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音もなくドアを開ければ、向かいの開いた窓から風と一緒に数枚の花びらが通り過ぎた。

風に煽られてカーテンが揺れている。その下には一つのベッド。ベッドの中には静かに寝息を立てている銀髪の少年が一人。

靴音を立てず、ゆっくりとベッドに近付く。距離が縮まる。点滴が見える。チューブが見える。赤が見える。血だ。輸血の赤だ。

白を基調としたこの部屋で、その赤はこの部屋の中で一番映えていた。ベッドに横たわる少年…獄寺の肌は白い。髪は銀。病院服は薄い青。

ついでに言えば、その頭を巻く包帯も、身体のいたるところに張ってあるガーゼも白だ。


ここは日本にある、ボンゴレの息の掛かった病院。

獄寺がここに運び込まれたのは、つい先日のこと。

いつものように学校業務を終わらせ。

10代目と呼び慕うツナと下校し。夕暮れまで共に過ごし。


そしてその、帰り道の出来事だった。


マフィアに恨みのある者か、ボンゴレ10代目を狙う者か。誰かに雇われた暗殺者か―――――とにかく、獄寺は襲われ撃退するものの自身も負傷。現在に至る。

音を出さずに椅子を引き、座る。…風が少し強い。帽子が飛ばされそうになり彼は少し顔をしかめた。飛んだら困るので帽子を外し手に持つ。

風に合わせて獄寺の髪も揺れる。…少し長くなったかも知れない。前髪が少し鬱陶しそうだ。

そんなことをぼんやりと考えて。時間だけが過ぎていった。置時計の秒針が動く音が規則正しく静かな病室に響く。

そして…やがて。


「―――――っ」


静かに眠っていた獄寺が少し顔をしかめさせ、意識を取り戻す。その目がゆっくりと開き暫しぼんやりとした。起きたての頭で状況をどうにか把握しようとしているのだろう。

そして、それからまたゆっくりと顔を動かし彼の……リボーンの方を向いた。獄寺がゆっくりと言葉を紡ぐ。


「リボーン…さん……?」

「ああ」

「……昨日の夕刻…六時頃に男が……年は…」

「もう始末したから、そんな情報はいい。お前は回復に専念しろ」

「……………はい」


麻酔でも効いてるのか、口を動かし辛そうにしながらも頷く獄寺。しかしその顔は穏やかに微笑んでいて。


「…何がおかしい」

「そりゃ、目が覚めて隣にあなたがいたら……嬉しいですよ」

「オレで喜べるとは、めでたい奴だな。ここにいたのがツナだったらどうなったんだ?」

「…10代目には悪いですけど……リボーンさんの方が嬉しいです」

「ツナが聞いたら泣くな」

「そんなこと言わないでくださいよ」


弱々しく笑う獄寺に背を向け、リボーンは椅子から下りる。椅子が床と擦れる音と、小さな靴音が響いた。


「リボーンさん、どちらへ?」

「帰る」

「そうですか…お気を付けて。出来たら明日も来てくださると嬉しいです」

「…図々しい奴だな。お前」

「ふふ、10代目が「日本では病人は甘えてもいい」と教えてくれたので」

「お前は病人じゃなくて、怪我人だ」

「確かに」

「………でも、ま、気が向いたら来てやらんでもない」

「ありがとうございます。期待してます」


最後の獄寺の声には答えず、リボーンはパタンと音を立ててドアを閉めて行ってしまった。

あとにひとり残された獄寺は暫くリボーンが出て行ったドアを見て…やがてまた目を瞑った。身体が休息を求めているのが分かる。


視界を暗闇に預け、一人思う。


…もし、このまま眠って。次の日になって。

そして目が覚めたとき。今日と同じくあの人がいてくれたら…どれだけ幸せだろうと。

好きな人がいてくれたら、どれだけ幸せだろうと。


獄寺はリボーンを好いているが、リボーンはそうでないだろうとは獄寺にも分かっていた。

けれど気紛れなのか、それとも一応教師だからかたまに自分にも目を掛けてくれて。

違うのだと分かっていながらときめかずにはいられない。勘違いしてしまいそうになる。

獄寺は先ほどのリボーンとの会話を思い出しながら、意識を沈めていった。その頬を微かに桜色に染めながら。


明日を楽しみにして。


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そして陽は沈み、また昇る。