それはたかだか夢の話
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どうやら、獄寺はオレに好意を持っているらしい。

厄介な話だ。


何故かツナに睨まれる。

どうやらオレの獄寺に対する態度に腹を立てているようだ。

何故、あいつにばかり冷たく当たるのかと、そう問い詰められる。


そう言われてもな。

オレにはオレの都合ってもんがあるんだ。


誰に何と言われようと、どう思われようとオレはあいつに対する態度を変えなかった。

そして、それでもあいつはオレから離れようとはしなかった。変わらずオレに好意を持っていた。

ああ、厄介な話だ。


いっそ、離れてくれれば楽なのに。

嫌ってくれて、構わないのに。


オレは夢を見る。毎日夢を見る。


それはいつかの未来の夢。いつか起こるであろう予知夢。

といっても、その予知夢が当たったためしはないが。

そうならぬようにオレが行動しているから。

ああ、もう、本当、なんでなんだろうな。


なんでオレがお前の伸ばす手を取ると、

なんでオレがお前に優しくすると、

なんでオレがお前の想いに応えると、


なんでお前は死んでしまうんだろうな。

なんで、オレがお前を殺しちまうんだろうな。


このことを誰かに言ったならば、たかが夢だと、それを本気に取るなんてと笑われるだろうか。

だがあの夢は、あまりにもリアリティがありすぎて、なんてことのないただの夢で済ませるには生々しすぎて。

お前に素っ気ない、冷たい態度を取る日々が続く。それは永遠に続くかとも思われた。


が、その日々はあっさりと終わりを告げた。

当たり前だ。永遠なんてあるわけがないのだから。


本音を殺し続けた日々は、お前の死という形を持って終わった。


お前の手を取ろうが取るまいが、想いに応えようが応えまいが、結局行きつく先は同じだった。

だったら、とオレは思う。

だったら、どちらにしろ死ぬのであれば、


オレが、お前を殺した方がよかっただろうかと。


…どうして、オレはお前を守れないのだろう。

殺すか見殺しにするかの、選択肢しかないのだろう。

獄寺が、死にかけの身体でオレを見ている。

もう立ち上がることすら出来ず、力のない腕をオレに向けて伸ばしてくる。

オレは、手を出さない。

そうしていると、獄寺が薄く笑う。


「……オレがこんな姿になってなお、手を差し出してはくれませんか」


オレは、と小さな声で獄寺が続ける。

掠れた声で、小さな声で、けれどオレの耳にははっきりと届く。


「オレは…別に、あなたに殺されるのであっても、構わなかったのですけどね」


気付いていたのか、察していたのか、確信を持った口調で、どこか拗ねた声色で獄寺がそう言う。

オレはため息を吐いて、言ってやる。


「…お前がよくても、オレがよくないんだよ」


好きな奴を自分の手で殺すだなんて。

そう言ってやれば、

獄寺は、


ああ、と息を吐いて。

なるほど、と頷いて。

あれ、と首を傾げて。


もしかしてオレ、今嬉しいこと言われました? と少しはしゃいで。


笑って。

咽て。

血を吐いて。


その身を赤黒く染め上げた。


獄寺は力の消えかけた眼でオレを見上げる。

その口からは、もう声は出ておらず。

ただ、その唇は確かにオレの名を刻み。


「―――――」


最後に一言だけ何かを呟いて、そして獄寺は終わった。


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どうすればよかったかなんて、そんなの誰にもわからない。