あなたからの「自由」
1ページ/全1ページ


あなたは死ぬ寸前、「キミはこれから自由に生きて」とオレに言いましたね。

オレはそんな言葉、ほしくはないというのに。


「お前はどうするんだ?」

「…え?」


そうリボーンさんが声を掛けてきたのは、10代目が亡くなられてから暫く経ってから。

10代目を亡きものにした憎きファミリーを根絶やしにし、10代目の葬儀を終わらせたあとだった。


「どう、とは…」

「お前はここに残るのか、それとも去るのかと聞いているんだ」

「………」


10代目の亡き今、ボンゴレは揺れていた。

今まで通りボンゴレに残るもの。去るもの。故郷に帰るもの。

オレはというと、今この瞬間、リボーンさんに問われるまで考えたこともなかった。

10代目の亡き今ボンゴレに執着はない。帰る家もない。

リボーンさんは去るという。元々はフリーのヒットマンだ。むしろ今までよくいてくれたと思う。

オレは今リボーンさんの見送りをしているところで。そこで問われた言葉だった。


「オレは……」


呟くも、それ以上言葉が出てこない。

どうするかなんて、考えられない。

リボーンさんはため息を吐き、帽子を目深く被り直してオレに言った。


「なんなら、オレと来るか?」

「リボーンさん?」

「お前、目を離したらツナの後を追っちまいそうだからな」


これ以上生徒に死なれたらへこむ。とリボーンさんが呟く。


「………」


オレは思わず一歩足を踏み出していた。


「獄寺?」

「…その言葉が冗談でなければ。…着いていっても、いいですか?」


10代目という支えを失って、オレの心は壊れそうだった。

誰でもいいから、縋り付きたかった。

手なんて差し出されたら、掴むしかなかった。

…その手を振り払われたら、オレはきっとリボーンさんの予想通りに10代目の後を追うだろう。

リボーンさんの言ってしまったその未来に、オレは身を差し出すだろう。


だって、10代目のところに行けるだなんて。なんて幸せ。

もう一度10代目と会えるなら、オレは何だってするだろう。

何だって……


「こら」


リボーンさんの声で正気に返る。

見ればリボーンさんに睨みつけられていた。


「今、何を考えていた?」

「いえ…」

「ったく」


呆れた声を出してリボーンさんは背を向ける。オレはそれを見送る。

数歩歩いて、リボーンさんが振り向く。


「来ないのか?」

「え?」


オレは呆けた声を出してしまって、リボーンさんを見返してしまう。

………もしかして。

本当に…着いていって、いいのだろうか。

リボーンさんはそんなオレを見てまたため息を吐いた。


「準備がいるってんなら待っててやるから、早くしろ」

「は、はい!!」


こうして、この日。

オレはリボーンさんと共にボンゴレから旅立った。


それからオレは、リボーンさんに弟子入りした。

10年前は叶わなかった、リボーンさん直々の指導。

あの頃はオレだけリボーンさんに指導されなくて、それが少しだけ不満だったけど。あの頃のオレがこれに耐えられたとは思えない。10代目はよく耐えられたものだ。

激しく、厳しい。少しのミスで罵声が飛び、拳が飛び、銃弾が飛んでくる。


オレはそれに着いていくのに精一杯で。

いつも気を失うように眠ってた。

夢も見ないほど深い眠り。

考える暇もないほど忙しい生活。


もしかしたら、それはあなたなりの気遣いで、優しさだったのかも知れませんね。

あなたが隣にいてくれたときは、息を吐く間もないほどの訓練を受けていたときは。10代目のことを思い出さずに済みましたから。

時間が経つにつれ、いつしかオレはあなたに依存していきました。


まるで10代目の代わりにするように。


だから、きっと罰が当たったんですね。

ある日、起きたらあなたはどこにもいませんでした。

「お前はもう大丈夫だ。自由に生きろ」なんて置き手紙を残して。


要らない。


あなたからの「自由」なんて要らない。

オレが求めるのは、あなたからの「束縛」


++++++++++

オレは羽をもがれた小鳥で構わない。

だからどうか、あなたの傍にいさせてください。