最愛の人を蘇らせる為の唯一の方法
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目を開くと、そこは薄暗い部屋の中。

薄目を開けたまま、少年…というよりも、幼子とも言える小さな子供は椅子に座った状態のまま身動ぎ一つしない。

彼は動かない。まるで置物のように。

やがて、誰も来ないまま時間ばかりが過ぎていき……辺りに爆発音と、地響きが鳴った。少し遅れて、鼓膜が破れそうなほど大きな音の警報。

それらを聞いてるはずなのに、体感しているはずなのに彼は反応しない。彼だけ時間が止まっているかのように、あるいは本当に物なのかのように。

やがて、部屋のドアが乱暴に…という言い方はまだ優しい。蹴破られ、血と硝煙の臭いを纏った殺し屋が入ってくる。

そこで初めて、彼は反応を示した。顔を上げ、現れた人物に目を向けようとする。

だが当然ながら殺し屋の行動の方が千倍も早かった。殺し屋は彼の存在を認めると、手にしていた拳銃を彼に向けて引き金を引いた。

しかし銃弾は発射されず、乾いた音が響くのみ。

不発。

殺し屋は慌てず別の拳銃を取り出す。その間にも彼との距離を詰め、取り出した拳銃を彼の眉間に突きつけた。


「…何か言い残すことはあるか?」


殺し屋が静かにそう言う。冷たい、感情のない声。

彼はそこで、やっと顔を上げ終える。殺し屋の顔を見上げる。その底の見えない目を見つめる。

殺し屋もそうだが、彼の方にも感情は見えない。

銃口を突きつけられているのに、いつ殺されてもおかしくはないのに。いいや、そもそも、彼は既に一度、死んでいるはずなのに。

その目には恐怖も、怯えも、怒りも、悲しみも、諦めも、出し抜きも、悪あがきも、刺し違えも、覚悟も、意思も、何もかもがなかった。

その彼が、口を開く。静かで、感情のない声を出す。


「あなたが、オレを処分してくださる方ですか?」

「…何?」


殺し屋が怪訝そうな声を出す。感情のある声。

彼は言葉を続ける。濁った目を向けて。焦点の合ってない目を向けて。感情のない声を出して。


「オレは故障品の、欠陥品の、失敗作です。ですから今日、オレは廃棄処分されるのだと告げられていました。」

「………」

「あなたが、オレを処分してくださる方ですか?」


殺し屋は依頼内容を思い返す。

獄寺家の全ての「人間」の殺害及び獄寺家内にいる全ての「兵器」の破壊。

殺し屋の目の前にいる「それ」は、「人間」と呼ぶには足りなさすぎて、「兵器」と呼ぶには欠けすぎていた。

この城の「人間」は逃げまとい、泣き叫び、命乞いをして兵器を使い殺そうとする。

この城の「兵器」は悪意を放ち、殺意を持ち、身を挺して人間を守ろうとする。

けれど目の前の「それ」は、そのどちらでもない。感情がない。意思がない。自分がない。心がない。何もない。

殺し屋は銃を下げ背を向ける。彼は黙って見ている。

殺し屋は入口まで歩いたところで一旦足を止めた。


「悪いが、オレはお前を処分する奴じゃない。だが、恐らく待っていてもお前を処分する奴は来まい。お前の行きたい場所に、自由に行くといい」


殺し屋はそう言って、部屋から消えた。

彼は黙ったまま動かず、目を閉じる。

そのまま全てが終わるのかと思いきや、そうはならなかった。

彼はまた目を開けた。そして動き出す。

椅子から立ち上がり、ドアの外れた入口から部屋の外へ。

辺りは散々たるものだった。

焼け焦げ、燃え広がり、噎せ返る臭いが立ち込め、赤い液体が染みを作っている。

そしてあたりに散らばる、人間だったものと兵器だったもの。

彼にとって人間だったものは親のようなもので。

彼にとって兵器だったものは兄弟のようなものだった。そのはずだった。

けれど彼はそれらをやはりなんの感情もない目に写しながら歩き出す。


探索。探索。熱量探索。感知感知感知。熱量感知。遮断。探索。感知。―――生命熱量感知。


彼は歩き出す。

故障品でも欠陥品でも失敗作でも、機械は機械。

機械は人のために作られる。

人の役に立つために。人のためになるように。

機械は人を求める。

彼は歩き出す。

人の所へ。