救い救われ
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その場所を通ったのは偶然で。

オレはそこが出会いの場所だということすら忘れていた。

オレにとってリボーンさんとの場所といえば、あの公園のイメージが強かったから。

だけどリボーンさんはしっかり覚えていたようで。

だからその場所に来たのは偶然でも、その話題を口にしたのは思うものがあったからだろう。


「獄寺」


踏切を通ってから、リボーンさんに後ろから呼ばれ、オレは振り返った。

リボーンさんは踏切を渡っておらず、オレと線路を挟む形でその場所にいた。

一年前、ほかならぬオレがリボーンさんに助けられた、命を救われた―――その場所に。


「…どうしましたか?」


オレがそう声を掛けると、リボーンさんは………静かな声で、声を届ける。


「もう、会うのはやめよう」

「え……」


オレは絶句した。

だって、そうだろ?

こんなこと、急に言われて。


「どうし、たんですか……リボーン、さん」

「オレといると、お前は駄目になるみたいだからな」

「駄目って…」


辺りに人がいないからだろうか。踏切越しで、そこそこの距離があるにも関わらず声がやけにはっきりと聞こえる。

今すぐリボーンさんのそばまで駆け寄りたいのに、足が地面に縫われたかのように動かない。


いや、そうではない。


手順を一歩でも間違えたら、その瞬間リボーンさんが消えてなくなってしまうかのような。そんな恐怖がオレの中にあった。

そんなオレの内心に気付いているのかいないのか、リボーンさんは言葉を続ける。


「まあ、異常なんだと気付くのにここまで時間がかかったオレもオレだが……お前。友達とか、家族とか、いないのか?」

「………」

「つっても、いないとしてもそれはそれで良い。いや、良いのか悪いのかは正直良く分からないが……それよりもお前、学校とやらはどうした」

「……………」

「お前ぐらいの年の奴は通ってるんだろ?だというのに毎日毎日オレと遊んで…いや、無論オレは感謝してるんだが、それとこれとは話が別だ」

「…………………」

「そういえばお前、オレと話をするとき携帯を使って周りの目を誤魔化していたが…それでも辺りの不信の目は変わらなかったな。あれは学校に通っているはずの子供がどうして街中に、という目だったんだな」

「………はっ」


今まで黙って聞いていたオレだったが、思わず笑ってしまった。

本当に、この人は―――何も分かっちゃいない。

そしてそんなところが、何よりも愛おしい。

なるほど、確かにオレには友などいない。作ろうとしたこともない。

家族はいるにはいるが、オレに金だけ与えて遠くに行った。どこにいるのか何をしているのかも分からない。知らない。興味もない。

そして、周りの目。

あの目の意味は、あいつらの目の真意は………


「あれは単に、オレを不気味がって、怖がって、気味悪がってるだけですよ」

「…む?」


リボーンさんが小首を傾げる。

意味が分からない。そういう顔だ。


「どういう意味だ?」

「そのままの意味ですよ」


―――カンカンカンカンカンカンカンカン


遠くから踏切の音が聞こえる。

その音は深く。意識することは出来ず、ただ目の前のことに…リボーンさんに集中する。


「リボーンさん、オレの目と髪。どう思います?」

「ん?どう思うって……」


リボーンさんはここまで分かりやすく言われてもやっぱり分からないようで、素直に嬉しいことを言ってくれる。


「綺麗だと思うが?」

「不吉なんですって」


他人の声のように、自分の声が聞こえる。

顔は恐らく笑っているんだろうけど、きっと薄っぺらい表情だろう。

リボーンさんが難しい顔をする。


「分からないものだな。どうしてそれが不吉なんだ?」

「さぁあ?オレにもさっぱり分かりません。ただ悪いことが起きればそれは全部オレのせいで、だからオレが罰を受ければそれで全てが解決するんだそうです」

「んな馬鹿な」