それだけで・・・
2ページ/全2ページ


「―――やあ」

「な、え?雲雀…?」


彼は驚く。まぁそうかもね。

僕はトンファーで牢の入り口を壊して入る。彼は酷く痛めつけられていた。


「あーあ。痛そう。大丈夫?」

「な、あ、馬鹿!オレはもう死ぬんだ!毒で…」

「知ってる。全部赤ん坊に聞いたから」

「分かってるんならどうして!」


…分かんないのかなぁ。この子は。

ぎゅっと僕は彼を抱きしめる。華奢な身体がすっぽりと僕の腕に収まった。

うん、そう。これこれ。僕の求めていたもの。


「……随分と冷たい身体だね。毒のせい?」


彼の身体は不自然にかたかたと震えていた。まったく、誰?人のものを勝手に壊して。


「雲雀…逃げろ」

「なんで?」

「なんでって、分かるだろ!?オレは長くない!オレはここで死ぬんだ!だったら、お前だけでも…」

「嫌」

「雲雀…!」


ああ、もう。まったく。10年も付き合っているのに彼は未だに僕のことを理解してない。


「…僕にとってはね、生とか死とか。そんな事はあまり重要じゃないんだよ」

「……?」

「僕にとって重要なのは、ここに。僕の腕の中にキミがいるかどうか。それだけなのさ」

「雲雀…」


だから、と。僕は更に彼を抱きしめる力を強めて…


「僕、もうキミから離れる気なんて。ないから」


そう、宣言した。


…それに。僕だって、もう長くないしね。


一人でマフィアに乗り込むなんて自殺行為して。無事ですむわけがない。

僕の身体中は、きっと血塗れの穴だらけ。まったく、痛いのは苦手なのに。

それに背後は既に炎で覆われていて。最早逃げることも出来ないだろう。

そのことが分かったのか、彼は困ったような、戸惑ったような。そんな顔をして。やがて諦めたように僕に身を預ける。


―――さぁ、ここまで来たら二人を別れさせるものなんて、そんな野暮なものはなし。


これからはきっと。ずっとキミと一緒。

このファミリーの後始末は彼らに任せよう。きっとそろそろ動き出しているはず。僕らが頼まなくても、きっと壊滅させてくれる。

キミはどうか知らないけど、僕としては結構満足。

何故なら僕は、キミといるだけで。それだけで幸せだから。


++++++++++

つまらない世の中にさようなら。