世界の終息
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(マジかよ)


獄寺が一番驚いていた。

自分が、あのリボーンを、出し抜くなどと。

ともあれこの幸運を無駄にしてはならぬと、獄寺は店まで急いだ。

目当ての物を買い、リボーンに怒られるだろうなと思いながら帰路に就く途中。

少しでも早く帰ろうと、路地裏に入ったところで。

獄寺は口元を抑えられ、裏通りへと引きずり込まれた。


「―――――!!!」


思わず叫び声を上げようにも声は出ない。

身体が固まるが、そのすぐ後に地面へと投げ出された。

相手を睨み付ける獄寺。

そこには下卑た笑いを浮かべる男が数人。


(なるほど…リボーンさんが言ってたのはこれか……)


確かに治安が悪くなっているようだ。

男たちの要求は自分の身体と、金目の物。


どちらもお断りだ。


何せどちらもリボーンのものなのだから。

毅然とした態度の獄寺に、男たちは嗤う。

女を屈服させるのが気持ちいいのだ、こいつらは。

飛び掛かってくる男たちを、獄寺は避け、あるいは弾いていく。


(リボーンさん直伝の護身術を舐めんなよ)


とはいえ、実戦はこれが初めてなのだが。何せ今まで使う機会などなかったのだから。

故に獄寺は少しずつ、しかし着実に追い詰められていく。

服は破れ、肌は泥で汚れ。しかし眼だけは殺気すら漂わせて。


自分に何かあれば、それはすべて世話係たるリボーンの責任となる。


自分の身勝手な行動で、リボーンの迷惑になる。

それだけは絶対に避けなければならない。

とはいえ、追い詰められてる事実は変わりない。

多勢に無勢。後ずさりするうち、背には壁が付く。

背水の陣。

それでも諦めるわけにはいかない。

眼に再度闘志を宿したその時。


「伏せろ」


声が、聞こえた。

言葉を理解すると同時、地に伏せる獄寺。

銃声が鳴り、辺りは急に静かになった。


獄寺が顔を上げると、声の通りにリボーンがいた。

リボーンが近付いてくる。


(怒られる…よなぁ)


きゅっと眼を瞑り、飛んでくる拳を待つ。

しかし。



「よく持ち堪えたな、獄寺」



降ってきたのはそんな優しい声と、リボーンの上着。


「え…?」

「ああ―――焦った」


リボーンが獄寺の隣に座り込む。見れば、リボーンの額には汗が浮かんでいる。


「オレを…探してたんですか? ずっと?」

「ああ」

「てっきり帰ったかと」

「帰れるか。お前を見つけるまで探し続けるさ」


やれやれ、とリボーンはため息を吐いた。


「…しかし、お前がこんな目に遭っていたのに駆け付けないとは、お前の想い人とやらはやっぱ駄目だな」

「え?」

「違うのか? オレを撒くぐらいだからてっきり逢引きでもしに行くのかと思ったんだが」

「いえ、その…ちゃんと駆け付けてくれましたよ?」

「ん?」


リボーンが獄寺を見る。次いで、辺りを見やる。


「…撃っちまったか?」

「いえ、そうではなく………」


これは…言い時かな。と獄寺は思い、息を吸い、覚悟を決める。



「リボーンさん」



ポケットから先ほど買った物を取り出す。…乱闘の最中でラッピングはぼろぼろになり中身が剥き出しになってしまっている。


「こんなになってしまって申し訳ないですが…どうぞ」


獄寺が差し出したもの。

獄寺が先ほど買い、チンピラに差し出すのを拒んだもの。

小さな箱。

開ければ、指輪が一つ。


「リボーンさん」


愛しき人の名を呼び、獄寺は告げる。



「オレの好きな人は…リボーンさんです」

「…なに?」



獄寺はリボーンの袖を掴む。


「好き…です。結婚して下さい」


言葉尻の声色は下がってしまった。

何故だか涙が出てきて、リボーンに見せないよう顔をうつむかせる。