本日は晴天なり。


晴れ続き、熱過ぎて。ああ、いらいらする。


それはこの暑さなのせいなのか、それとも大多数での殴りあいなんかしたからか。…ああ、この世界は腹立しいことこの上ない。



白昼夢



まだ五月なのに、まるで真夏日のような灼熱に身を包まれる。


それなのになんでオレは学校の屋上だなんてこの辺りで一番太陽に近い場所にいるのかというと…その理由は至極単純。呼び出しだ。


相手は名も知らぬ不良の集団。屋上を指名する辺りこの学校の生徒なんだろうが、誰であれ売られた喧嘩は買う主義だ。


喧嘩の経緯と結果は言うまでもないな? 無論オレの圧勝だ。奴らには「数=強さ」ではないことを教えてやった。


階下ではまだ授業中。戻って注目を浴びるのも煩わしく、休み時間になるまでこうして煙草を吸って時間を潰している。


………ああ、それにしても今日は本当に熱い。思考が溶けてしまいそう。


夏ならば喧しい蝉の声も聞こえてくるのだろうが、あいつらはまだ土の下で後ろに伸びてる奴らのように居眠り中。


当たる熱日に肌が焦げてしまいそうだ。気のせいだろうが汗すら実は流れる前に蒸発しているように錯覚してしまう。


あまりの熱に当てられてか、気が遠くなっていく。世界にしらみが差していく。頭の片隅でこの程度で何ばてているんだと警報が鳴っている。


それに煩いと応えて。煙草を思いっきり吸い込もうと咥え直す。


「ぃて」


煙草ではなく唇を咬んでしまった。しまった不覚だ。


思いのほか強く咬んでしまったのか仄かに鉄錆の味が口内に広がる。慣れた味。懐かしささえ湧いてくる味。


―――初めてこの味を知ったのは、いつだっただろうか。


それは遠い昔の記憶。イタリアの城を飛び出したあと。そしてボンゴレに入る前―――…


毎日、命を賭けていた。


いつ、死んでもおかしくなかった。


人を信じず、最初から疑いかかり、裏切られることを前提に行動して…日々を過ごしていた。


ああ、もうあの頃のことは忘れたいのに。何が思い出させるのだろうか。


滲み出る血の味か。人を殴ったあとの感触か。気を落ち着かせるために吸っていた煙草が原因か。それとも…



「何してるわけ?」



突然背後から声。そして気配。


振り向くとそこには最凶の風紀委員。しかもしかめっ面。…いや、あいつはいつでもそんな顔だが。


「………別に」


呟いて、また背を向ける。


…今はあいつと話す気分ではない。


―――あいつは、こちらのことなんて。いつだって知ったことではないのだが。


「別に? …ここで乱闘騒ぎがあったって報告が来たんだけど…それってこいつらとキミなんでしょ?」


少し冷えた声。それはあいつの不機嫌な時の声。


けれどオレはそれに応えない。…今は何も言いたくない気分だ。


そうしているとふわっと、風が吹いた。あいつの気配が消える。オレは考えるよりも前に右に半歩。移動した。


直ぐ横に強い衝撃。風圧で髪がいくつか飛んで消えていった。


…今の。避けなかったらモロに後頭部に喰らったんだろうなぁ…。なんて気分はまるで他人事のように。


「…キミ。今日はいつもと違うね」


声が聞こえたかと思うと、急に顎を掴まれた。強制的に左を向けさせられる。


「まぁ、そんなキミも悪くはないけど。…ねぇ。僕を見てよ」


あいつの顔が凶悪に歪んでる。その長い指は顎を這い上がって血の滴る唇へ。


あいつは何を思ったのかそれともそれに引き寄せられもしたのか。オレの口から煙草を取って。近付いて…傷のあるオレの唇を―――


………ガリッ


思いっきり咬みやがった。


「って、いってぇえええええ!!」


「目、覚めた?」


「…あ?」


気が付いたら、眼前に笑みを浮かべた雲雀の顔。


「やっと僕を見たね」


「は…? 何の話…ってなんでこんなに距離が近いんだよ! てかなんだこの手は!! 離れろ!!」


「ワオ。その年でもうボケが始まった…? 可哀想に、もう数分前のことも覚えてないんだ…」


「本気で同情している風に言うなよ! てか覚えてるわ!」


うろだけど。


どうにも…さっきまでの出来事が客観的にしか思い出せない。だがボケなどではないと断言出来る。…たぶん。


「ていうか…戻っちゃったね」


「あ…?」


「さっきのキミ、なかなか好みだったのに」


「は・・・!?」


ちょ、こいつ…いきなりなに言ってんだ!?


「ま…少し面白かったから。ここでの件は不問にしてあげるよ。…じゃあね」


そう言って雲雀は、あっという間に離れて…行ってしまった。


…ってちょっと待て。


あの野郎…オレの煙草持って行きやがった。ていうかオレの口端からは奴に容赦なく咬まれたおかげで血がだらだらと出ている。


…ここまでされて、黙りを決めるオレではない。


「のやろ…、わけわかんねーことほざいてんじゃねーよ! 待ちやがれ!!」


叫んでオレは雲雀を追い駆けて行く。


……追い駆けた結果は…言いたくはないが。



―――本日は晴天なり。


晴れ続き、暑過ぎて。ああ、いらいらする。


でも今はこの暑さよりもなによりも、あいつに一番腹が立つ!!





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いいからいっぺん殴らせろ!!


リクエスト「現代雲獄。屋上でちゅー。」
雨宮おねーさまへ捧げさせて頂きます。
リクエストありがとうございました。