手のひら
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「弱いくせに、強い奴に立ち向かって。一人がいいくせに、群れて。―――世の絶望を知ってるくせに…生きたがって」
なに、言って…
「その傷ではもう助からないって自覚しているのに。それでもまだ生きてるのは……何故?」
はぁ…?
「その傷では激痛を味わうぐらいしか出来ないって分かってるのに。それでも生きたがっているのは……何故?」
…随分な言いようだな。確かにオレはもう死ぬだろうし…身体も、滅茶苦茶痛いけど……
なんで生きてるって、生きたがってるって。そりゃ、お前…
………あれ?
本当だ…なんで、オレ―――生きてるんだろう。
オレは気を失った。傷を負って。…たしか、夕時だった。
そして…気付いた時には、起きた時には。月が出ていた。
普通…死なないか?そんなに寝てたら。出血多量か何かで。
「そうまでしても生きたいの?」
そう…なるだろうな。身体はいつ死んでもおかしくないのに、でも生きているのだから。
「もう、休めばいいのに」
―――って、いきなり何言い出しやがるこの野郎。必死で生きようってしてる奴に死ねってか。
「キミ、働きすぎなんだよ」
…いいんだよ、オレがやりたくて、やってるんだから。
「少しぐらい怠けてもいいのにって。綱吉愚痴ってたよ」
…10代目がそんなことを?
「それどころか、一度ぐらいは任務に失敗したキミを慰めてみたかったって」
………。
「ねぇ」
あ…?
「キミはそれほどまでに想われているんだよ?」
「たとえキミが死んだとしても。その想いも死ぬ訳じゃないんだよ?」
「…キミの居場所は、決して消えはしないよ?」
「―――キミの屋敷は、どうだったのかは知らないけど」
…こいつ、一体どこまで知ってるんだ?
「だから」
すっと。目蓋の上に何かが乗せられる。…手のひらだ。
「もう休みなよ。…見ているこっちが痛々しい」
―――けっ
言われなくても。すっげぇねみぃんだよ。オレは。
両手足の感覚もないし。動かないし。
…だから、これは別にお前に言われたからじゃないからな。
一瞬だけ気を抜くと、どっと何かに引き摺り込まれるような感覚が身を襲う。
それに抗う事も、もうオレには出来ず。そんな中思い出されたのは昔の…あの屋敷での出来事。
―――成功する事でしか己の理由が見つからなかったあの屋敷。
………失敗すると、己の存在価値が消えてしてしまうあの屋敷。
オレが失敗したのは、ただの一回。それで失敗する、という事を知ったから。
あの眼は。今でも忘れられない。
まるで壊れた玩具を見るような、あの眼は―――
きゅっと、オレの思考を遮るように目蓋の上の温かいものが動く。続いて声が降ってきた。
「余計な事考えない」
そう言われただけで思いが霧散する。沈むような感覚が消える。
……情けねぇ。こんな弱いところ、よりにもよってこいつに見られるなんて。
沈む代わりに、今度は浮き上がるような、身体が軽くなっていくような感覚に身を包まれて。
あーオレ、そろそろ本気でやばい?
消え行く思考に、薄れ行く感覚に、けれど恐怖は覚えない。
こいつの手で作られた暗闇の中、オレはその温かな感覚を追い掛けて―――…
++++++++++
きっと子供の頃から、休む事を知らなかったキミ。でもようやく眠れるね。
もう目覚めなくともいい。この醜い、汚い世界で。キミはよく生き抜いた。
御休み為さい、獄寺隼人。…柄じゃないけど、キミの為に願ってあげる。
―――――どうか、良き夢を。
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