世界の終息
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「………」
リボーンは、無言。
呆れられてしまっただろうか。
リボーンのため息が聞こえた。
振られる…だろうか。
それどころか、自分の世話係から外れるのを志願するかも。
(ああ、それはやだなあ…)
リボーンのいない生活など、考えられないのに。
やがて、声が、降ってきた。
「…獄寺」
その声は、優しくて。
思わず顔を上げる獄寺。
重力に従い、涙がはらりと落ちる。
「…泣くな、獄寺」
「だって…だ…って……」
自分だって、泣きたいわけでは、ないのだ。
なのに、涙があふれて、あふれて―――
リボーンが獄寺の頭を撫でる。
その指先も優しくて。
なのに。
「…お前の想いには、応えられない」
「………っ」
分かっていたはずだ。
覚悟していたはずだ。
なのにその言葉に、身体が貫かれる。
ぼろぼろと、涙が溢れて、零れる。
リボーンが困った顔をする。
(…泣くな、オレ)
獄寺はそう念じるが、涙は収まらない。
なれば、とリボーンの前から姿を消そうと獄寺は踵を返そうとする。
「こらこら。待つんだ獄寺」
しかしその腕を掴まれる。
…ああ、上着を借りたままだった。
「ああ、すいません、リボーンさん…」
「いや、それはそのまま着ていろ。自分の格好がわかっていないのか?」
言われて改めて自分の服装を見てみる。
男共が自分の服を引っぺがそうとしたのだろう、肩も足も丸見えとなっていた。
(…お気に入りの服だったのに)
今日は全く、ついてない。
「…オレの話はまだ終わっちゃいない」
これ以上何があるというのだろう。
自分が振られたことには、変わりないのに。
「…お前の想いには応えられないが…」
そう、何度も言われずとも分かっている。
だから、そう何度も言わないでほしい。
そう獄寺が思っていると…
「お前の面倒は、一生見てやる」
そんな、予想外の言葉が飛んできた。
「…なんですか、それ」
「お前の立場や年の差を考えてみろ。オレじゃ釣り合わないだろ」
「どちらも恋に関係ないかと思われますが」
「大有りだ」
「…立場なんて気にしてるの、リボーンさんだけですよ。オレは妾の子なんですから」
獄寺の言う通り、獄寺は愛人との子で、その立場は非常に弱いものだった。
「―――オレは屋敷を、追い出されたんですから」
母親が亡くなってから渡されたのは、多額の金と、最低限の使用人。
使われなくなった別荘地に追いやられ、後は好きにしろと、そう言われた。
それで、父親との会話は終わった。姿を見ることも。
…久々に、嫌なことを思い出した。
「………」
リボーンが少しだけ痛ましそうに獄寺を見る。
そして。
「ああ―――もう、そんな顔をするな」
抱きしめられた。
「リボーンさん…?」
「一生、お前の面倒を見る。…ずっと、お前の傍にいる。……それで勘弁してくれ」
「………」
それは、それは獄寺にとって願ってもないことのはずだ。
そも、事の始まりはリボーンがどこか遠くへ行ってしまうかもしれない、というそんな思いからきているのだから。
だからずっと隣にいると言ってくれて万々歳―――そのはずだ。
だけど。
「え。嫌ですけど」
「…お前なあ……」
もう、理屈ではなくなっていた。
獄寺はリボーンの事が好きなのだから。
「オレはリボーンさんと結婚したいです。指輪もちゃんとリボーンさんの薬指に合うサイズにしてきました」
「…お前が贈る側なのか…」
獄寺はやることなすこと男らしかった。
「…この話はもう終わりだ」
「えー」
「もうこんな無茶するなよ」
「誓えばキスしてくれますか?」
「お前…」
流石に調子に乗りすぎたかと獄寺が軽く笑うと、
その肩にそっと手が寄せられ、
リボーンとの距離がゼロとなった。
「リ―――――」
「そんな恰好じゃあ出歩けないな。代わりの服を買ってくる」
リボーンは自分の帽子を獄寺の頭に間深く被せると早口にそう言って足早に行ってしまった。
「………」
獄寺は自分の唇に指を寄せる。
自分の身に何が起きたのか。リボーンが自分に何をしたのか理解して。
顔を真っ赤にしながらも、笑みを浮かべた。
リボーンはすぐに戻ってきた。
買って来てくれた服に素早く着替え、リボーンに引っ付きながら帰った。
自室に戻ってから気付いたが、ポケットに何か入ってある。
それはリボーンにあげた指輪の箱と同じで。
突き返されたかな、と思ったが中を見れば違う指輪だと分かった。
同じデザインだがサイズが違う。
その指輪は、獄寺の薬指にぴったりのサイズだった。
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なおリボーンさんは指輪を付けませんが箱ごといつも持ってます。
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