陳腐な奇跡
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「あれから、もう一年…だね」


キミが眠りに付いてから。


「時が流れるのは…速いね」


たとえば。キミがオレの隣にずっといたのなら。流れる時はもっと速かったのだろうか。


「もうすぐ…獄寺くんと過ごす、二回目のクリスマスだよ」


あと一ヶ月と、少しで。

あのあと。獄寺くんは直ぐにボンゴレお抱えの医者へと連れて行かれた。


結果。


彼は命を失うのは免れた。…けど。

彼は二度と、目を覚まさないだろうと言われた。

それはある意味死刑宣告。…もう二度と、目を覚まさないなんて。

彼の処理はオレに任された。…処理、という言い方が気に入らないが、たしかにオレ以外が彼を預けるなんて許せなかった。


…そして。今も彼は、ここにいる。


目を覚まさない彼を生かせ続けるのには。もちろん少なくない費用が必要となったけど。

でも。金なんかいくらあっても、彼のいない世界で生き続ける自信なんてもちろんなかった。

オレは暇さえ見つけては彼の元へと飛んで。…暇がなくても無理矢理作って。ずっと彼の傍にいて。

みんなはそんな生活を送るオレが身体を壊さないか心配してたけど。だからといって彼をオレから奪うことだけはしなかった。

…みんなも分かっているのだろう。今のオレから彼を取ったら、何が起きるか。

そんな日々を過ごしていくうちに、やってきたクリスマス。

―――たしかに、願いは叶った。



二人っきりで過ごすクリスマス。



叶ってしまったオレの願い。叶ってしまったオレの想い。

けれど彼は何も言ってはくれない。笑いかけてもくれない。オレの軽い冗談を本気に取ってもくれない。

大好きなキミと、大人になって初めて過ごすクリスマスなのに。それは今までで一番味気無く、そして虚しい日だった。


「また、来るからね」


いつもの台詞で、オレは彼の部屋を後にした。

心の傷は時間が解決してくれるなんて。一体誰が言ったのだろう。


―――そんなこと。有る訳が無いのに。


時が経てば経つほど。オレの頭を、心を占めるのは。ただ独りの彼の事。

それはある日の街中で。吐き出る吐息は真っ白で。空を見上げれば分厚い雲が世界を占めている。

どの店でも見かけるイルミネーション。色鮮やかなランプが規則的に点滅を繰り返している。

街が綺麗なら綺麗なほど。オレの心は黒く黒くどす黒く。鮮やかな世界に比べ、オレの心はセピア色。

世は一足速いクリスマス。…この日はきっと、オレが最も残酷になれる日だろうなと、ふと思った。



今日は彼が、眠った日だから。



そして数週間が経つと本当にクリスマス。

…彼と過ごす、二度目のクリスマス。

みんなが気を遣ってくれてるのだろうか。今年もその日は。その日だけは何も予定が入ってなかった。

今日という日に、何故か足が向いたのは。あの、忌々しい広場。


彼が倒れた、彼が眠った―――己の無力さを再確認された、あの場所。


当たり前な事に、血の跡なんてどこにもない。本当にここで合ってるのかと思えてくるほど。

でも。…間違いなく、ここであの騒ぎは起きたんだ。

ふと、足元に何かが落ちているのに気が付いた………煙草だった。

それが彼がよく吸っていたものだと思い出し―――


オレはそれを。思いっきり、踏み付けた。