愛してると叫ばないで

「お前、俺のことが好きなんだろ?」
 そう言って笑ったリボーンさんに、何か返事を返そうと思ったがあまりにもその声が色っぽかった所為か、背中がぞくぞくし身体を揺らしただけでまともな返答は出来なかった。

 俺達が高校に上がった頃、アルコバレーノの呪いが段々と薄れてきたようだとリボーンさんは仰った。詳細は今だ教えて頂いていない。しかし仰った通り、俺達が三年生になる今、リボーンさんは四、五歳くらいの少女の姿をしている。そんな姿ではあるが、きっちりとスーツを着て、ピンと背をのばして立つ姿は美しく格好良い。口調はきつく、分かり難いけれど、正しい道を示してくれる優しさを持ってらっしゃる。獲物を狙う瞳は鋭く、正しい判断を瞬時に下される。
 そんなリボーンさんを敬愛し、憧れている。少なくとも俺はそう思い、例えば彼女を恋愛の対象として見ているという自覚は無かった。
 溜息が零れた。国語教師が源氏物語を読み上げつつ俺の顔をちらと見てきたが、それを無視し、机に肘をつく。
 リボーンさんは読心術を使われる。だからあながち間違いではないのではないか。
 そんなことをずっと考えていた。リボーンさんが俺を揶揄しているだけであればどんなに良いだろう。いや、その可能性が高いと思うのに、悩んでしまう自分がいる。リボーンさんは正しい事を仰られるが、冗談も言われる方だからと言い訳をしても、気になるのは本当に俺がリボーンさんに恋をしているからなのではと考えてしまう。
 机に突っ伏し、頭を抱えた。考え出すとその思考から抜け出せない。昨日も結局考え出してしまった所為で朝方まで寝付けなかった。
 けれど結局、どれだけ悩んでも結論は出ているのだ。リボーンさんは10代目だけでなく俺にとっても家庭教師であり、尊敬できる先輩であり、俺達の世界で最強のヒットマンと呼ばれる有名な御方であって、欲望を向けるべき対象ではない。それは失礼に値する。
 チャイムが鳴った。がたがたと机や椅子を動かす音が聞こえ、頭を上げた。後ろの方の席におられる10代目の方に顔を向けると10代目と視線が合い、自然と笑みが浮かぶ。立ち上がり、10代目の方に歩み寄る。
「お疲れ様っす!」
「獄寺君もお疲れ様」
 にっこりと笑みを浮かべ、見上げてくる10代目の顔に悩みが吹っ飛ぶかと思ったが、実際は頭に渦巻く靄は消えることは無かった。
「今日ちょっと体調悪そうだね」
「そんなことないっすよ!」
 心配させない為に、にかっと笑みを浮かべたつもりだったが10代目は困ったように笑われただけだった。
 10代目はそれ以上俺に何も訊かれなかった。けれど急にたくさん食べたくなったと、俺が購買に昼食を買いに行く際についてこられた。
 そこまで心配をかけてしまっていることに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。10代目の為にもこの話はさっさと忘れなければいけないと思う。それなのにリボーンさんは昨日と同じように放課後、俺がご自宅まで10代目を送った後に現れられた。にっと口角を吊り上げ、ポケットに手を突っ込み、リボーンさんは俺を見る。
「な、俺のこと好きだろ?」
 その言葉に足元がふらついた。違います、と言う為に反射的に口を開いたが、口から出てきたのは言葉にならないただの声だった。
 見上げてくるリボーンさんの瞳から目を離したかった。心臓が壊れるのではないかというほど早鐘を打つ。10代目に同じように見上げられた時は自然と笑みが浮かんだというのに、今の俺には無理やり口元に力を入れても引き攣った笑みしか浮かばないだろう。笑う気にはなれない。
「どうしてそんなことを言うんですか」
 絞り出した声は擦れていた。
 考えることを放棄したかった。けれどリボーンさんは待っていたとばかりに、俺を突き放すように、楽しそうに口を開く。
「お前が好きだからだぞ」
 良かったな両思いだぞ、獄寺。
 その言葉に今度こそ文字通り目の前が真っ暗になった。

