手遅れ
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僕の仕事は呆気なく。…本当に呆気なく終わってしまった。
やれやれ。これは彼の元へ急げって言う神の啓示なのかな。そう自身に都合よく解釈してしまう。
そういえばここ数週間逢ってなかった。最後に逢ったのはいつのことだっただろうか。
思えば想うほど。逢いたくなって。居ても立ってもいられずにその場を後にして彼のいる国へと急いだ。
彼が今持ち受けている仕事は確か敵対ファミリーの壊滅…だっただろうか。
全く、甘い彼のこと。また生傷を大量に受けてくるのだろう。
…急いで彼の元にいこう。それでも既に怪我をしていたら問答無用で持ち帰ろう。
彼が何を言おうと構うものか。
そのときまでは。そんなことを―――暢気にも思っていた。
分厚い雲が空を覆い隠していた。
星も月も出られない。辺りの街の明かりも消え失せてしまっているかのように見当たらない。
光のない中、音もない。
彼も仕事を終わらせてしまったのだろうか?そしてもう引き上げたのだろうか。
しかし…それにしては…どこか違和感が。
…少しだけ、辺りを見てみようと思った。何もなければそれもまた良し。自分も帰れば良い。
そう思って、暫く辺りを歩いてみると…足元の何かに掬われそうになる。
それは…恐らく数時間前までは動いていたものだろう。けども今は硬くなって。僕の行く末を邪魔している。
…この道の先に、一体何があるというのか。
何もない…そのはずだ。
けれど何故。
僕はこの光景をどこかで見たことがある…と、そう思ってるんだろう。
この地は初めて来たはずだ。
だから身に覚えなんてあるはずないのに。
歩く。進む。
何もないことを確かめに歩きにくい道を進んでいく。
踏み出した右足が、何かを踏んで。それがぶちゅりと不快な音を出した。
それすらも気にせず。ずっとずっと先を進んでいくと―――
どこかで見た覚えがあるような、小さな光が。
その光の先に、彼がいた。
彼は血塗れで、その場に座り込んでいた。
「………、」
名前を呼ぼうとして、気付く。
やっぱり自分は、この光景をどこかで見たことがあると。
けれどそれを…いつ見たのか。どうしても思い出せない。
そうしている間に、彼はこちらの気配に気付いたのか…ゆっくりと顔を上げた。
口元に揺れる煙草。どうやら先程の光はこれだったらしい。
それを咥える力すらないのか、煙草は彼が顔を上げると同時に落ちた。
「…あれ?なん、で…雲雀が……ここに?」
思ったよりも掠れた、小さな声だった。
ぼたぼたと、彼の体内から溢れた血が零れる。地に落ちる。彼の身体から逃げていく。
「ぁ――…そっか」
…いけない。
「これ夢か」
…言わせては、いけない。
「お前がここにいるはず…ねぇもんな」
止めないと。
「夢なら――…何言っても。いいかな」
どうにかして止めないと。
「雲雀」
なのに、僕の身体は固まってしまったかのように動かなくて。
「…内緒だったけど、」
ここでようやく身体が動く。僕は必死に手を伸ばして。
「―――好きだった」
だけど彼には届かなくて。
「じゃあな」
彼の身体は崩れて。
僕の手はそこで彼に届いたけど。
彼の身体はぞっとするほど冷たくて。
彼の口からはもう言葉は出てくれなくて。
彼の瞳はもう何も映してなくて。
そして夢は。二度と醒めなかった。
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まったく、勘弁してよ。
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