崩れてしまった日常。既にそこには跡形もなく。
終わってしまった平和。戻ることはもう叶わず。
オレが最初からキミの事を話しておけば、こんなことにはならなかったのだろうか。
オレも調査に協力していれば、こんなことから避けられたのだろうか。
思う IF. は募るばかり。
When I want to make you happy. I pray so.
「ん……ぁ、だれ…? な、に……?」
移動中獄寺くんが目を覚ます。ディーノさんに疑問の声。そして今の状況に疑問の声。
「あー…どう説明するか…ツナ、任せた」
「へ?」
言うが早いがディーノさんは目の前にある"いかにも"な黒い車の後部座席に獄寺くんを放り込んで。自分はさっさと運転席に行って。
ついでにリボーンは助手席へと行って。…ああ、オレ貧乏くじね。
獄寺くんを追って車に乗り込むと同時に走り出す車。…そういえばディーノさん部下の人いないけど運転とか大丈夫なのだろうか。
…深くは考えないでおこう。
「―――――ッ、ナ…?」
声を追って見れば、ぼんやりとオレを見上げてくる獄寺くん。いや、あの…説明といわれてもどうすれば良いのか…
「そんな深く考える必要はねぇぞツナ。ありのままを言えばいい」
いや、ありのままといわれても。獄寺くんのありのままを言って誰が信じるのだろうか。
獄寺くんは声につられてか首だけゆっくりと動かして前の席を見て。
「…だ、れ?」
それは目が覚めたときにも出てきた言葉。説明といえばまずここからだろうか。
「あ…運転しているのはディーノさん。助手席にいる赤ん坊はリボーンっていって…二人ともオレと獄寺くんの知り合いだよ」
「ディーノだ。イタリアのキャッバローネファミリーっていうマフィアの10代目ボスを務めている」
…って、いきなり自分でマフィアってばらしたし。
「オレはボンゴレの雇われヒットマンにしてツナの家庭教師のリボーンだ。ついでに、そこの一般人ぶってるツナも立派なマフィア関係だぞ」
「んな!? オレはマフィアになった覚えはないっての!!」
「そうか。じゃあツナだけ仲間外れだな。…獄寺。お前もマフィアだ」
獄寺くんはぼんやりと聞いている。…きちんと聞こえているのだろうか。
獄寺くんは暫し何かを考えて―――…そのうち目蓋が重くなってしまったのか、眠ってしまって。
オレは次獄寺くんが起きたときに、なにをどう説明すればいいのかと迷い思わず頭を抱えた。
「さて…これからどうする?」
ディーノさんの泊まってるホテルの一室に獄寺くんを寝かせると、リボーンが聞いてきた。
「どうするって…」
リボーンの問いに、オレはベッドの上の獄寺くんを流し見る。
…ここについた途中で気が付いた見たいだけど、まだ立って歩けるほどは回復していなくて。この部屋まではディーノさんが抱きかかえて移動して。
「取り合えず獄寺を襲ってきた奴らを潰すか」
取り合えずで結構とんでもないことを言ってくるディーノさん。
「そうだな。ボンゴレに喧嘩売った奴の未来ってのを教えてやらねーと」
ディーノさんの案にリボーンも頷きながら肯定する。あ…そういうものなんだ。
「…じゃ、ツナ。後は任せた」
「――え、ちょ、二人は…?」
オレはリボーンを持って立つディーノさんに獄寺くんを任されるが、どうすれば良いのか分からない。
「オレたちは奴らについて調べてくる。お前は獄寺と適当に話でもしていろ」
「でも、いきなり言っても……」
「お前の知ってる獄寺のことでも話してれば良いだろ。じゃあな」
そう言ってはさっさと立ち退いてしまった二人。獄寺くんはオレを不安げに見上げてる。
…そうだよね。ただでさえ何も分からなくて不安だろうというのに、いきなり襲われて。自分はマフィアだって言われて。
思わず罪悪感が募る。獄寺くんはそうではないのに、一般人だと言ってしまったことに。
「獄寺くん…ごめんね。オレ、獄寺くんに嘘付いてた」
「―――そう、なのか…? じゃ、本当の事を教えてくれよ」
オレはゆっくりと身を起こそうとしている獄寺くんを手で制し。少しずつ、話していった。
「………えっと、獄寺くんはね、実はマフィアなの」
