絶望の種 0/ Gokudera Side
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ああ腹が立つ腹が立つ。オレが一体なにをしたというのだろうか。理不尽だ理不尽だ。

痛みを感じている間はまだ忘れることが出来たのに。生きていると実感がまだ持てたのに。今はそれすらも出来ない。

じくじくじくじくと心が痛んでいく。苦しい。どくどくと心が黒い何かに染まっていく。ああいらいらするいらいらする。

思いっきり手を握って爪で皮膚を切ることすら出来ない。まぁ爪はこの間剥げたんだが。あれはかなり痛かった。生きてると実感できた。

あああとなにが出来る?なにが出来る。どうすればオレを傷付けられる。

思いつく限りの暴言でも吐いてみようか。少しは気が紛れるかも知れない。


て。いうか。

ああ、なんだ。

それよりももっと良いことがあるじゃないか。

いずれ死ぬ身体。

それが少しぐらい早まっても。何の問題もないだろう。

だって。オレの身体は誰にも直せないのだから。

今死んだって。何の問題があるだろうか。

オレは思いっきり口を開いて。思いっきり閉じた。


次に目覚めた時。口の中には舌を咬まれないようにか布が押し込められていた。


ああ心が壊れてく。目の前が虚ろになっていく。

シャマルに願った。もう殺して欲しいと。

だって辛い。生きていくのが辛い。何も出来ないのが辛い。死を待つ時間が辛い。

けれど…シャマルはオレの願いを聞き入れてはくれなかった。


「家族にそんなことは出来ない」


そう言って。オレの要望を跳ね除けてしまった。

ただ横になってるだけの生活が過ぎていく。それはただただ苦しくて。

そんなある日。オレの所に珍しくシャマル以外の来客が訪れた。


跳ね馬のディーノ。


あいつはオレの状態を見て呆れてたみたいだ。どうでも良い。うぜぇ。

ディーノはオレの口の中の布を取ってくれた。久々に出来る満足な呼吸。中に何かが滲みこんであったのか上手く口を動かせないが。

それにしてもこいつは一体なにしに来たというのだろうか。するべき事もあるだろうに。

オレでも笑いにきたのだろうか?そんなあらぬ考えすら浮かんでくる。前なら考えも付かなかったことだろうに。

けれども今のこの状態は。全ての負の想像が確信へと変わってしまう。そうかもしれないがそうに違いないに。


「っは…れを、笑いに来たのか…?」


けれどもディーノはオレの言葉に応えず。厳しい目付きで別の事を。


「馬鹿なことしてんじゃねぇよ」


…ああ、何を言っているんだろうかこいつは。

一体こいつにオレのなにが分かるというのだろうか。


何も知らないくせに。

何も分かるはずがないくせに。


「…ぇに、――にが、分かる…」


ああ、死にたい。死にたい。こんな世界はうんざりだ。

…そういえばシャマルは駄目だったがこいつならどうだろうか。オレを殺してくれるだろうか。


「………なぁ」

「あ?」


苦しくて。苦しくて。藁にも紙にも縋る思いで言葉を放つ。


「シャマルが…な。オレの頼みを…聞いてくれねぇんだ」


ディーノの眼が見開かれたような気がする。けれどここまで来て口は止まらない。止まらない。


「ひでぇ…よな。まったく…てめぇはさじを投げやがった、くせにさ…」


ディーノの拳が強く握られている。その腕は震えてる。


「―――生きてても…辛いだけなのによ…」


ああ、辛い。辛い。弱音ばかり吐いてしまう。こんな自分も嫌だ。


「な…でぃ、の…」


弱々しい自分の声に腹が立つ。歯を食い縛りたくとも拳を握り締めたくともそれすら出来なくされた身体。ああ忌々しい。

だから。こんな身体とは。世界とはどうか切り離して欲しいんだ。


「―――オレを…殺してくれねぇか?」