マフィアな死神
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私の名は千葉。

死神だ。


死神といわれると、人間は黒いローブを纏って巨大な鎌を持っているものを想像すると言われたことがあるが実際は違う。

姿格好はその時折によって異なるがローブも鎌も未だない。ちなみに今回はスーツに拳銃だ。珍しくもない。

私の仕事は担当の人間と七日間接触し、観察し、話を聞く。そして監査部に「可」か「見送り」かを報告する。「可」を報告すると無論のこと相手は死ぬ。


今回の捜査対象はマフィアらしい。上司にマフィアについて尋ねてみたところ、こんな返答が帰って来た。曰く「そんなこと知らなくても、仕事は出来る」相変わらずだ。

しかし暗鬱だ。仕事に対してそれなりの責任感と拘りを持っている私だが、今回は捜査対象と接触せず「可」と報告したい気持ちも多少あった。ここにはミュージックが期待出来ないのだ。


私たち死神は人間の作り出したミュージックが好きだ。人間の世界に来るとき何が一番楽しみかと問われたら間違いなくこう答える。「CDショップに入るのが」と。

しかしここ…マフィアのアジトという施設内ではそれは期待出来そうにもなかった。しかも近くにミュージック関連のものもない。なんてことだ。帰りたい。

しかしそれでも私は帰ることを選ばない。仕事は真面目にやる。楽しみがなくてもやる。好きでもないことを必死にやる。それが仕事というものだ。

それにもしかしたら物置などを探してみればラジオや音楽プレイヤーが出てくるかもしれない。どんなときでも希望は捨てるな!と死神である私が言ったらおかしいだろうか。

まぁそれはともかく対象と接触しよう。どうやらこのまま歩いて行けばいいらしい。情報部ではいつものことだが、これは今までの中で一番不親切な指示だ。

けれど確かに、前方から対象が歩いてきた。黒いスーツに身を纏った少年。私は足早に近付いて、


「失礼」


声を掛けた。


「もし宜しければ、私のDCショップになってくれないだろうか」


正直に言おう。

自分でも訳が分からなかった。

私自身ですらよく分かってなかったのだから、相手も分かるはずがなかった。


「はぁ?」


怪訝な顔をされる。当然だ。人間だろうが死神だろうがCDショップにはなれない。きっとこれは人間がよく使うレトリックなのだろう。自分で使ったのは今回が初めてだ。


「お前なに言ってんだ?」


警戒心を強められる。当たり前だ。私だって同じことを返すだろう。しかし口に出してしまった言葉はもう戻らない。


「いや、すまない。言い方が悪かったようだ。…私のミュージックになってはくれないだろうか


正直に言おう。


誰か助けてくれ。


私は今非常に混乱している。私はいつもこのような状態ではない。仮に今の私を同僚が見たならば、どうしたんだ千葉!と驚くだろう。それぐらいだ。

助けを願っていたら、私の目の前にいる彼の隣の少年が前に出てきた。


「お前」


少年は見掛けの年齢よりもずっと年を取っているように見えた。鋭い目付きのせいだろうか。それともマフィアというものは全員こうなのか?



「お前は、何だ?」



少年の言葉からは警戒心が感じ取れた。それは今もなお私を訝しげに睨む彼とは違う種類のもので。

というかそうだ。私はこの少年と接触しに来たのだった。何故隣の人間に声を掛けてしまったのだろう。


「失礼」本当に失礼なことをした。

「今日から部下になる、千葉です」


そういう設定のはずだ。私がそう言うと二人はああ、と納得したように頷いた。


「今日から上司になる、リボーンだ」


捜査対象である少年―――リボーンは私の口を真似てきた。私の本当の上司もこれくらいの愛嬌があればいいのに。


「で、こっちが今日からお前の同僚の獄寺だ」

「10代目の右腕で、リボーンさんの部下の獄寺だ。残念ながらオレは人間だから店にも音楽にもなれない」私のさっきの発言は彼の中で冗談と認定されたようだ。

「獄寺は右腕なのか?」人間であれば腕にもなれないと思うのだが。


そう指摘すると、獄寺は怒った。


「右腕のように必要不可欠な人間、って意味だ馬鹿!それくらい分かれ!!」


比喩表現を説明してくる人間と言うのは貴重で有難い。感心して「教えてくれてありがとう」と言うと獄寺は何故かまた怒った。

こうして一日目が終わった。これが私とリボーンと獄寺との出会いだった。