飛び出セ☆ツナ父
11ページ/全15ページ
獄寺と京子は分かれ道で別れた。
さて、時間を忘れはしゃいでしまったためか思ったよりも遅くなってしまった。早く帰らなければ。
そう意気込む獄寺に掛けられる声一つ。
言葉の内容はこれからどこかへと遊びに行かないか。というもの。
俗に言うナンパという奴だ。獄寺の美貌を考えればそんな命知らずがいくらいてもおかしくはない。
けれど…残念ながら今回、獄寺はひとりだ。今まで主にツナが一緒にいてくれてその手の輩を追い払ってくれていたのだがそのツナは今はいない。
というか、獄寺がこうしてナンパを体験したのは初めてだ。それだけひとりという時間が獄寺には与えられてはなかった。
なので獄寺にはこれがナンパなのだとは分からなかった。いや、それよりも前の問題として獄寺はナンパと言う言葉すら知らない。
よって、獄寺には無視して立ち去るという選択肢は出てこず。代わりに丁重にお断りを入れるという選択を取ってしまった。
けれどもそんな手法がナンパ男に通用するはずもない。むしろ丁寧な口調に自分に気があるとすら変換してしまう低俗な奴だった。
無理矢理獄寺の手を掴むナンパ男。
「え…?あの、いた…」
そんな獄寺を気にせず街へと歩き出すとする男に、流石の獄寺も抵抗の意を見せる。
「ちょ…や……止めろってば!手を離せ!」
それでも獄寺の言うことを聞かない男に怒りが湧いてくる。けれど最早まるで引き摺られているような状態。
何とか足を踏ん張るがそれも無駄な抵抗で。獄寺に危機感が募る。
(10代目…!)
獄寺は心の中で父親を呼ぶが助けは来ない。
愛娘がピンチの時。今まさに呼ばれているツナはというと。
「だーかーらー!彼氏は彼氏でも獄寺くんにしてみれば友達感覚でしかないっての!!」
「いや。もうその彼氏って単語だけで充分致死量に当たる。よって…」
「致死量ってなんだよ!ていうかだから首を吊ろうとするな!あーストップストップストップーーー!!!」
こっちはこっちで別のピンチな状況に陥っていた。
親子揃ってピンチとはそう言うと中々微笑ましいものを感じるがそれは後日談。しかも二人とも無事だった場合にのみ適応される。
「ゃ…!」
拒絶の意思を見せる獄寺。そこに。
「おい」
知らぬ声が掛けられた。
ドスの効いた声に思わずびくりと震える。
「そこのお前。嫌がる女捕まえてなにしてるんだ?」
鋭い目付きと威圧感を惜しげもなく男に注ぎながらそういうのは、見知らぬ女性。
いや、女性というにはまだ彼女は幼いかもしれない。けれども女の子。と呼ぶにしては違和感があった。
吹く風に黒髪を攫われながら、その女性は男の行く手を遮るように立っている。
獄寺の手を掴んだまま逃げようとする男。そこに。
ゴッ
その女性の手加減の一切無い拳が振舞われた。反動で思いっきり壁に叩きつけられる男。
しかしそれでも獄寺の手を離そうとはしなかったのは関心に値するかもしれない。
けれど獄寺の身体は硬い壁にぶつかることなく温かくて柔らかいものに包まれていた。
気付けば獄寺はその女性の胸の中にいて。
獄寺が男と一緒に壁に激突する前にその女性が男の手を無理矢理引っぺがしてくれたのだと分かった。
「大丈夫か?」
「あ…はい。助けてくれて、その…」
「なに、当たり前の事をしただけのことだから気にするな」
そう言って。その女性は獄寺の頭をぽんぽんと撫でて。
「じゃあな」
「あ…、ま、待って!」
すぐに身を翻し、立ち去ろうとする女性に思わず声を掛ける獄寺。
なんだ?と女性が振り返る。
「ぁ…えと…その、名前…そう、名前は…!?」
名を聞く獄寺に、女性はふっと笑って。
「名乗るほどのもんじゃない。それじゃあ、早く帰るんだぞ」
そう言って今度こそ立ち去ってしまった。
振り向き際に見えた、顔半分の傷痕が酷く印象に残った。
「…ただいまです10代目!遅くなりました!!」
その後獄寺は女性に言われた通りにすぐに帰宅した。見知ったドアを潜ってやっと安心出来る。
「ああ…ご、獄寺くん…お帰り…」
出迎えに現れたツナは何故か満身喪失だった。その事を獄寺が問いかける前に。
「戻ったか。獄寺」
「あれ?リボーンさんじゃないですか。どうなさったんですか?」
「お前の様子を見に来たんだ」
次
前
戻