飢え
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―――ああ、そうか。やっぱりこいつは…


「…最後だ。オレの部下はどうした?」


部下?とわざとらしく首を傾げる内藤。ああうぜぇ。


「―――ああ!獄ちゃんの宝物かぁ!うん、そりゃあ気になるよね!だって大事な物だもん!!」


…さぁ、狂気の終止符まで秒読みでもしようか。3、2、1…


「ごめんねぇ☆獄ちゃんの大事な大事な宝物」


リボルバーに手を向けて。


「―――壊しちゃった☆」


撃った。もう我慢の必要はない。

奴もオレの動きは予想してたようですぐに避けた。オレは続けて更に撃つ。


「わっわ、獄ちゃん積極的過ぎ!そんなにオレを独占したい?」

「…ああ、二日もダンスの練習させちまって悪かったなぁ。踊ろうぜ?楽しいパーティなんだろ?」


撃って撃ってまた撃って。ああ、あいつの笑い顔が憎らしい。殺したい。

向こうからも銃弾が飛んできた。死体に足を取られて血で滑って。すっころんでそれで結果的に避けた。

けれどそこを見逃す奴ではない。獣のような速さでオレに迫ってきて。鋭いナイフがオレの皮膚を裂いた。

血が吹き出て。にやりと笑う内藤―――毒かっ!?

一瞬そう思って強張るも、内藤はいきなりオレの傷口に舌を這わせてきた。


「な―――にしやがるっこら、離れろ!!」


けどどれだけ力を入れて抵抗しても内藤は離れようとはせず。ただただオレの傷を舐めるだけだった。

…その内藤の顔が悦に浸って笑っていて―――何とも。不快だ。

オレは内藤の頭に銃を向ける。


「…離れろ。今離れたら三秒だけ時間をくれてやる」


そう言って脅しても奴は怯まず。そうかと思えばいきなり顔を上げて。…その顔は、無邪気に笑ってて。


「あー…やっぱ獄ちゃんじゃないと駄目だ」

「あ…?」

「獄ちゃんじゃないと。オレの渇きは癒せない」

「何言ってんだてめぇ」


奴は幼い笑顔で、けれどその口周りはオレの血で汚れてて。なんてアンバランス。


「オレずっと渇いてたんだ。それがずっと癒えなかった。どんなに旨い肉を喰っても、どんなに濃厚な赤ワインを飲んでも」


奴の目は既にオレを見ちゃいなかった。頭に拳銃を突きつけられているのに。そのことに対する恐怖を微塵にも感じてなかった。


「けど、人の血を浴びると少しだけ癒されて。だから殺しまくったんだけど、でも回数をこなすごとにやっぱり渇いて」


ああ、だからこいつは人間を殺しまくったのか。倒れてみてはじめて分かる。壁どころか、高い天井でさえ。どんな手段を使ったのか血が届いていた。


「そして思い出したんだ。まだオレがガキだった時。オレと一番近しかった子を。オレと同い年の、銀の髪が綺麗な子を」


…もしかして、そいつはオレか?ふざけるな馬鹿。誰が誰と近しかったんだ?その理由を言ってみろ。


「その子はオレ以上にマフィアをしていて、なのにオレ以上に日常に溶け込んでて。そして何より綺麗で」


お前の美的感覚で言われても嬉かねぇよ。そしてそれ以前に男相手に綺麗言うな。


「獄ちゃんの血は何でこんなに美味しいんだろ。………あ、そうか」


飽きもせず、オレの傷口に口付ける内藤。そうかと思えばいきなり顔を上げる…まったく、忙しい奴だ。


「そっか…オレ、獄ちゃんのことが好きなんだ」


はぁ?

内藤は呆気に取られているオレに目も止めず、うんうんと大袈裟に頷いている。


「そっかそっか、なるほどなぁ。オレ獄ちゃんが好きなんだ…うん、好きに性別は関係ないよね!!」


そんな事を笑顔で言われても困る。こいつは一体何がしたいんだ。


「…お前なぁ、殺し合いの相手に何ふざけたこと言ってんだ。馬鹿が」

「えー?でも獄ちゃんもオレの事好きでしょ?」


………はぁ?


「なに言ってんだ、とうとう認識レベルで頭がいかれたか」


そう罵っても内藤は笑うだけで。そして笑いながら。


「えー?だってさぁ」



―――だったら何で獄ちゃん、オレを撃たないの?



そんな、事を言うから。


―――――パンッ


撃った。こいつと縁切るために。