二人で晩餐を(10年後設定)



「10代目。こちらもお願いします」

そう、新たに積まれた書類の束。相手はたかが紙切れだというのになかなかの強敵で。いつまでたってもその山がなくならなくて、正直うんざりする。
「お疲れのご様子ですね」
俺のことになるとどこまでも目ざとい彼は、ため息に気づいたのかいたわるような声色でたずねてきた。

「なんでしたら、サインだけでも結構ですよ。内容に問題がないことはすべて確認済みですし、要点だけまとめたものを作成して明日の朝一でお手元に…」
「いや、いいよ。仮にもボンゴレのボスなんだし、ちゃんと自分でしなきゃね」
そう、笑顔で獄寺君の言葉をさえぎる。
自分の仕事なんてとっくに終わり俺に付き合ってくれているというのに、それにさらに負担をかけるなんてなんだか申し訳がない。
彼のことだ、自らの睡眠時間を削ってまで俺に応えようとするのだろうから。

それにしても……

「こんなことになるんなら、毎日少しずつでもやっとけばよかった。ほんと俺って昔からこうなんだよなー」
そういえば夏休みや冬休みの宿題も、ぎりぎりまでやってなくて毎年のように獄寺君に手伝ってもらってたっけ…そんなことを思い出し、その時も今と同じようなことを言ってたような気がすると小さく笑みが浮かぶ。

しかしはっと、今はそれどころじゃなかったことを思い出した。
目の前のこれを片付けないことには、明日からカプリ島への旅行だというのに問答無用で(それこそボスとか関係なく)留守番役に降格させられるだろう。

2人揃ってイタリアにやって来た京子ちゃんとハルが青の洞窟に行ってみたいと言い出したのが発端で、話がまとまるころには昔馴染みの面々、そのほとんどが行くことになっていた。
ボスである俺をはじめとしたボンゴレの主要メンバー、その大半がアジトを離れることに古参の年寄り連中がいい顔をするはずもなかったのだが、留守にする間の分もちゃんと仕事をしておくからとなんとか言いくるめ、そのためのデスクワークなんだからと再び書類に向かう。

「あまり無理をしてもいけませんし、少し休憩にしましょう。10代目」

静かに、しかし有無を言わせない響きを含んだ声。
それとともにカチャリと音を立て、マホガニーの机の上にティーカップが置かれる。
普段は右腕として従順なくせ、こんな時ばかりは俺がなんと言おうと自分の意志を曲げない強情さをみせる―――それがわかっているから、見上げたその顔にうなずきカップに手を伸ばした。

「そういえば…獄寺君、あいつとは上手くやってるの?」
やっていけてるの?とはさすがに聞けず、言葉を選ぶ。

「あいつ?」
「……リボーン」
「ああ…、おかげさまで。けど昼間、笹川と三浦がタッグ組んで同じようなこと聞いてきましたよ」
もちろん、適当にはぐらかしましたけどね。そうやわらかな苦笑を向けられ、そりゃ気になるからね、と心の内でつぶやく。

他の奴…たとえば山本だとか―――と付き合っているというのならともかく、まさか獄寺君とリボーンが付き合うことになるなんて……10年前、一体誰が想像しただろうか。

「なんだ。ツナ、お前まだ獄寺のことあきらめてなかったのか?」
「リ、リボーン!!?」

ふいに聞こえてきた第三者の声に、獄寺君と二人してその方向へと顔を向ける。

ていうか!
獄寺君の前でなんてこと言ってくれるんだよ!

「あきらめる…?」
ドアの前からこちらに歩み寄ってくるリボーンや俺にというわけではなく、何のことだろうと自分自身に問いかけるような口振りで獄寺君はつぶやいた。

「それより、終わりそうなのか?」
「あ…、はい。この調子なら大丈夫そうです。10代目は、やる時はやる方ですから」
リボーンの問いかけに、まるで自分のことのように誇らしげな獄寺君のほほえみ。
あやうくバレそうになった俺の思いはすでにその頭にないようで、そのほうが都合がいいといえばいいんだけど…ちょっとせつない。

