陳腐な奇跡
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何か?何かってなんだろう。逃して良いのかこの違和感は。

そうだ、12時になったらシャマルを呼びに行かなくては。起きたばかりの獄寺くん。何かと検査も必要だろう。

なんで今すぐじゃなくて12時かって?それはもちろん、クリスマスを彼と二人っきりで過ごしたいという、オレの我侭。

…クリスマス?まただ。何かが頭の中を横切る。何だろうこれは。ちりりと熱い。まるで警報。

時間を見てみる。…本当にオレはどれほど眠っていたのだろう。もうすぐでクリスマスは終わりだった。もう五分もない。

少し早いけど、シャマルを呼びに行こうか。シャマルは驚くことだろう。けれどそれ以上に喜ぶことだろう。

そして獄寺くんの身体を検査という名目で触りたい放題…やっぱり12時が終わってからにしよう。

そう思って、獄寺くんの顔を見る―――と、獄寺くんはうとうととしていた。


「………獄寺くん?」

「―――ぁ、10、代目…すみませっ …なんか、きゅう…に、眠く―――」



警報が鳴っている。頭の中でがんがんと鳴り響いてる。



去年のクリスマスは、眠れる彼と二人っきり。他は何もなかった。

だからオレは、今年のクリスマスは。起きた獄寺くんと過ごしたいと、願った。


起きた獄寺くんは、オレの呼びかけに応えて。

起きた獄寺くんは、オレの名前を呼んで。


そんなクリスマスが良いと、願った。

そしてその願いは叶った。これで物語りはハッピーエンド。万々歳のめでたしめでたし。



けれど―――オレは何かを、忘れてはいないか?



なにか?なにかってなにさ。そもそもクリスマスの願いなんてそんな、全ては偶然の産物。オレが望むクリスマスに本当にサンタが演出してくれた訳でもあるまいし。

そうだよ。だから。うん、そう。そんな、有り得ない。オレの願いが全て叶えられるなんて、そんなこと―――有る訳がない。

…でも。たしかに。オレは願った。ああ、願ったさ。最後に、最後の最後に希望を込めて!



「―――――…一晩だけでも、良いから」って…!



体温が急激に下がっていく。さぁっと、血の気が失せた。


「獄寺くん、寝ちゃ駄目だ!」


いきなりの大声に、獄寺くんは驚きながらも。けれどそれでも睡魔は獄寺くんを襲い続けているみたいで。


「……10、代目…?」


有る訳無い在る訳無い或る訳が無い!オレは超能力者でも魔術師でもないのだから、オレの願い通りに全てが動くなんてそんな虫の良い話なんて有る訳が無い!

ああそうだ、オレは一年以上眠っていた彼に抱きつくとか喋らせるとか、そんな無理ばかりさせてしまったから!だから獄寺くんは疲れてしまったんだ!

だから獄寺くんが眠ってしまっても、それはほんの一時の事で!朝になったら直ぐに目を覚まして!またオレと一緒に毎日を過ごして!


「…なんでで、しょう……さっき、まで。ぜんぜん、そんな。ねむくなんて…なかったのに」


獄寺くんの目蓋が落ちてゆく。ゆっくりと堕ちてゆく。


「獄寺くん、まだ、まだ寝ないで…寝たら、怒るから…!」


獄寺くんはぼうっとしながら、オレの言葉を聞いて。苦笑して。


「おこられ、ますか…」

「…うん。怒るよ。そして、許さない」


だから寝るなと、オレがそう言っても。獄寺くんはまた笑って。


「でしたら、怒って下さい」