嘘と雨
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「…獄寺くん?」

「あ、はいっ」

「誰から?」

「―――リボーンさんです。やはりあちらも襲撃にあっていました。…これから来て下さるそうです」

「そっか…」


それは良かった。リボーンが来てくれるのならこの事態も好転するだろう。

―――と。

すっと、獄寺くんが音もなく立ち上がる。


「…獄寺くん?」

「――10代目はここにいて下さい。…ちょっくらあいつらを陽動してきます」

「え…?」


行ってしまおうとする彼を思わず捕まえる。困ったように振り向く。


「…10代目。離して下さ―――」

「行かないで」


彼の台詞を遮るように。少し強めに、大きな声で言ってしまう。けど。


「…10代目」

「行かないで」


何か言葉を紡ごうとする彼を更に遮る。オレは更に言葉を続ける。


「ここにいて」


獄寺くんは困った顔をして。獄寺くんを捕まえたその腕を解いて。


「大丈夫ですから。直ぐに戻ってきますから」

「やだ…やだよ。獄寺くん。オレ独りは嫌だ。傍にいてよ」


どんなに命を狙われても。どんなに物騒な目にあっても。それでも平気だったのは常に彼がいてくれたからで。

…その彼が一時でも離れるだなんて。考えられない。考えたくない。


「…10代目。どの道このままでは直ぐに見つかってしまいます。そうなったらオレは貴方を守りながら戦える自信がありません」

「でもっ」

「大丈夫です。ほんの少しだけですから。…リボーンさんが駆けつけて下さるまでの、我慢です」


ね?って。獄寺くんはオレに笑いかける。今から刺客の元へ行くというのに。笑っている。


「お願いします」


今度は頭を下げて。獄寺くんはオレに頼み込む。オレの許しを求めている。



―――………。



「―――…だからね」

「え?」

「怪我したり…したら。許さないんだからね」


それだけが、オレに言えた精一杯の一言。

獄寺くんはオレの言葉に嬉しそうに――…笑って。


「ありがとうございます」


最後にそう言って。…振り返りもせずに走って。あっという間に行ってしまう獄寺くん。

急に辺りが静かになって。今更のように気付く。

ああ、あの時ぱらつきながら振り出した雨は。こんなにも激しくなっていたのか。



―――――パァンッ



びくり。いきなりのその音に身体が震える。

不幸なことに聞き馴染みのある音。銃声。

それは一度鳴り出したら留まることを知らず。響き続ける。

建物の中にその音は反響して。…頭が痛い。まるで自分が撃たれているような錯覚。


彼は。


獄寺くんは無事だろうか。

さっきから彼の愛用の武器の音が聞こえない。大丈夫だろうか。


―――…ああ、そうか。あの爆撃音は聞こえないはずだ。


銃声と交じり合って更に雑音となっている雨音。

彼の武器は駄目になってしまったのだろう。水に負けて。

ならば彼もまた銃を使っているのだろうか。何回か…こんな雨の日に襲撃にあったときに彼は何度か銃を使っていた。

本当は苦手なんですけど、とか言いながらその腕は確かなものだった。

この響く銃声のどれかは彼のものなのだろうか。彼は無事だろうか。…獄寺くん。

雨は止まない。銃声は止まらない。部屋中に響く雑音。―――頭痛がする。


…と。


いきなり。ぴたっと。唐突もなく。銃撃が止んだ。

聞こえてくるのは雨の音。サァサァと降っていて。己の存在を主張する。

音が止んだということは。それは。つまり。それをする必要がなくなったということ。

だから。つまりそれは。ああ考えが纏まらない。頭が痛い。

外。そうだ外。外へ行こう。彼を迎えに行こう。ぎゅって抱きしめて。そして。

長い間座り込んでいたからか立ち上がると足が痛かった。けれどそれは無視して。

恐る恐る。扉を開ける。辺りを見渡す。


―――すると、そこには。