 昔から頭の中で処理しきれないことがあると気を失うことが何度かあった。それに情けないとは思いつつも、意識して治ることではない。
 目を開けると見慣れているが確かに自分の部屋のものではない天井が視界に入ってきた。それがどこのものだったかと考えたいのに、それよりも身体にかかる重みの方に意識は向かう。寝たままの状態で視界を腹の方へと向けると黒い物体が見え、反射的に上半身を肘で支えて中途半端に起こした。
「り、リボーンさんっ!?」
 掛け布団を両腕で掴み、俺の腹の上で彼女は静かに眠っていた。いつも通りうっすらと目を開き、本当は起きているのではないかと勘繰ってしまう。けれど帽子がずり落ちていても何も反応を起こさない彼女は確かに寝ているのだろう。
 俺が声を上げても彼女は起きる気配はなかった。混乱している頭のまま、室内を見回すと見慣れた理由はすぐに分かった。リボーンさんがいることですぐに分かっても良かったと思うが、ここは10代目のお部屋だ。その部屋の、どうやら自分は10代目のベッドに寝ているようだと気付くが、リボーンさんが乗っている状態で動く訳にもいかない。
「リボーンさん、女性がこんなことをするべきでは無いと思います」
 そう再度声をかけてみてもリボーンさんが起きられた気配は無く、ぎゅっと拳を握りしめた。リボーンさんの顔を見るのが辛くて、肘で身体を支えることを止め、ベッドに再度横たわった。規則的な寝息も聞くのが嫌で、両手で耳を押さえる。そうして寝ている彼女が視界に入るのは自ら視線を向けているだけだと分かっているのに、目をぎゅっと瞑った。それでもリボーンさんの体温や呼吸の為に動くのが感じられ、唇を噛み締める。
 普段の俺だったら真っ赤になって慌てていたかもしれないが、そうするほどの元気もなかった。けれど心臓が落ち着いている訳ではない。リボーンさんを起こすのではないかと錯覚を受けるほど今までよりも早く強く動いている。
 好きだとリボーンさんは俺が気を失う前に仰った。どうしてそんなことを仰ったのか意図が理解できない。けれど俺が好きという言葉はまだしも、彼女が俺を好きというのが嘘なのは当然だろう。嫌がらせだろうか。
 そう思うと悲しいのか悔しいのか鼻の奥がツンとした。目の奥が熱く、より一層目を強く瞑る。出来ればうつ伏せに寝転んで、枕に顔を押し付けたいがリボーンさんがいらっしゃるし、ここは10代目のお部屋だったのでそんなことをする訳にはいかなかった。さっさと家に帰りたいと、かろうじて涙は出ていなかったが目元を一度擦り、再度肘で身体を支え上半身を起こした。
「リボーンさん、起きて下さい」
 恐らく揺さぶれば起きられるだろうに、自分からは触れなかった。姉貴の所為で女という生き物が苦手というのもあるだろうが、それだけではない気がする。けれどその理由を考えている余裕が無く、お願いします、とリボーンさんに懇願した。その言葉には自然と熱がこもり、ほんの少し震えていた。
「お前はへたれにも程があるぞ」
 どうやらリボーンさんは起きられていたらしい。溜息と共にそう仰られたが、身体を起こされることはなかった。それどころかシーツを掴む力を強め、顔をこちらに向けられる。下からしっかりと目を見られ、どうしてか目を逸らせなかった。
「お前をここまで運ぶのは大変だったんだぞ、獄寺」
「あ、すいませ」
「俺が運んだんじゃねーけどな」
 ニヤッと笑われるリボーンさんに、人が悪いと内心で思った。あとで10代目に謝罪しようと思いつつ、リボーンさんに退いて欲しい旨を伝える。けれどリボーンさんは、退かしてみろと笑うだけで動く気配は無い。それに表情が強張るのが分かった。俺が困っているのを見てリボーンさんは笑みを深められる。
 まだこれ以上俺をからかうのか。そんなに俺が嫌いなのかと訊きたい。けれどいざ訊こうと口を開くと恐怖を感じ、口は思うように動かなかった。仰る通りへたれだと、ぎゅっとシーツを握り、奥歯を噛み締める。
「お前は俺の言葉が信じられないのか?」
 ほんの少しの沈黙の後、リボーンさんは徐に口を開いた。俺の腹に手をつき、身体を起こして下から俺の顔を覗き込む。至近距離にあるリボーンさんの顔から距離を取ろうと動こうとしても彼女が俺の上に乗っている以上、無駄な努力だった。心臓がバクバクと五月蠅く鳴り、何か返答しようと思うのに口どころか頭が動かない。
 そんな俺に気付かれているだろうに、リボーンさんは今度こそ何も仰らない。おそらく俺の返答を待っていらっしゃるのだろう。
 唾を飲み込む音が部屋に響いたような気がした。
「信じたい、です。でも俺がもし貴方の事が好きだとして」
「もしじゃねー。お前は俺に惚れてるし、俺もお前に惚れてる」
「…っほんとうにそうだったとしてもそれだけでしょう?」
 何かが変わるわけでもないのにこれ以上この話をするのは止めて下さい。そう、まるで懇願するかのようにリボーンさんに言った。それにリボーンさんは眉間に眉を寄せ、片手を動かした。反射的に距離を取ろうとしたがやはり無駄に終わり、怒ったような顔のリボーンさんに力いっぱい頬を抓られる。
「お前はぜってーに自分から俺に手をのばさねーな」
 身体相応の小さい手だというのに力は強かった。思わず、いひゃいです、と言うと我慢しろとピシャリと言われる。
「お前から何もしないなら俺からする。文句はねーな?」
「いえ、ありま」
「ねーだろ」
 す、と言う前に言われた言葉は疑問ではなく断定だった。
「お前が音を上げても触りまくってやる」
 後悔しろと言って、ふん、と鼻を鳴らしたリボーンさんは本気で怒ってらっしゃるらしい。俺の腹に跨り、両手で顔や体をぺたぺたと触る少女に今度こそ顔が真っ赤になったのが分かった。それでもリボーンさんの手首を掴めず、ぎゅっと目を瞑ってやり過ごそうと思った。
 それなのに目を瞑った途端に唇に湿った柔らかいものを押し当てられるのを感じた。ばっと口元を手で押さえ、目の前にあるリボーンさんの顔に情けない事に悲鳴の様な声が漏れる。
「りりりりりぼんさ…っ!?」
「指だ」
 口元は笑っているが目は笑っていない。指を唾で湿らせて押し当てた、とけろっと言う彼女に泣き出しそうだった。
「も、許して下さい…」
「うっせえ。俺がお前を好きだとちゃんと理解するまで逃がさねーからな」
 そうして笑ったリボーンさんの目はやっぱり笑っていなかった。
「り、リボーンさんどうしていきなりこんなことを言い出されたんですか…!」
 どうにかしてこの状況を打破しようと思い、そう話しかけた。それはどうやらリボーンさんには訊かれたくなかったことのようで、一瞬手を止められたが、またすぐに手は動きを再開し俺の頬を両手で挟んだ。
「お前が一昨日告白されていたからだ」
「えっ?」
 今更ですか、という言葉は呑み込んだつもりだったがリボーンさんには伝わったらしく、彼女は不機嫌そうにむっと顔を歪めた。それに比例して、ぎゅううとまるで照れ隠しのように顔を挟む力を強められる。
「いつもより断るのが遅かったお前が悪い」
 その一言を聞いた後、今痛みを加えられていることに若干感謝した。おそらくそうして痛いということに意識が向いていなかったら、俺の表情は馬鹿みたいに緩んでいたことだろう。そしてそう考えた自分に、逃げ道はないことを悟った。







