世界の作り方
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「…ん?獄寺」
リボーンさんがオレの手を掴む。持ち上げる。
「?どうかしたんですか?」
「どうしたもこうしたも、なんだこの指は」
リボーンさんの目線の先。オレの指先。赤く腫れて、水膨れが出来ている。
「火傷しました」
「馬鹿。大事な指をこんなにして、これでピアノが弾けるのか?」
「根性があれば」
「…お前のピアノは根性で弾くものなのか?」
呆れられた。
壁に傷どころか、目標手前で撃沈されたようだ。
「来い」
オレの手首を掴んだまま、リボーンさんが歩き出す。当然オレも着いていく。
どこに行くのかと思いきや、そこは水道口。リボーンさんは蛇口を捻り、水を出す。そこに有無を言わさずオレの手を突っ込む。こんな真冬に、冷たい水。
「リボーンさん、冷たくて、痛いです」
「我慢しろ」
にべもなかった。
結局リボーンさんはオレの指先の感覚がなくなるまで冷水を浴びせ続けた。タオルで水分を拭き取り、絆創膏を貼っていく。
「……どこから取り出したんですか?」
「ポケットから」
「まるで魔法のポケットですね」
「どこの馬鹿がいつどこでどんな馬鹿なかことをしでかすかわからないからな」
「その馬鹿ってもしかしてオレのことですか?」
「他に誰がいるんだ?」
ですよね。
そんな軽口を叩きながらも、リボーンさんの目線も意識もあくまでオレの指先だ。
……ああ、そういえば。
「…何笑ってんだ?」
「ああ、すみません、少し昔を思い出していまして」
「昔?」
少し不機嫌そうな声。本当、この城をオレは落とせるのだろうか。
「…覚えてますか?子供の頃、オレの指が車のドアに挟まったこと」
「ああ……」
リボーンさんが顔を歪ませる。
…オレ、さっきからこの人の気分を害してばかりの気がする。気のせいだろうか。
「あの日も今日みたいに冬でしたね。雪が積もっていて」
「…そうだったな」
オレの口から笑い声が漏れる。
「オレ、あの時以上に慌てるリボーンさんを見たことないですよ」
「だろうな。オレもあの時以上に慌てた記憶は持ち合わせてない」
リボーンさんは先に運転席に向かったので、オレの指がドアに挟まれたのに気付くのが少し遅れた。
オレの異変に気付いたリボーンさんはすぐさま先に車の中に入っていた人間にドアを開けるよう指示を出したが、そいつは咄嗟のことで固まっていた。
埒が明かないとすぐに判断したリボーンさんは車から飛び出てオレを助け出した。
さほど時間は経っていなかったはずだが、挟まっていたオレの指には血豆が出来ていた。
リボーンさんは積もっていた雪でオレの指を覚まし、応急処置をしてくれた。
「あの時のこと。今少し、思い出しました」
「よく覚えているな。そんなこと」
「覚えてますとも」
いつだって思い出せる。
どこだって思い出せる。
あなたのことならば。
大好きなあなたのことならば。
愛するあなたのことならば。
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