飢え
2ページ/全3ページ
―――ああ、そうか。やっぱりこいつは…
「…最後だ。オレの部下はどうした?」
部下?とわざとらしく首を傾げる内藤。ああうぜぇ。
「―――ああ!獄ちゃんの宝物かぁ!うん、そりゃあ気になるよね!だって大事な物だもん!!」
…さぁ、狂気の終止符まで秒読みでもしようか。3、2、1…
「ごめんねぇ☆獄ちゃんの大事な大事な宝物」
リボルバーに手を向けて。
「―――壊しちゃった☆」
撃った。もう我慢の必要はない。
奴もオレの動きは予想してたようですぐに避けた。オレは続けて更に撃つ。
「わっわ、獄ちゃん積極的過ぎ!そんなにオレを独占したい?」
「…ああ、二日もダンスの練習させちまって悪かったなぁ。踊ろうぜ?楽しいパーティなんだろ?」
撃って撃ってまた撃って。ああ、あいつの笑い顔が憎らしい。殺したい。
向こうからも銃弾が飛んできた。死体に足を取られて血で滑って。すっころんでそれで結果的に避けた。
けれどそこを見逃す奴ではない。獣のような速さでオレに迫ってきて。鋭いナイフがオレの皮膚を裂いた。
血が吹き出て。にやりと笑う内藤―――毒かっ!?
一瞬そう思って強張るも、内藤はいきなりオレの傷口に舌を這わせてきた。
「な―――にしやがるっこら、離れろ!!」
けどどれだけ力を入れて抵抗しても内藤は離れようとはせず。ただただオレの傷を舐めるだけだった。
…その内藤の顔が悦に浸って笑っていて―――何とも。不快だ。
オレは内藤の頭に銃を向ける。
「…離れろ。今離れたら三秒だけ時間をくれてやる」
そう言って脅しても奴は怯まず。そうかと思えばいきなり顔を上げて。…その顔は、無邪気に笑ってて。
「あー…やっぱ獄ちゃんじゃないと駄目だ」
「あ…?」
「獄ちゃんじゃないと。オレの渇きは癒せない」
「何言ってんだてめぇ」
奴は幼い笑顔で、けれどその口周りはオレの血で汚れてて。なんてアンバランス。
「オレずっと渇いてたんだ。それがずっと癒えなかった。どんなに旨い肉を喰っても、どんなに濃厚な赤ワインを飲んでも」
奴の目は既にオレを見ちゃいなかった。頭に拳銃を突きつけられているのに。そのことに対する恐怖を微塵にも感じてなかった。
「けど、人の血を浴びると少しだけ癒されて。だから殺しまくったんだけど、でも回数をこなすごとにやっぱり渇いて」
ああ、だからこいつは人間を殺しまくったのか。倒れてみてはじめて分かる。壁どころか、高い天井でさえ。どんな手段を使ったのか血が届いていた。
「そして思い出したんだ。まだオレがガキだった時。オレと一番近しかった子を。オレと同い年の、銀の髪が綺麗な子を」
…もしかして、そいつはオレか?ふざけるな馬鹿。誰が誰と近しかったんだ?その理由を言ってみろ。
「その子はオレ以上にマフィアをしていて、なのにオレ以上に日常に溶け込んでて。そして何より綺麗で」
お前の美的感覚で言われても嬉かねぇよ。そしてそれ以前に男相手に綺麗言うな。
「獄ちゃんの血は何でこんなに美味しいんだろ。………あ、そうか」
飽きもせず、オレの傷口に口付ける内藤。そうかと思えばいきなり顔を上げる…まったく、忙しい奴だ。
「そっか…オレ、獄ちゃんのことが好きなんだ」
はぁ?
内藤は呆気に取られているオレに目も止めず、うんうんと大袈裟に頷いている。
「そっかそっか、なるほどなぁ。オレ獄ちゃんが好きなんだ…うん、好きに性別は関係ないよね!!」
そんな事を笑顔で言われても困る。こいつは一体何がしたいんだ。
「…お前なぁ、殺し合いの相手に何ふざけたこと言ってんだ。馬鹿が」
「えー?でも獄ちゃんもオレの事好きでしょ?」
………はぁ?
「なに言ってんだ、とうとう認識レベルで頭がいかれたか」
そう罵っても内藤は笑うだけで。そして笑いながら。
「えー?だってさぁ」
―――だったら何で獄ちゃん、オレを撃たないの?
そんな、事を言うから。
―――――パンッ
撃った。こいつと縁切るために。
次
前
戻