死せる彼と生ける彼
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荒々しい風が吹いていた。

それに乗って、血の臭いが漂っていた。

辺りには大勢の人間が倒れていた。

そしてもっと大勢の人間が武具を手に争っていた。

ひとり、誰かが倒れて死体のひとつに加わる。


銃声が鳴り響く。


その弾丸は真っ直ぐに。

その先には一人の男が。


誰かがそれに気付いて、怒声を浴びせながら男を突き飛ばした。


誰かと男の位置が入れ替わる。

その間にも弾丸は真っ直ぐに。

もう誰かによける術はなく。

その弾丸は真っ直ぐに。

彼の頭を弾けさせた。



その後彼の葬儀が行われた。

参列者は皆嘆き悲しみ、彼の人徳を示していた。

彼の死ぬ瞬間を間近で見ていた彼は参列していなかった。


興味がないと、自室で寝ていた。


こんな時になんて奴だ、と憤るものもいれば、

こんな時でも仕方のない人だ、と納得するものもいた。


誰にどう思われようと我関せずと、彼は己を貫く。

その日はそれで終わった。


その後も彼の死という傷跡を残しながらも滞りなく日々が過ぎた。

どれだけ傷が大きかろうと、それは時間がゆっくりと解決してくれる。

彼の死という傷は徐々に徐々に時が癒してくれていた。

そしてそんなある日のことだった。


死んだはずの彼が、彼の前に現れた。

いつも通りの態度で。当たり前のように。

近い内、大きな抗争があると聞くと「そりゃ楽しみだ」と笑っていた。

他の誰も彼が帰ってきたことに何の疑問も浮かんでないようだった。みな彼の生前と同じように扱っていた。


そして抗争の日となった。


主戦力である彼は戦場のいたるところで活躍した。

爆弾を使い、炎を使い敵を屠って行く。

そして、その時は唐突に訪れた。

それはまるで映画のワンシーンのように。

彼の眼前に広がる。


荒々しい風が吹いていた。

それに乗って、血の臭いが漂っていた。

辺には大勢の人間が倒れていた。

そしてもっと大勢の人間が武具を手に争っていた。

ひとり、誰か倒れて死体のひとつに加わる。


銃声が鳴り響く。


その弾丸は真っ直ぐに。

その先には一人の男が。


誰かがそれに気付いて、罵声を浴びせながら男を突き飛ばした。


誰かと男の位置が入れ替わる。

その間にも弾丸は真っ直ぐに。

もう誰かによける術はなく。

その弾丸は真っ直ぐに。

彼の頭をまるで熟れたトマトを握り潰したかのように。


弾けさせた。