自分で言って、なんだかすごいことだなと思った。
「獄寺くんは数年イタリアで一人で名を上げて…ボンゴレっていうファミリーに入って。時期10代目の右腕になりたくて、日本まで来たの」
獄寺くんはオレの言葉を否定も肯定もせずに、ただ話を聞いてくる。
「ある日獄寺くんはファミリーに帰って。そこで何があったか分からないけど、記憶を失って、帰ってきたんだ。…リボーンの話だと、獄寺くん自身の手で記憶を捨てたらしい」
獄寺くんは何かを考え込むように俯いて。頭が痛いのか抑えて。
「獄寺くん…無茶、しないで」
「いや…ところで、オレは一体どんなヤツだったんだ?」
「あ、うん…獄寺くんはね、いつもダイナマイトを持っていて。気に入らない相手だと大人も子供も変わらず喧嘩を売って」
暫く、そうして獄寺くんとの今までの生活を語り紡いだ。
獄寺くんは自分の破天荒さに最初は呆れていたようだったけど、やがて先程と同じように俯いて考え込んでしまって。
「……獄寺くん?」
「いや…悪い。続けてくれ」
言われて、オレはまた語る。彼と共有した生活を。
そうしていると、リボーンとディーノさんが戻ってきた。
「奴らの正体が掴めた。最近ボンゴレの周りをうろちょろしてる三下ファミリーだ。アジトも近い」
「じゃあさっさと行くか。このまま好きに暴れさせてたら修理費も馬鹿になんねぇ」
リボーンの言葉に賛同するディーノさん。って言うか修理費?
一体何の話だと疑問を持ち。聞く前に―――
「敵だ。伏せろ」
「―――え?」
理解するよりも早く。オレは獄寺くんに頭を床に押し付けられた。
そして鼓膜がいかれるかと思うほどの爆発音。
「〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
耳が、頭が。痛い。音が聞こえない。
「−…・・――…!!」
「…―・・−…――!?」
ディーノさんが、リボーンが。何か言ってるけど。
ごめん。何言ってるか分かんない。全く聞こえない。
と、ぐいっと手を引かれ。
…引いているのは、獄寺くんで。
オレは獄寺くんにされるがまま、部屋を飛び出た。
ああ、ごめんね獄寺くん。
いつまで経ってもオレ、キミに護られてばかりだ―――
部屋を出ると同時に、リボーンも出てきた。鼓膜はまだいかれてる。
二人が何かを話していて。けれどごめん。オレには何も聞こえない。
また獄寺くんに手を引かれて。そのままリボーンと三人、ホテルを後にした。
ホテルを出るまでにも敵は待ち構えていて。リボーンがそいつらを撃ち抜いていく。
客人は居ない。ディーノさんがホテルを全室貸しきっていたからだろう。不幸中の幸い、という奴か。
外に出て。冷たい空気が頬を撫でて。しばらくしてからようやく耳が正常に働いてくれた。
「ツナ? 大丈夫か?」
獄寺くんが心配そうに、聞いてきてくれる。
「うん。平気……ごめんね。獄寺くん」
「え? 何が?」
「オレ、獄寺くんに護られてばかりだね…いつになっても」
「全くだな。少しは根性見せろよツナ」
リボーンに罵られる。うう、辛い。
「いや、オレは別に…」
「オレが構うの! よし、決めた!!」
「え?」
オレは獄寺くんの手をぎゅっと握って。獄寺くんを真直ぐに見て。
「獄寺くん。今度獄寺くんが危ない目に遭った時は、オレが絶対助けるからね!!」
そう、誓った。
獄寺くんはぽかんとしてて。何を言われたのか分かっていないようで。
「いや、無理だろそれは」
…せっかく良い感じに格好付けれたのに、リボーンが水を差す。この野郎。
「無理って言うなよ! 絶対絶対絶対助けるの! 分かった!?」
オレがそこまで言うと、獄寺くんは笑ってくれた。
「…ありがとな。じゃ、期待してるから」
その笑顔だけでも。オレはそれを言った意味はあったと。そう思った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それは決意。間違いなくオレの決意。誰にも否定出来ない決意。
絶対にそうすると。オレに。獄寺くんに誓って。…そうして本当に助けたいと願った。
それはそんな―――――オレの愚かな決意。
→