それは懐かしい、そして初めての時間
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「それで、どうしたい?」

「はい?」


食事も、しておかねばならぬであろう話も終わり、オレは獄寺に問い掛ける。


「10年振りのこの世界で、何かしたいことはあるかと聞いてるんだ」

「何か…ですか」


獄寺はオレを見る。


「オレよりも、リボーンさんはどうなんですか? お仕事とか」

「今日はオフだ」

「でしたら、何か用事とか」

「お前を一人にしておけるか。誰かに見つかりでもしたらどうなると思う」


そう言えば、獄寺は大騒ぎになるでしょうねえ、とまるで他人事のように呟いた。

オレは大騒ぎどころじゃ済まないだろうよ、と内心で言う。

死んだはずの獄寺が、死んだ当時の姿で現れでもしたら―――しかも、恐らく夕暮れ時には消えるとまで知られたら。


想像すらしたくない。


「でしたら、まあ、一人隠れてますから、リボーンさんはどうかお好きになさって下さい」

「気を遣わないでいい。特に用事も入ってない」

「ですが…オレの相手など、したくないでしょう?」


そんなことはない。そう言ってやるのは簡単だし、そうでしたかと頷かせるのも簡単だろう。

とはいえ、こいつは信じないのだろうが。

オレはオレで、今までの…今まさに相対している態度の悪さで、まさか信じてもらえるなど思っちゃいないが。

勉強会の名目で二人、軽食を取ったことはある。何らかの集まりで大勢と共に食事会に出席したこともある。

が、先程のような、本当に純粋に…二人きりでの、ただの食事など、今日までしたことすらなかったというのに。

だからオレは別の名目で、こいつを納得させることにした。


「死んだはずの人間と過ごすのは、いい経験になりそうだ」

「ああ―――なるほど。リボーンさんはこうして伝説を作っていかれたのですね」


リボーンさんの武勇伝の一つになれて光栄です、なんて獄寺はあっさりと納得した。

オレが共に過ごしたいのは、価値があるのは自分ではなく、死んでいるのに今こうしている不可思議な現象の方なのだ、と言わんばかりに。


「話は戻るが、何かしたいことはあるか?」

「リボーンさんが見られた夢では、オレはどうしていたんですか?」

「オレとセックスしていた」


獄寺が飲んでいた紅茶を噴き出し、咽、カップを落とした。続いて陶器の割れる音。


「………とでも言えば、お前はオレに足を開くのか?」

「え、あ、ああ、か、仮の話でしたか…って、しませんよ! 何言ってるんですか!!」


今まで何を言われてもろくに感情を動かさなかった獄寺が取り乱す。頬を紅潮させ、汗を掻き、眼球は意味もなく辺りを見渡す。恐らく体温は急上昇している。

…この程度の発言で動揺するとは、どれだけうぶなんだ、こいつは。


「ま、こういうことを言われたくなかったら自分のやりたいことぐらい自分で考えろ」

「わ、分りました…ああもう、すみません、カップ割っちゃって…掃除掃除」

「いいから、放っとけ」


獄寺はなおも気にしていたが、やがて謝罪と同意の言葉を言い、考え始める。

あと、ここまで夢の通りだ。

考える獄寺は、しかしすぐに顔を悩ませ、困った顔をしてオレを見た。


「すみません。特に思い付きません」

「あいつらに会いたくはないのか?」

「オレの姿、見られるわけにはいかないでしょう?」

「陰からこっそりとなら行けるだろ。お前が望むならオレがフォローしてやる」


オレがそう言っても、獄寺は頷かない。困った顔のまま、否定する。


「そういうのは…恐らくは、してはいけないんですよ」

「会いたくないのか?」

「会いたいですよ。でも…オレだけみんなの姿を見ても、オレの姿を誰かが見ても、オレと誰かが話をしても……結局いいことは、起きないと思うんですよ」


言ったあと、獄寺は、あ、リボーンさんは別ですからね。と言った。別にどうでもいいが。


「なら、自分の墓にでも行くか?」

「線香持ってった方がいいんですかね」


自分に手を合わせるつもりなのか。こいつは。


「墓を掘り返したらやっぱりそっちにもオレがいるんですかね」

「多分な」

「…オレこそがドッペルゲンガーなのかも知れません。どうしましょう。本当のオレが死ぬ!」

「もう死んでるけどな」


そしてそもそも自分の墓を荒らそうとするな。