忘物語
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「リボーン、さん…?」

「ん?なんだ獄寺。オレが見えるのか?」


言いながら、帽子から力が通じてくるのを感じる。

どうやら帽子と一緒に強さも落としてしまっていたらしい。

それを獄寺が拾っていたということは…


「…お前、大丈夫か?」

「え?」


きょとんとする獄寺。しかしリボーンには見える。分かる。

今目の前にいる獄寺の身体が、傷だらけであるということに。

そして、その傷を付けたのは…


「こいつが迷惑を掛けたな」


リボーンは帽子を指先でくるくると回す。

それを見ながら、獄寺は少し疲れたように声を出した。


「…何なんですか、それ。時間が経つ事に姿形が変わっていったんですけど」


獄寺は言う。

初め拾った時はおしゃぶりの形をしていたそれが、いつしか弾丸に変わり、いつの間にか銃に変わり、そして今の帽子になったのだと。

そしてそれは、どうやら自分以外には見えないものらしいと。


「おかげで不審な目で見られましたよ」

「捨てりゃよかったろ」

「それは…流石に」


部屋に置いてても、気付けば獄寺の手の中に納まっているらしい。であるなら捨てても無駄だっただろうか。


「こりゃ、オレの力みたいなもんだ」

「力…ですか」

「そうだ。持ってるだけでお前にも影響が行ったんじゃねぇか?」


聞いて見れば、獄寺はどこか罰が悪そうに横目を見ていた。

なんだか、急に居心地が悪そうになった。


「…強く影響が行ったか?」

「……すみません。むしろ、いい気になりました」


どうやら力に溺れたらしい。身に受けた傷もそのせいか。

まあ、何にしろ落とした自分が悪いのだが。

リボーンは場の空気を切り替えるように、帽子を被る。獄寺を見る。


「似合うか?」


そう言えば、獄寺はどこか眩しそうにリボーンを見て。


「ええ、とても」


そう、呟いて。


「ああ―――リボーンさん」


その声は、真っ直ぐに。


「やっぱりあなたには、」


ただひたすら、真っ直ぐに。



「その帽子が、よく似合う」



リボーンに届けられる。


「…そうか」

「ええ」


帽子を間深く被り直しながら、リボーンは投げ掛けられる獄寺の声を聞く。

穏やかに風が吹き、静かに陽の光が照り、獄寺の声だけが辺りに響いていた。


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「あれ?リボーンさん何照れてるんですか?」「照れてねえ」「そうですか」