忘物語
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今までぼやけていた世界が一転し、鮮やかな景色が広がる。

急に意識が覚醒し、目が醒めた感覚を覚える。

そして目の前には、教え子の一人たる獄寺の姿。

獄寺はリボーンの方を見ているが、その目はリボーンを捉えてはいない。

その目が見るは、リボーンの後ろ。

リボーンの、墓石。


「…遅くなってしまい、申し訳ありません」


獄寺が言う。

リボーンにではなく、リボーンの墓石に向かって。


「でも、リボーンさんも酷いじゃないですか」


獄寺が言う。

墓石に彫られた文字を眺めながら、言う。


「オレとの約束を破るだなんて」


約束。

獄寺と交わした、そして果たすことの出来なくなった約束。

…なんだっただろうか。


忘れてしまった。


獄寺は寂しげな微笑を浮かべている。

…リボーンはもう覚えてない約束だが、もしかしたら獄寺はそれを楽しみにしていたのだろうか。


そりゃあ、悪かったな。


とは言ってはみるが、獄寺に聞こえた様子はない。

当たり前だ。

死者の声が生者に届くものか。

などと思っていたら、獄寺が動いた。


「リボーンさん」


獄寺は、いつの間にかあるものを手にしていて。


「どうぞ」


それを、リボーンへと差し出していた。

それは…


(…ああ、)


それはあの日、リボーンが落とし、失くし、忘れたもの。

リボーンの、帽子。


お前が拾い、届けてくれたのか。


言い、リボーンは手を伸ばす。

帽子に、触れる。

透けた手は帽子をすり抜けることなく、掴むことが出来て。


「…え?」


獄寺の驚いた声が聞こえた。

それもそうか。帽子が誰かに取られたかのような、そんな動きをしたのだから。

一陣の風が吹き、木々から葉が零れる。

獄寺も思わず目を瞑り、そして突風が止んでから目を開けた。

その目が見開かれる。

その目は、リボーンの墓石ではなくリボーン本人を捉えていた。