嘘と雨
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サァアアアアァァァァアアァァァァ…


水が天から振ってくる。留めもなく。途方もなく。

雨粒は重力に従い地に叩き付けられる。その激しさは緩まない。

雨は地を叩く。屋根を叩く。木々を叩く。オレを叩く。そして―――



倒れている、彼を叩く。



サァアアアアァァァァアアァァァァ…



雨は止まない。思考は纏まらない。何もかも理解出来ない。

どうして彼は倒れているのだろう。早く起こさなくては。

暑くなってきたとはいえ、長時間雨に打たれていたら風邪を引いてしまう。

一歩。彼に近付く。彼の背に滴る水溜りだけ、どこか朱を帯びていた。

もう一歩。彼に近付いて―――


「…無駄なことは止めとけ」


無機質で無感情な声に、彼との距離を縮めるのを。遮られた。


「…リボーン」


遮ったのは、オレと彼と同じく。雨に打たれてずぶ濡れになっているオレの家庭教師で。


「無駄って…なんのこと?」

「言われなきゃ分かんねぇか?」


分からない。何のことだろうか。無駄? オレが彼に近付くことが? 何故。

サァサァサァサァ雨が鳴る。耳鳴りがする。頭が痛い。

一歩。また近付いて。彼の顔が視界に入る。

彼は眠っていた。目を瞑っていたから。

一歩。更に近付いて。彼の身体が視界に入る。

お腹に。穴が。開いていて。

そこから。赤い染みが。雨に打たれて背に流れていて。赤い…赤が広がっていく。


「ご―――」

「ツナ」


冷静な声。現実を見ろと。夢に甘えるなと。冷静な声がそう言っている。

…でも。だって。


―――…10代目。


彼は言った。確かに言った。


…明後日。休みでしたよね。どこか遊びに行きましょうか。


笑いながら。言っていた。


暫く篭ってばかりで外に出ませんでしたから。気分転換に町まで行きましょう。


オレが見えない影に怯えているのを助けようと。無理に笑って。


海とかもいいですよね。でも晴れるかな…10代目はどこか行きたい所ありますか?


そうして。彼のうちへと行くと。約束したのに。



サァアアアアァァァァアアァァァァ…



雨の音が止まない。耳鳴りがする。頭が痛い。


―――ああ、そうだ。忘れてた。


キミはオレに誠実なようで、その実はとんでもない大嘘付きな人だってこと。

キミはオレなんかよりも、結局の所自分本位な人だってこと。

だって。キミはいつも。



10代目は、オレが命に代えてもお守りしますから。



そんな。オレがいくら止めてって言っても。どうしてもそれだけは撤回しなかったから。

その事実を忘れてた。ああ、悔しいな。忘れてなければ。それでもきっと、こうなっていただろうけど。でも。

混乱する、纏まらない頭でも分かったのは。



彼はもう、目を覚まさないということ。



サァアアアアァァァァアアァァァァ…



雨は降り続ける。雨は降り止まない。雨はオレを、彼を打ちつけて。それでもまだ。止まない。

…それはまるで、オレの心境を表しているような天気で。

オレの心の雨も。当分止みそうにはなかった。


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だから、行かないでって、言ったのに。