飢え
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距離はゼロだったはずなのに奴は生きていた。外した。馬鹿みたいな速さで避けやがった。まったく、あいつは化け物か。


「………酷いなぁ、獄ちゃん」

「てめぇがワケ分かんねぇ事言うからだろ。馬鹿が」

「馬鹿って言った方が馬鹿なんだよん」


そんな子供の屁理屈を言って。内藤はこめかみから流れていた自分の血を拭って舐めた。とたんに不機嫌になる内藤。


「…やっぱり獄ちゃんじゃないと駄目だ。オレの血は不味過ぎる」

「オレの血はてめぇの餌じゃねぇんだよ基地外野郎。そんなに全てのもんが不味いってんなら餓死して死ね。今のてめぇには弾丸すらもったいねぇ」

「獄ちゃんにオレが殺せるのかにゃ?」

「馬鹿言うな。狂人相手にオレが何の躊躇いを持つってんだ」

「―――きょー、じん?」


内藤の表情が変わる。急に殺気を放ってきた。


「へぇ…獄ちゃんも、あいつと同じ事言うんだ」


あいつ…誰のことだろう。何故か風車を使ってたあいつを思い出した。


「ちょっと怒っちゃったよ獄ちゃん。骨の一本二本で済むと思わないでね」


うるせぇよ。


―――パンッ


撃つ。かわす内藤。


パパンッ


更に撃つ。避ける内藤。銃弾の壁にするように柱に隠れた。

…だからお前は狂ってるって言ってんだよ。

お前は誰に招待状を出したのか、もう覚えてないのか。

柱に隠れたということは、その時だけはこちらの情報がまったく掴めない状態になるということで。

オレは内藤が消えた柱に向けて、愛用の武器のダイナマイトをぶん投げた。

内藤がそれに気付くが―――遅い。

奴が飛び出す前にオレはダイナマイトを撃った。銃の摩擦熱がダイナマイトを刺激して―――


大きな爆発音が、鳴り響いた。


…死んだ、か?

あれから数分。何の音沙汰も見せない爆破された瓦礫の山を見てオレは小さく息を吐く。

…ったく何なんだあの馬鹿の殺気は。死ぬかと思ったじゃねぇか。

でも判断を欠いた奴の負けだ。負けはすなわち死を意味する。


「…あの世でてめぇの部下と。オレの部下に詫びを入れてきやがれ」


一応死体の確認をしようとオレは瓦礫の山をどかして行く。

大きな柱の塊。それの下に無残な姿になった内藤がいるはずだ。

それをどかす。


「―――っ!?」


大量の血があるだけで、それを流したであろう内藤はいなかった。どこにも。

慌てて気配を探って―――


ザシュッ


背に衝撃。そして激痛。


「の――やろ…」


血が、口から零れて。世界が回る。


「油断…大敵、だよ。獄ちゃん」


耳元で囁かれているはずのそれは何故か遠くから聞こえてきて。

狂った馬鹿の耳障りな笑い声に鼓膜を刺激されながら、オレの意識は暗闇へと沈んでいった。


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漆黒と銀と気狂い」へ続く。