夢から覚めた日
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と、声を掛けられたような気がした。振り向くと、そこには10代目がいた。
信じられなかった。いるはずのない人がいたのだから。
10代目は緊張したような顔をして、またオレに声を掛けた。
「……どうしたの?」
ぼんやりとしたオレの脳は10代目の声を正しく認識してくれない。
だからか、オレは表情を変えることも出来ずに、きっとピントのずれた回答を口にしていた。
「――夢を、見ていました」
夢。そう、夢だ。全ては。
「どんな、夢?」
どんな……それは、賑やかで、楽しくて、毎日続いたらいいって思って、そして毎日続いてて、けれども壊れてしまった――
「悲しい、夢です」
とても、とても。
「聞いていい?」
暫く、迷う。正直に話していいものかどうか。
「……朝、オレは起きるんです。身支度を整えて、朝飯食って、10代目をお迎えに行くんです」
迷った結果、オレは嘘を付くことにした。
「10代目と一緒に登校していると、山本が出てくるんです。オレはいつものように山本に怒鳴って、10代目は慌てて止めて」
本当のことは言えなかった。……言いたくなかった。
「校門の前には風紀強化月間とかで風紀委員が沢山いるんです。オレたちは雲雀に嫌味を言われて。そこに内藤が乱入してきて」
だってそれは、他の誰でもない、オレ自身が認めてしまう行為だったから。
「授業は退屈だから保健室で居眠りして、昼は三人屋上で食って、帰り際には笹川が10代目をボクシングに勧誘して」
―――オレの死を、認めてしまう行為だったから。
「帰った後は10代目のお宅にお邪魔して、そこにはちびたちにハルに跳ね馬にふぅ太にと賑やかで」
昔から、そうだった。
「そして夜も更けた頃にオレは帰って、寝るんです」
オレがみんな笑ってる夢を見る。すると次の日には、夢の中にいなかった奴が死んでるんだ。
「その、繰り返しです」
ロメオも、エンリコも、マッシーモも、フェデリコも。みんな死んでしまった。
「………それって、悲しい夢?」
10代目が不思議そうに聞いてくる。
「悲しいですよ?」
悲しい。そして、辛い夢。
「だって……」
「だって?」
だって……その夢の中に、オレがいない。
「だって、夢ですから」
その日常の中に、オレがいない。
「現実には、もう、ありえないことですから」
今まで当たり前だったのに、いない。どこにもいない。
「もうみんなと、逢えませんから」
毎日が幸せだったけど。もう覚めてしまった。
「覚めないはずの夢だったのに」
夢の中のオレが目覚めてしまったから、夢の中の日常にオレはいない。
そして、もう戻って来れない。それが何より――
「悲しいです」
気が付くと、10代目が泣きそうな顔をしていた。
「ありえないとか、逢えないとか、そんな訳ないじゃないか。だって、夢、なんでしょ…?」
夢。そうだ、確かにそう、ただの夢。
「今日からも、夢と同じ事は起きるから。大丈夫だから。平気…だから」
ああ、そうだったら、どんなに嬉しいことか。
でもね、10代目。オレにはもう、分かってるんです。
オレは、死ぬんです。
もう、オレは誰にも逢えない。
もう山本にも、雲雀にも、シャマルにも笹川にも姉貴にもハルにもちびたちにも跳ね馬にもふぅ太にもリボーンさんにも。
……貴方にも。
もう、みんなに、逢えない。
それが、とてもとても、悲しい。
―――――でも。
「10代目」
何の奇跡か知らないけれど。
「さよなら」
最後に、貴方に逢えて、よかったです。
気が付くと、光がオレを包み込んでいて―――
++++++++++
そしてそのまま、オレは―――
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