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この素晴らしい
○○をもう一度
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「雲雀!待ってくれ!!」
俺はすがるような視線で前に座る雲雀に叫んだ。
「そんな事を言っても君は“十代目”を選ぶんだろ?」
「確かに十代目は大切な人だ。けど、俺は・・・俺は・・・」
言いかけながらも次の言葉が続かない。雲雀は今までそらしていた視線を俺に向けた。
「隼人、それから先を言ってはいけない。帰れなくなるよ?」
「けど、俺は正直に生きたいんだ。俺は、雲雀の事を・・・」
好きなんだ。そう続けるために俺は唇をゆっくり動かした。
「俺は・・・雲雀・・・を・・・雲雀を・・・・」
「僕を?なに」
「雲雀を・・・だな、俺は・・・」
「うん。僕を、隼人が?」
「すすす・・・・すすすすすすすすす・・・・・・・・」
ドンガラガシャーン
「言えるか!果てろーーー!!!!」
「カーーーーっト!!」
俺が叫びながら机をひっくり返すのが先か、カットの声が入るのが先か。周りを囲むギャラリーからはいっせいに溜め息が漏れる。
俺が顔を真っ赤にしながら肩で息をしていると雲雀は懐からメモ帳を取り出しわざとらしく「正」の字に一本付け足した。
「通算25回目。新記録だね、隼人」
「うるさい!脚本が悪いんだ!」
苛立たしげに怒鳴りつけるとギャラリーの中から十代目が現れる。
「また駄目だったの?」
「え・・・はい、すいません」
「ほら、やっぱり獄寺君にはこの配役は無理だよ。もう一度、組みなおしませんか?」
どことなく嬉しそうな十代目。雲雀はその言葉に目を細めて俺を睨みつける。
「ほら、君がちゃんとしないからこんな事になるんだよ」
「お、俺が悪いって言うのか!そもそも俺は乗り気じゃなかったんだ!それなのにお前が無理やり・・・」
「けど他に手は無いからね・・・一番手っ取り早い方法とも思うよ」
ニコニコと笑いながら俺を諭す十代目。何で貴方はそんなに楽しそうなのですか?
孤立無援。此処には俺の意見に賛同してくれる奴はいない。
そもそも無理なんだよ。俺達が自主映画なんて。
だけど十代目を困らせるわけにも行かないし、他の手があるのか?と問われても思いつかない。
結局演じきるしかないのか。俺はそんな事を考えながら、台本をもう一度手に取った。
【この素晴らしい○○をもう一度】
数週間前。俺達の通う並盛中学校の南校舎は崩壊した。
原因は・・・俺達の指輪争奪戦だったりする。校庭の舞台装置、屋上に謎のオブジェクト、突風による校舎内の破壊などなど。
よく今まで問題にならなかったものだ、と思う。けど結果的に戦いが続いた並盛校舎は限界を向かえ、先日鉄筋の骨組みだけを残して崩れ果てた。
それはもう見事なぐらいに。唯一運がよかったのは校舎内に生徒がいないときに崩れたため、怪我人がいなかったことだけだろう。
けれど校舎が無いのでは話にならない。現在授業などは他の無事な校舎を使っているが、これからもそのままと言うわけには行かないだろう。
そもそも今日明日で校舎がたつのか、と言われればNOだがそれより先に予算すらすぐに集められるのかも分からない。どちらかというとこちらの方が目下の悩みだった。
街頭募金活動、父兄からの寄付。限界があるのは目に見えている。
そんなとき、話題に上がったのが『自主映画』と言う名の資金集めだった。上映会でのチケットなどの販売による収入。
そして運がいいのか悪いのか、数ヶ月後に学生を対象とした賞金つきの自主映画の大会があることが分かった。両方が手に入ればかなりの金額になるだろう。
さらにこれで学校名が挙がれば寄付の対象も増える。県等お偉いさんからの資金ももらいやすくなるだろう。
そんなこんなで俺が怪我のために休んでる間に話が進んでたのが数週間前のこと。
風紀委員会がスタッフなどを行なう製作委員会として名乗りを上げたのがその翌日。
そして誰にも有無を言わさず映画に出演するキャストが決まってたのは俺が学校へ復帰する前日のことだった。
ヒロイン:獄寺 隼人
