束の間の逢瀬
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ずきずきと。頭が痛む。

初めは特に、気にならなかったのに。

いつからだったか、次第に。顔をしかめるぐらいの痛みになっていって…

ぞわりと。寒気が巻き起こった。

それは一瞬だけで治まってくれたけど。立った鳥肌は中々元に戻らなかった。


「獄寺くん…?顔赤いけど…大丈夫?風邪?」


大丈夫ですよと。そう言いたかったのだけど言えなかった。また頭痛がしたから。


「っ!?ご、獄寺くん!大丈夫!?」

「あ、はは…すいません。ちょっとシャマルのとこまで行って来ますね」


付き添ってくれると言って下さった10代目を押し留めて。オレはふらつきながらも一階の保健室まで赴く。

ガラッと音を立ててドアを開ける。しかしそこは無人だった。


(マジか…)


しかしオレはもう立っているのも辛くて。半ば倒れこむような形でベッドへと崩れ落ちた。

ひんやりしたシーツが火照た顔に気持ち良い。しかしそう思ったのも束の間で、またも寒気が襲ってきて。一気に身体が冷える。

寒くて。辛くて。ぎゅっとシーツを握り締めるも上手く力が入らなくて。


(あーオレ、どうしよう…)


次第に目の前がぼやけてきて。遠くでドアが開くような音が聞こえてきて…

そしてそこでオレの意識は途絶えた。



二年の教室の前を通ったら。あの子がいなかった。

それとなく事情を聞いてみたら、具合が悪くなったらしく。保健室まで行ったらしい。


…面白くない。


保健室と言えば、あの医者がいる所ではないか。全く、一体なにを考えているのか。

幼き頃からの知り合いだかなんだか知らないけど。もう少しさ、僕に頼っても…


―――まぁいい。とりあえず保健室まで行ってみる。


もしもあの医者があの子に不埒な真似をしていたら…ふふ。どうしてくれようか。

そう思いつつ保健室のドアを開いたら…電気はついてなくて。中に人がいるようには見えなかった。


「………?」


はて。あの子と入れ違いになってしまったのだろうか。

取り合えず明かりを付けて。広くない室内を探ってみると…いた。手近のベッドに。苦しそうに横になりながら。

…全く。あの医者は何をしているのか。病人を放っといて。

さっきまでと考えてることの違いに苦笑しつつ。僕は彼に近付いて。その額に手を当てる。

…いつだったか、戯れで触ったときと比べて遥かに熱い。

なのに身体は震えていて。寒そうで。…苦しそうで。


―――やれやれ。


薬を取ろうと立とうとする。保健室なんだから、それこそ腐るほどあるだろう。

…って思ったのに。

くん、っと引かれる感触に襲われて。何かと見てみると。


「………」


彼が。僕の学ランの袖をしっかりと握っていた。

…いつの間に…ていうか…


「ちょっと。離してくれない?」


言っても何の反応もなし。…はぁ。まったく。

仕方がないので学ランを脱いで。彼にかけてやる。


―――って。


………あのさ。たったそれだけのことでそんなに安心した顔をしないでくれる?自惚れちゃうよ?

まるで彼の火照りが移ってしまったかのように顔が熱くなっていくのを自覚しながら。僕は薬を探して。コップに水を入れて。

そのまま薬を含んで。水を煽って。彼の口の中へと流し込んだ。

こくりと。彼が飲み下したのを確認して。


「…服。返してくれない?」


言って。軽く学ランを引っ張ってみるもぎゅっと握り締めた手は解いてはくれなかった。

…やれやれ。

このまま傍にいて、彼が起きた時の反応とかを楽しみたいけど。

残念ながら風紀の仕事に行かなければならない為にそれも無理。


「じゃ…僕はもう行くけど。次に逢う時には起きててね」


そう言って彼の頭を撫でて…だからそこでそんな顔しない。全く。

何とか彼の顔から視線を逸らして。手を離して。

後ろ髪を引かれるのを感じながら、僕は保健室を後にした。


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それじゃあ、またあとで。