冷たい貴方
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ある日、獄寺が任務から戻って来たリボーンの所まで赴くと…どこか彼の様子はおかしかった。


「…リボーン、さん…?」

「獄寺か…」


リボーンはどこか疲れたかのような口調で、獄寺を出迎えた。

いつものように突き放しもしない。邪険な目で見られることもなかったが…むしろその方が獄寺の胸を痛ませた。


「…その、包帯を替えに…」

「要らん」


素っ気無い口調だけは相変わらずだった。リボーンは腰掛けていたベッドから立って、退室しようとする。

擦れ違うとき、思わず獄寺はリボーンの右腕を掴んだ。


―――冷たかった。


たとえるなら、死体のように。


「―――っ」

「…オレに触んな」


リボーンは獄寺を振り払わず、言葉で制した。

けれど…獄寺は手を離さない。どちらかと言うと、リボーンの言葉が入ってないだけみたいだが。


「…リボーンさん…もう、いいじゃないですか」


獄寺の声は震えていた。


「馬鹿なこと言うな」


リボーンの声は凛としていた。


「オレの死に場所は、安全なベッドの上じゃないんだぞ?」


どこか挑むような、リボーンの視線。

真っ直ぐに合わせられた黒の眼に…射貫かれそうになる。


「…本当、なんですか?」

「何がだ?」


「アルコバレーノの寿命は…10年」

「知ってたのか。なら話は早ぇ」


「………」

「馬鹿。んな顔すんな」

「…リボーンさん。……もう、休んで下さい」

「お前は本当に馬鹿だな。休もうが戦場に行こうが呪いで身体は痛むし死ぬときは死ぬんだぞ」

「でも…なら!オレも一緒に…!」

「駄目だ邪魔だ迷惑だ。お前はツナの面倒見てろ。あいつは誰かがいないと本当にダメツナになるからな」

「リボーンさん!」

「ったく、これから死ぬってのに士気下げるような真似ばかりしやがって。だからお前は―――大嫌いなんだ」

「…最後の最後まで…本当に酷い人ですね貴方は」

「そうだぞ。オレは酷い奴なんだ。だからお前もさっさとオレを嫌いになれ」

「嫌ですよ。…言ったでしょう?貴方の気持ちなんて知ったことではないんです。…オレが、一方的に貴方のこと好きなんです」


「迷惑な話だな」

「そうかも知れませんね」


リボーンは獄寺の手を引き剥がすと、そのまま振り返ることもせずに真っ直ぐに歩いて行った。

一人残された獄寺は先程までリボーンが腰掛けていたベッドに手をやる。…何かでぐっしょりと湿っていた。

鉄錆臭い室内を出ると、既にこの部屋の主の姿はなく。

ただただ赤い足跡がずっと向こうまで続いていた。

その足跡の持ち主が帰ってくることは、二度となかった。


++++++++++

あなたは最後まで自分を貫いて、いってしまいました。