飛び出セ☆ツナ父
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「おはよーございます!10代目!!」


元気な声。聞こえてきたドア方面に目を向けるとそこには…捜し求めていた愛娘こと獄寺隼人の姿が。

…何故か淡いピンクのふりふりエプロンを着けての登場だった。

無論そのエプロンはセーラー服の上から着けられている。


「…あー、いかん。いかんぞオレ。まだ夢見てる。早く起きろー、オレ。多分そろそろ遅刻するから。ああでももう少し見ていたいかも…

「あああ!なんだか何故だか10代目が遠い目を!どうしましょうリボーンさん!!」

「お前がエプロンを脱いでツナに時計でも突きつければ急いで学校へ向かうんじゃねーか?いい感じに時間ぎりぎりだぞ」

「え…?時間ぎりぎりって…うわなんだこの時間!今から走らないと間に合わないじゃん!?なんで起こしてくれなかったの!?」

「ぁ、その………ごめんなさい…」


しょぼん、と悲しそうに顔を俯かせる獄寺。

目尻には涙すら浮かべて…しかもエプロンを半脱ぎ状態で何故か何処からどう見てもツナが悪役な立地が完成していた。


「あーあ。ツナが泣かせたー」

「うるさい黙れリボーン!ていうか獄寺くんごめん!むしろオレが悪かったから許してって言うかとりあえず準備するから少し待ってて!!」


そう言うとツナは獄寺を追い出して着替える。朝食を抜くのはいいことではないが、残念ながら本日は昼までお預けのようだ。


「お待たせ、獄寺くん!さぁ行こう!行ってきます!!」

「あ、わ、い、行ってきますリボーンさん!!」


一人残されたリボーンが答える声を聞く間すらなく、二人は出掛けていった。


「…やれやれ」


嵐のように行ってしまった二人にリボーンはため息を吐く。

どうやらツナは獄寺が鞄と共にもう一つ。大きなバスケットを持っていたことには気付かなかったようだ。それほど慌てていたのだろう。


「…今回はツナも死ぬかもしれねーな」


リボーンは小さくそう呟くと、大惨事となっている台所を片付けに向かって行った。



「あああああああー!遅刻遅刻遅刻ー!!!」

「じ…10代目…!もう少し速度を緩めて…下さい!!」


ツナの後ろで獄寺の声が聞こえる。

手を繋いだまま走っているから、二人で走っているというよりもツナが獄寺を引き摺っているという感じだ。


「え…あ、ごめん獄寺くん…」


足を緩めると途端にやってくる疲労感。朝っぱらからいきなり疲れてしまった。


「はぁ…ぜぇ、何とか間に合った…」


ちらほらと並中の制服の後姿が見えてきた。どうやら安全県内には入ったようだった。


「はふ、はふ…疲れました…」

「う、ん…だね…ぜぃ、けほ…」


二人が息を整えながらまた歩き出す。急いで走ったから服装も少し乱れてしまった。

それが、一体なんのフラグだったのか―――

どん、


「あっ」

「っと…」


獄寺は並中の生徒とぶつかってしまった。相手の方が身体が大きかったらしく獄寺が少し衝撃を受けていた。

それでもツナが然程怒らなかったのは、相手が女性だったからだろうか。


「いたた…」

「悪いな。大丈夫か?」


その声にどこか聞き覚えがあるような気がして、獄寺は顔を上げる。

するとやっぱりどこかで見たような風貌の顔が現れて。


「……ん?」


しかしその女性は獄寺の視線には気付かないようで。代わりに獄寺の制服に手をやって。


「リボンが曲がっているぞ」


そう言って。獄寺のリボンを正し始めた。


………並中の庭に集う獄寺くんが、今日も天使のような無垢な笑顔で背の高い校門を潜り抜けていく。

穢れを知らない心身を包むのは淡い色の制服。


ツナの脳裏に何故かそんな文の陳列が光速の勢いで流れた。

ツナは慌てて首を振ってその文の洪水を頭から追い出す。


「…今のは一体…いや、それよりもそこの人!獄寺くんの服装の乱れならオレが直しますから!!」


ツナ。相変わらずてんぱると問題発言をしまくりなのであった。


「あ?なんだお前」

「10代目…ていうか、あ!やっぱり昨日の…!」

「ん?」


彼女が獄寺を見る。すると彼女もどこか合点がいったように頷いた。


「ああ…どこかでと思ったら昨日の。奇遇だな」

「あれ…?獄寺くん?知り合い?」

「何言ってるんですか!昨日話した、オレを助けて下さった方です!!」

「あー…いや、獄寺くんに声を掛けたって言う男をどうしようかって考えてたからすっかり聞いてなかったよ…」

「なんか知らんが賑やかだな」

「あ!昨日はどうもありがとうございました!」

「いいって。別に礼を言われることはしてない」

「でも…あ、そういえば名前!今度こそ名前を…!…あ、オレは獄寺隼人って言って…」

「獄寺…?そうか…。オレはラルだ。ラル・ミルチ。今日から並中に通うことになった。また会うことがあればよろしくな」


どこかで見たことのあるような笑みを浮かべてラル・ミルチは去った。