夢色恋物語
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辺りを歩き回り、けれど小さな姿は見当たらず。

それでも探してふらふらと彷徨っていたら聞こえてきた泣き声。

そこは灯台下暗しと言うか、家のすぐ近くの公園の裏。ちょっとした林になっている場所だった。

振り向いたハヤトは、思った人間とは違ったが…それでも自分の知っている人物に会えたことで気が緩んだのかオレに飛びついてきた。


「う…ひっく…うわーん、あああああああん!!!」

「こら、落ち着け。…もう大丈夫だから」


そう言うも、一向に泣き止む様子のないハヤト。心細いのかオレを離す様子もない。

ハヤトが泣き止むまで移動も出来なかったオレたちは、結局日が沈んでからの帰宅になった。

もちろん、その後それぞれの親にたっぷり怒られたのは言うまでもない。

いや…オレの場合は怒られたというよりも泣きつかれたのだが。


―――オレの生まれる前に亡くなったらしいオレの親父。


肉体的、精神的に大変だっただろうに母さんはオレに心配をかけないようにかずっと笑顔で…女手一つで育ててくれて。

なるべく母さんに負担をかけないよう過ごしてきたが…その分もあってか今回の母さんの取り乱しようは半端がなくて。

母さんは冷静になって自分がどれほど余裕がなかったのか分かったのか、少し恥ずかしそうに頬を赤らめていた。


…そんなことがありながらその日は終えた。


近所に同世代の子供はオレとハヤトしかいなかったから、必然的にオレたちは一緒に遊ぶことが多くなった。

その様子はそれほど仲良く見えたのだろうか。誰だったかいつしか「兄妹みたいだ」と言った。

それに感化されたのか、ハヤトはオレの事を兄として呼び慕うようになっていた。

けれど確かに、オレとハヤトは血の繋がった兄妹のように仲がよかったかも知れない。それほどいつだって一緒にいた。


春。命の息吹が吹く道を一緒に歩いた。

また迷子になるといけないからって。手を繋いで。


夏。蝉が鳴く木の下で一緒に昼寝をした。

起きると母さんが夕飯の準備をしていて。みんなで食べた。


秋。日が落ちるのが早くなってきて、それが少し不満だった。

少しでも長く一緒にいようと朝から晩までをずっと共に過ごした。


冬。寒さを言い訳にして同じ毛布に包まって眠った。

けれど確かに、一人よりも二人の方があたたかかった。


そして…出会ってから二度目の春が訪れた。


この頃にはもうハヤトに兄扱いされるのに何の違和感も感じないようになっていた。慣れとは恐ろしいものだ。

ハヤトの父親は多忙なようで、長く家を空けることも珍しくはない。

そんな日はハヤトはオレの家で過ごす。またオレの母さんが家を空けるときはオレがハヤトの家の世話になる。


そんな日々が当たり前になっていた。


ハヤトがオレを呼ぶたびに、まるで本当に妹がいるような錯覚を受けるが…でもそんなことはない。

オレとハヤトは赤の他人だ。仲はいいかも知れないが、本当の兄妹でもない。

…時折、その事を忘れそうになるが。


「おにいちゃん」

「ん…?ハヤト、寝たんじゃなかったのか?」

「うん…。あのね、おにいちゃん」

「なんだ」

「ハヤト…ハヤトね。………おにいちゃんのお嫁さんになりたいの」


包まった毛布の中での甘い告白。必要以上に密室した距離の中、見上げてくるハヤトの視線が真っ直ぐにオレに突き刺さる。


「………」

「おにいちゃん…?」

「お前が…泣き虫じゃなくなったらな」

「ふぇ?」

「お前が泣き虫じゃなくなったら…そのときは嫁にでも何でもしてやる」

「―――うん分かった!ハヤト頑張って泣き虫じゃなくなるから!」


だから、とハヤトはオレに小指を突き出してくる。

その意図が読めない訳もなく、オレも小指を出してハヤトのそれに絡めて。


―――それは幼い二人の、小さな指きりの約束。


ハヤトは満足したのか満面の笑みを見せて。オレとの距離を更に縮めて眠りについた。

程なくしてオレも眠りに落ちていった。