「リボーンさんのほうは…」
「片付けてきた」
「そうですか。おつかれさまです」
そういえば、リボーンもまた任務を抱えていたんだっけ…と、いたわるような獄寺君の口調にそのことを思い出していた。
その口添えがなければ今回の旅行が実現しなかったのは事実だが、それにしたって俺の護衛という名目でリボーンも一緒というのは……あまりうれしくなかったりする。

「今、リボーンさんにもお茶を…」
「獄寺」
その言葉をさえぎった呼びかけに、獄寺君はリボーンを見遣り、つづいて俺のほうへ、そして再びリボーンへと、せわしなく視線を移していく。
俺はといえば、普段と変わらないリボーンの声に、そこに含まれたものがなんなのかさっぱり理解できず2人の様子を見守るだけ。

「10代目の前だというのに…しようのない人ですね」
それは、困ったとも呆れたとも捉えられる言葉。…のはずなのに、なぜ、獄寺君が口にすると、そこにいつくしみさえ感じられるのだろうか。

「だからこそ、だろ」

そしてその反面、ゆったりとソファでくつろぐリボーンになんとなくムカつくのは―――
明らかに獄寺君の想いがリボーンに向けられているせいなのか、それが当たり前で自分が特別なのだとは思ってもいない、そんなリボーンの態度のせい、なのか―――たぶん、両方なんだろうけど。

俺に対し向けられた、にやりと底意地の悪い笑みにカチンときたのも束の間。
「なっ?!」
目の前の光景に、動揺を隠しきれず声が漏れる。

だって、
まさか、

目の前でキスシーンを見せつけられるなんて、普通、考えもしないだろ…

唇を触れさせるだけの軽いものとはいえ、獄寺君からリボーンへ(リボーンがさせたんだけど)というのがまた、絶妙に嫉妬心を煽る。

「ほら。10代目が驚いてるじゃないですか」
「気にするな」

恥ずかしそうに非難する獄寺君の、軽くとはいえにらみつけるようなまなざしをあっさりと受け流しリボーンは飄々と言ってのける。

いや、お前はもう少し俺のことを気にしろ!

「ツナ」
「なんだよ」
リボーンの呼びかけに不貞腐れた声でこたえるが、それさえ面白そうにリボーンの笑みが消えることはない。
「雑務、一人でも大丈夫だろ?獄寺は返してもらうぞ」
確認というよりは、一人でやれという元家庭教師の言葉。

ていうか所有物扱いかよ…!

「行くぞ。獄寺」
「あ、はい」
立ち上がり、それきり振り返りもせずドアへと向かうリボーンに返事をし、けれど獄寺君はうかがうように俺のほうへと見返ってくる。

「10代目、」
「ああ、行っていいよ。明日にそなえてゆっくり休んで」
リボーンなんかにかまってないで、というニュアンスを含ませたつもりだが、はたしてそれが伝わったのかどうか…頭は良いくせに変なところで鈍いから、わかってくれてないかもしれない。
「じゃあ…先に休ませていただきますね。おやすみなさい、10代目」
「おやすみ」

ぱたりとドアが閉ざされ、一人きりになった執務室で重く長い息を吐き出す。

ボスという絶好のポジションにいるはずなのに、どうしてこんなにもそれをいかせてないんだろう。
「俺ってほんと、成長してない…」
あいかわらずダメツナだなーと苦笑い。

けど。

「たのしい旅行になるといいな…」

本心からの一言を呟き、すっかり冷めた紅茶に手を伸ばした。

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アネモネ の雨宮さんが前サイトに飾っていて、けれど改装と同時に消してしまったお話がありました。
そこで縋り付かんばかりの勢いで熊は雨宮さんに言いました。

「捨てるぐらいなら、熊に下さい!!!」

そうしたら心の広い雨宮さんは快く下さったのでした! わほーい、わほーい、わほーい!!!
しかしリボ獄←ツナとかツナ獄寺くんに片想いとかリボ様獄寺くん所有物宣言とか獄寺くんリボ様らぶとか
ていうかツナでさえ分からないリボ様の微妙なニュアンスを完璧に理解する獄寺くんとか
雨宮さんは熊の萌えのつぼを付くのが巧過ぎると思います。もう熊雨宮さんに翻弄されまくり!!
雨宮さんありがとうございましたv