オレは…城から逃げた白雪姫です。物扱いされる日々から逃げたくて、逃げて、ここまで来て……」

「………」

「すみ…ません、あの日、最初に会った日にすぐに…ここを出るべきでした。だけど、それが出来なくて…ここにいたくて、その結果リボーンさんたちに迷惑を掛けるはめになって……」

「お前の名前が獄寺だというのが嘘なのか?」

「いいえ…獄寺隼人はオレの本名です。白雪姫はオレの二つ名のようなもので……」

「オレたちとの生活が楽しくなかったのか?」

「いいえ…あなたたちとの生活は本当に楽しかった…まるで夢の世界だと思えるほど。それぐらい楽しかった…」

「なら、別にお前はオレたちを騙してはねーだろ」

「え…?」

「お前は一つたりともオレたちに嘘なんて付いてねーじゃねーか」

「でも、オレが何も言わなかったから、今この森は狙われていて……」

「オレたちも聞かなかったし、興味もなかった。何の問題もない。この森が狙われてる事だってな」

「え?」

「知ってるか?オレたちはアルコバレーノっていう世界でも数少ない小人なんだぞ」

「はぁ」


そのアルコバレーノという小人がどのような力を持っているのかは獄寺は知らず。

けれど、少なくとも森にちょっかいを出してくるような輩は一瞬で消えたらしい。