「女の子リボーンさん」でした。捏造館の熊侍さまに捧げます。獄リボ?いいえ、リボ獄です。
この後の展開はツナ様が乱入してくるでも、獄寺が負けるでも良いと思います。
男の子みたいでも女の子なリボーンちゃんを目指した…かったです。
相互ありがとうございます!これから仲良くして下さると嬉しいです!



( ゚∀゚)o彡゜よーじょ! よーじょ! つるぺたようじょ!!

…すいません5歳リボーンさんと聞いてまずこれをしました…幼女…はぁはぁ幼女萌えー!!
というわけで幼女もとい女の子リボーンさん可愛すぎです!!
5歳! まさかの5歳という新天地に熊はときめきを隠しきれません…!!! まさか5歳リボーンさんという世界があったとは!!
そしてリボーンさんの問いに心底本気で考え、しかし性の対象として見るべきではないと決断を下したり5歳の女の子に対して「女性」という言葉を使う獄寺くんはイメージ通りです!! 対女の子リボーンさんの獄寺くんはそうであるべきです!!
女の子で5歳でもオレ様なところが変わらないリボーンちゃん。獄の寝込みを襲ったり身体をぺたぺた触ったりアグレッシブで可愛いです!!
そして事の発端が獄が告白されていたから…!! 断わるのが少しだけ遅かったからとか…!! 可愛い!! 可愛すぎですリボーンちゃん!!
これは獄寺くんも腹をくくるしかありませんね!!

素敵なリボーンちゃん、本当にありがとうございました☆ こちらこそこれからもよろしくお願いします!!