名前を見たとき、口にくわえていたタバコを落としたのは言うまでも無い。
何故、誰も突っ込まない。何故、誰も止めない。けれどそれは目を少し上を上げたところで納得することになる。
監督・出演:雲雀 恭弥
あぁ・・・怖くて誰もつっこめなかったのか。
というか製作委員会が風紀委員と言う時点で監督は決まっていたようなものだった。
彼は校舎崩壊の一因は俺達にあるとして有無を言わさず出演を強要(しっかり他の役には十代目や山本も入っていた)。
そして文化祭での公開を目標に俺達の映画との戦いは火花を切って落とされた。
まぁそんな現状なわけなのだが・・・。
「だから雲雀さんが相手役なんて獄寺君には無理なんですよ。もっとやりやすい相手にするべきだと俺は思うんですが・・・」
と俺とは別シーンで登場予定の十代目。
「素人が演技に集中できなくって失敗するのは珍しいことじゃないだろう。別に僕は気にしない。だからこのまま続けるよ」
と監督兼出演・・・しかもヒロインの思い人役の雲雀。
この二人のせいで日々、撮影スケジュールは遅れていた。
信じられないことに映画の内容はラブロマンスだった。
借金を理由に極道の十代目に嫁いだヒロインが、組に所属している暗殺者と真実の恋に落ちるラブストーリー。
・・・とても中学生の自主映画とは思えない内容だったが、十代目と雲雀は毎日のようにこのヒロインの相手役をめぐって論争を繰り広げている。
「そもそも僕は君が隼人の夫役って言うことにも納得いかないんだからね。出演できるだけマシと思ってよ」
「出演といってもまるで計算されたかのように獄寺君と二人っきりのシーンなんて無いじゃないですか。それに何度も言いますが獄寺君には雲雀さんはちょっと役不足じゃ・・・」
「・・・役不足?相当君も噛み殺されたいみたいだね。遠慮無くいってくれれば夫役なんて演じれなくなるくらいの大怪我をさせてあげるのに」
「あははは、この程度で熱くなるなんで雲雀さんの器もたかが知れてますね?それで獄寺君の相手役を演じようなんて恥ずかしくないんですか?」
「恥ずかしいも何も僕だったら演技無しでも隼人と二人でカメラに映るだけで絵になるからね。それに僕は・・・妻より背の低い夫役は演じられないから、それはぴったりな君に譲ってあげるよ」
あはははは、と十代目が笑う。無言のまま口の端を吊り上げて雲雀が笑う。和やかな二人の表情とは裏腹に、二人の間には悪意に満ちたオーラが漂い始めていた。
「っていうかさ、夫役の君の出演シーンは全部取り終えたんだろ?もう出番無いんだからとっとと帰りなよ」
「でもほら、急にどんなアクシデントがあるか分からないじゃないですか?例えば・・・ヒロインの相手役が倒れてきた大道具の下敷きになって演技不可能になって代役が必要になったりするかもしれないし」
「残念ながら此処には君の期待するような大道具は無いんでね。心配は要らないよ」
「あー、そうですね。けど急病とかってのもありえるんじゃないですか?たとえば飲み物でお腹を壊したり、とか」
「そうだね。さっき匿名の生徒の差し入れのコーヒーで食中毒を起こした風紀委員がいたけど、それはカメラマンだし代役も立ててるから問題ないよ」
あ、それでカメラマンが山本になっていたのか。っていうかアイツは無言でカメラを俺に向けっぱなしの様な気がするのは気のせいか。
フィルムが回っていたら問答無用で取り替えそう。俺は忘れないように台本端にメモを取ると、手近にあったコーヒーに手を伸ばした。
「あ、駄目だよ!獄寺君!」
「へ?」
飲もうとしたところで十代目に取り上げられる。
「これはファンの子が“雲雀さんの為”に持ってきてくれたコーヒーだよ。ほら、名前も書いてあるでしょ?」
「あ、本当だ・・・気づきませんでした」
「撮影を頑張っている獄寺君には俺が差し入れのジュース持ってきたからこれ飲んでよ」
「あ、ありがとうございます十代目!!!」
俺は感動のあまりに渡されたジュースから後光が差すのを感じた。
「ってワケで雲雀さんも他の人に飲まれないうちに飲んでくださいね」
優しい十代目は俺から取り上げたコーヒー缶を雲雀に手渡す。なんて素晴らしい人なんだ、十代目は!
