最愛の人を蘇らせる為の唯一の方法
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「誰だ?ここになんの用だ」
「久しぶりね、隼人」
「ああ?」
彼女は獄寺をまるで身内のように馴れ馴れしく話す。
しかし獄寺には全く身に覚えがない。
「人違いじゃねぇのか?オレはそんな名前じゃねえ」
「人違いなんかじゃないわ。あの城で、二人一緒に過ごしたじゃない」
あの城、と言われて思い出すのは無論獄寺の城だ。忘れられない、リボーンと出会いの場所。
だが、正直獄寺はあの日より以前の記憶はもうほとんど覚えていない。どう過ごしたのか、誰と過ごしたのか。思い出せない。
「忘れちゃったの?私よ。ビアンキ―――あなたの姉よ」
「姉…?」
「そう。私たちはあの城で唯一、獄寺の人間の子供なのよ」
「へえ…」
検索。検索。獄寺の城について。…なるほど。
どうやら目の前の『姉』が言うには、自分たちはあの城の人間たちが村や街で買ってきた子供ではなく、あの城の中の人間の、特に有能な人間が交じりあって生まれた子供らしい。
実験の一つだ。有能で優秀な人間から生まれた子供なら、より大きな実験の負荷にも耐えられうるのではないか、という。
その結果自分は失敗し、彼女は成功した。リボーンが城を落としたのはビアンキが売られた次の日だ。
「で?それがどうかしたか?」
「私はあなたを迎えに来たのよ」
「はあ?」
「私のご主人様はあなたも欲しいと、そう希望しているわ」
「知らねーよそんなこと。オレの主はリボーンさんだけだ」
「まあ」
ビアンキが少し驚いたように口に手を当て、目を開かせる。
けれどすぐに悪戯っぽい笑顔に変えて、鈴の音がなるようにコロコロと笑う。
「じゃあ―――その人を殺せばいいのね?」
ビアンキがそう言い終わった瞬間、ビアンキの頭部に衝撃が走り、気付いた時には地に伏せていた。
何が起こったのか分からず、目を白黒させるビアンキの視界に獄寺の足が見える。目線を上げれば、拳銃を持つ獄寺。そのグリップは赤く染まっている。
ああ、自分は獄寺に一瞬で距離を詰められ、そしてあの銃で殴られたのだ、とビアンキが気付いた時には獄寺は酷く冷たい目をしてビアンキを見下ろしていた。
「面白くない冗談は言わない方がいいぜ、『姉貴』」
「冗談なんかじゃないわ。私は本気で―――」
ビアンキが全てを言い終わらぬうちに、獄寺は拳銃をビアンキの口内へ無遠慮に突っ込む。
辺りの温度が急激に冷える。今この時、この瞬間、この場所はまるで別世界のように変貌した。
「ピーチクパーチクうっせぇよ。庭に小鳥が来るのは構わねぇけど、それならせめて愛らしい姿と心地いい歌声を披露してもらいたいね。そうすりゃこっちもパンの耳ぐらいはやってもいいと思えるもんだ」
「……………、」
「さて、覚えてないとはいえ、データを調べたところどうやら母親も違うとはいえ、それでもテメーはオレの姉貴みたいだ」
「……………、」
「交渉に来ただけみてーなのに殴っちまって悪かったな。そこで提案だ。先程の言葉を撤回し、二度とオレの前に現れず、リボーンさんに危害を加えないと誓うのなら―――見逃してやってもいい。どうする?」
そう言って、口内から拳銃を取り出し眉間に構える獄寺。
ビアンキは地に伏せたまま暫し考え……やがて少し寂しそうに、ふっと笑った。
「魅力的な提案ね。是非とも呑みたいところだわ。だけど…あなたも知ってる…いえ、分かるでしょう?私たちは、ご主人様に逆らえないの」
「そりゃ、残念だ」
「ええ。本当に」
獄寺は笑い、ビアンキも笑った。
それが最後だった。
パン、と乾いた音が響き、
獄寺は自分の姉を、自分の手で殺した。
「あー…汚れちまったよ。あとで綺麗にしなきゃな……」
血と唾液に塗れた銃を手にため息を吐く獄寺。
その足元には、もう動かない人間兵器が一つ。
それが目に入らないかのように、獄寺は掃除を再開する。その頭の中には既にビアンキの存在など欠片もない。あるのは唯一つ。
さて、今日の夕食は何にしよう?
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