絶望の足音
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血が止まらなくて。意識が朦朧として。

けれど、オレは自分のけじめぐらい、自分でつけて、見せますよ?


カツンカツンと音がして。気配が近付いて。そして遠ざかっていく。

その度にオレは深くため息を吐く。それは見つからなかったという安堵からか、それとも―――

コツンコツンと音がして。気配がオレのすぐ後ろに来たから、オレは迷わず撃った。

サイレンサー付きのそれは何の音も立てず。ただオレのところに来たそいつが人形のように倒れて。

―――ただ、そいつの胸元から溢れ出る血潮の咽せ返るような臭いが何とも不快で。

そいつが倒れると同時に、オレは走り出す。ここはもう駄目だ。すぐに追っ手が来る。


もう奴らに捕まってはいけない。捕まれば最後、ボンゴレに多大な犠牲が出るだろうから。


…今から数時間前、オレは不甲斐ないことにとあるファミリーに拉致られた。

奴らの目的はボンゴレへの復讐。オレを待ち伏せていたところを見ると、全ては計画しての行動らしい。

……けれど。奴らにも計算外のことが起きた。

それは部下の反発だったり、別件の任務での失敗だったりと軽いもので。

―――けど。油断したあいつらから逃げ出す事ぐらいは出来て。


「………て」


痛い。身体のあちこちが。痛くないところを探す方が難しいほど、オレは痛めつけられて。

足も、腕も。片方ずつ折れていて。それは歩くというより這うような。そんな身体を叱咤しながら、オレはある所を目指していく。

…建物の構造なんてどこもかしこも似たようなものだ。だからそこに行くルートもきっと同じ。

その証拠に、やがてオレは目的の場所に辿り着いた。

強い風が吹いていて。折れた腕が揺らめき、激痛が走った。


―――そこは、屋上。


空は曇っていて何も見えない。オレは一歩一歩、そこを目指して、歩いて行く。

緊急用の電話を取り出す。小型のそれはボンゴレの科学班が作った代物で、あいつらも見つけられなかったようだ。

そいつを作動して。するとすぐにあの人が出て。


『獄寺か』

「リボーンさん。今晩は」

『今丁度、ツナが帰ってきたとこだ。お前の救出計画を立ててるぞ』

「あはは。…部下想いのボスを持って、オレは幸せです」

『……』

「リボーンさん。みんなに伝えて下さい。仕事でへまをするような馬鹿は、オレで最後にしろって」

『ああ』

「それから10代目には…今まで有難う御座いました。お元気で……出来るだけ、長生きして下さい…と」

『お前、結構残酷だな』

「そんなこと、言わないで下さいよ」


後ろから、けたたましい音がした。それは屋上の扉が壊された音で。


「……リボーンさん。最後です。オレの救出作戦は、中止です。……救出する奴が、いなくなりますから」

『ああ』


オレはオレに向かって何か叫んでいる奴らに身体を向けて、不適に笑ってやる。

奴らには、計算違いがあった。

それは部下の反発だったり、別件の任務での失敗だったりと、軽いもので。

けれど。一番の失敗はオレを人質に選んだということ。

あいつらは何も知らない。

オレのボンゴレに…10代目に対する忠誠心というものを。

そして、オレのやり方というものを。

奴らがオレに向けて発砲してくる。闇夜が味方をしてくれているのか全然当たらない。


「…リボーンさん」

『…最後じゃなかったのか?』

「ええ。あと一つだけ。……オレ、貴方のこと、尊敬してました」

『ああ』


奴らは銃は効果がないと悟ったのか、オレに向かってきた。まったく、最初から両手両足折っておくか薬か何かで自由を奪っておけばよかったのに。


「……オレ、貴方のこと、敬愛してました」

『ああ』


オレはサイレンサーの銃で奴らを撃っていく。その間にオレは屋上の塀の向こうまで足を伸ばした。


「……オレ、貴方のこと、きっと好きでした」

『………』

「リボーンさん」


オレは不安定な足元に揺れる身体をそのままに、最後の言葉を吐いて。


「―――――さようなら」


そしてオレの身体は重力に従い、そのまま高い高い屋上から姿を消した。


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さようなら。愛しい人。