お礼もなしに仏頂面でうけとる雲雀とは大違いだと俺は思った。
しかし、十代目が差し入れを持ってきてくれるくらい俺の演技に期待されているなんて・・・。シーンごとに様子を見に来てくれていたのに気づかない俺は大馬鹿だ。
十代目が見てるのだ。ジュースの恩に報いるわけでも、今度こそ成功させねば!俺は使命感に燃え上がった。
「雲雀!このシーンとっとと終わらせるぞ」
台本を置くと俺は立ち上がる。
「なんか分からないけど、随分やる気が出たみたいだね」
雲雀はそういうと十代目に意味ありげな表情を送って舞台に上がった。なんとなく俺達を見る十代目は面白くなさそうだ。
けど、見ていてください十代目。獄寺隼人。あなたの期待にこたえて見せます。
「シーン33 3・2・1・スタート!」
掛け声と共に再びカメラが回りはじめた。
「雲雀!待ってくれ!!」
俺はすがるような視線で前に座る雲雀に叫んだ。今度こそとちるわけにはいかない。
「そんな事を言っても君は“十代目”を選ぶんだろ?」
「確かに十代目は大切な人だ。けど、俺は・・・俺は・・・」
雲雀を見つめ、そして一度視線を落とす。雲雀は逆にそらしていた視線を俺に向けた。
「隼人、それから先を言ってはいけない。帰れなくなるよ?」
「けど、俺は正直に生きたいんだ。俺は、雲雀の事を・・・」
「隼人・・・」
「俺は・・・雲雀・・・を・・・好きなんだ・・・・」
言えた!流石に台詞の恥ずかしさに頬を染めたが、台本どおり読みきれた。
「ありがとう、隼人」
雲雀は次の演技に入り俺の手を取る。見詰め合う二人。のシーンだ。
「君にそういってもらえて嬉しいよ」
「雲雀・・・」
手を強く握り合う。お互いの気持ちを確かめ合う、のあたりだな。
「雲雀、俺・・・」
じゃあ次の台詞は・・・。
「けどお前の気持ちにはこたえられない」
そう言い切った瞬間、雲雀の顔がこれまで見たことが無いというくらい破顔した。
「は、はやと・・・・?」
動揺する雲雀。おぉ、台本に書かれていた以上の演技だ。俺は彼の演技力に心の中で喝采しながら演技を続けた。
「お前に愛してると言ってもらえて嬉しかった。けど、俺の好きとお前の好きは違うんだ」
「・・・・・・・・・・」
「殺し屋としてのお前には好意も持っている。けどそれはあくまで仲間としてであって・・・愛とは違うんだ」
手を振り払い立ち上がると自分の掌を胸の前にあてがう。ここまで俺の台詞も演技も台本どおりだな。
なんか俺の演技を見守っている十代目の顔も破顔しているように感じたが俺は演技に集中するために無視した。
「俺の愛は夫である十代目に向けられたものでも、仲間であるお前に向けられたものでもない。俺が本当に好きなのは・・・」
彼なんだ。すっと舞台端に手を向けた。
雲雀の視線がそちらをむく。十代目も驚いたように顔を動かす。・・・唯一動いてないのは山本と彼の持っているカメラくらいだった。
俺は演技を続けて舞台端に走る。台本どおりなら、もう出てくるはず。
「愛しています、リボーンさん!!!」
現れた小さな影を見つけると、俺は駆け寄り抱擁を交わした。
「どうか俺を連れて逃げてください!」
「いいのか?俺は裏切り者の暗殺者として命を狙われるだろうし、お前の身だって危険にさらされるんだぞ」
「かまいません・・・リボーンさんが愛してくれるなら・・・俺、どんなことにも耐えられます」
