束の間
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「リボーンさん」

「なんだ?」


掛けられた声に、リボーンが振り向けば彼を呼んだ獄寺は淡く微笑む。


「呼んでみただけです」

「なんだそれ」


声の質は呆れていながら、けれどリボーンも微笑を浮かべていた。


「いいじゃないですか。そんな気分のときだってあるんです」

「そうか」

「ええ」


獄寺はまた呼んだ。恋人の名を。


「リボーンさん」

「なんだ?」

「リボーンさんは…もうすぐ、遠くへ行ってしまうのですね」

「そうだな」

「オレは行けないのですね」

「お前はツナの右腕だからな」


獄寺が思わず―――といった感じに苦笑する。

獄寺にとってツナもリボーンもとても大切な存在だ。仮にこの二人を獄寺の中の天秤に掛けたとしたら、見事なまでの水平線が見れるだろう。

それでも、どちらかを選べと言われたならば獄寺はツナを選ぶ。恋人と君主では大切の次元が違うのだから。獄寺にとって、ツナとは例え何を犠牲にしたとしても守りきらなければならない存在なのだから。


「お前はツナの隣にいろ」

「ええ。…でも、もう少ししたら暫くあなたとお別れです。それまであなたの名を呼ぶぐらいはいいでしょう?」

「名を呼ぶだけでいいのか?」

「え?」

「もっと恋人らしいことはしなくていいのか?」

「恋人らしいことって…ええと、抱き合ったり?」


と、それだけを言って自分で照れる獄寺。途端に顔を赤くさせる。


「それだけでいいのか?」


と、一歩獄寺に近付くリボーン。二人の距離が少し縮まる。


「そ、それだけって…」

「もっと恋人らしいことはしなくてもいいのか?」


リボーンが笑いながら獄寺に更に近付く。そして先ほど獄寺が放った言葉通りに抱きしめた。


「わ…」


僅かに怯む獄寺に構わず、リボーンは獄寺の耳元で囁いた。


「たとえば…キスとかしなくてもいいのか?」

「き…」


その言葉を聞いて、更に獄寺の顔が赤くなった。あわあわと内心慌てる。


「そんなこと、リボーンさんとしてしまってよろしいのでしょうか」

「恋人ってのは、キスぐらいするもんなんだぞ」

「そうなんですか?」

「そうなんだ」


言って、リボーンは獄寺に軽く口付けた。

不意打ち気味のキスに獄寺は一瞬怯んだが、リボーンが獄寺から唇を離すと今度は自分からリボーンに口付けた。

リボーンのときよりも、もっと長く。


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束の間の時間を楽しみましょう。