「・・・・・獄寺」
「・・・・・リボーンさん」
目を閉じて抱きしめあう二人。感動のラストシーンだ。
黙って見守るギャラリー。雲雀も凝視したまま動かない。十代目も固まっている。
そして、抱きしめ続ける俺達にいつまで経ってもカットの声も撮影終了の声も聞こえてくることが無く・・・結局、フィルムが切れた直後に正気に戻った山本の絶叫によってこの日の撮影は終了した。
後日、十代目から借りた台本を見て俺は絶句した。俺の持っている台本と、十代目達に配られた台本ではラストシーンが違うのだ。
なんでこんな事になっているのかは分からない。ただ十代目は動揺する俺に、台本の最後尾のページを開いて指差した。
脚本・編集:リボーン
この後、公開された映画は何故か俺の持っていた台本とも十代目達が持っていた台本とも内容がまったく違う作品になっており、撮影したシーンを上手く組み合わせてそれはそれは感動的な映画として出来上がっていた。評判、評価共に大好評。当初の予算集めもクリアされ、南校舎は復旧に向けて工事も始まっている。
ただ、その後別の問題が発生することになるとはその時の俺は知らなかった。
「今度は俺が相手役だよね?獄寺くん」
「君達、噛み殺されたいの?勿論僕に決まってるよね、隼人」
「なぁなぁ、今度は俺だよな?獄寺!」
公開当初から上がっていた続編を望む声。それを聞いた俺以外の出演者達がヒロインの相手役を争い日々、競い続けていたりする。
というか俺がヒロイン役なのはすでに決定なんだな。反対の声が今回も出なかったことに涙を流すことになるのは今日の事だった。
そしてヒロイン役の相手役を競っての攻防戦で北校舎が崩壊するのが数日後のことだったが、この時の俺達はまだ知るはずもない話。・・・知りたくも無い話。
(言い訳という名のあとがき)
9999番を踏んでくださった、熊侍さまにささげます。
リクエストは「ツナと雲雀の獄争奪戦」と言うことでしたがクリアできてますでしょうか?(びくびく)ご期待に添えたか分かりませんがリボ獄も入れてみました。美味しい所取りのリボーンです。復活ワールド一の年の差カップル。今一押しですな!ぜひともお互い布教していきましょう!!
では、こんな感じで微妙で絶妙な味わいの作品になってしまいましたが、よろしければ受け取ってやってくださいvv
キリリク有難うございました!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
花ミドリ恋ワズライ のヒビキ様から頂きました!
はぅー、いつでもヒビキ様のツナとヒバりんでの獄寺くん争奪戦は熾烈で感動です!!
何気に山本には正々堂々と盗撮されていたりといつ見ても愛されてますね獄寺くん!
獄寺くんの原作にも負けず劣らないであろう空回りっぷりも萌えです! ああもう素敵!
獄寺くんの迫真の演技に熊はどきどきです。しかしリボ様。編集て。
…それほどまでに獄寺くんと熱き抱擁を交わしたかったのか! きゃー///
後日ヒロインの想い人役の熱烈アピールの毎日で本当にリボ様に
「オレを連れて逃げて下さい」とか言いそうで萌えです☆
ヒビキ様ありがとうございましたー!!
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