□貴方の為に。だた、ただ。



「まったく…」


リボーンさんはほとほと呆れ返った、という雰囲気で俺を見た。


「…すみませ…っ…」
「黙ってろ、喋るな」


謝ろうと。
しはしたが、まともな声ではない。

ガラガラで、鼻声。
幸い鼻水はないが、視界全体がぼやけていて喉も痛い。
熱のせいだろう。
頭がガンガンと、鈍器で殴られたようだ。
時たま襲ってくる例えようのない吐き気が忌ま忌ましい。



不肖、獄寺隼人。
風邪をひいた。




「てめぇは体調管理の一つも満足に出来ねぇのか」
「…すみ、ません」
「本部に連絡もしねぇで。俺が来なかったらどうしたんだよ」
「すみ…せ…っ」
「誰も謝れなんて言っちゃいねぇ」
「す、ま…せん」
「だから…っ」
「すみませ…」


リボーンさんはいよいよ呆れた顔をした。
謝罪がほしいわけではないのだと。
そのしかめた顔が言っている。
それは知っている。
知ってはいるけど…。


俺はもう一度、すみませんと言った。



謝るしかない。
俺はこの人に迷惑をかけてしまった。

何についても、劣っているのは俺。
一回り以上違うものの、それはいつになっても変わりはしない。


この人の、足手まといになりたくなかった。
恋人同士であるなら、尚更に。



負担にだけは、なりたくなかったのに。



ああ、視界が滲む。
風邪のせいではない。


役に立ちたいのに。
もっと、対等に。

この人の、為に…。


「何勘違いしてやがる」


リボーンさんの声。
声と共に、ブラックアウト。
いや、温かいものに…隠された。

冷たい鉄の塊を握る指は、歳のわりに硬くて。
けれど俺には涙が止まらなくなるほど嬉しい温もりで。


「いつ、誰が謝れって言った」


言った覚えはねぇ、と。

力無く垂らされた手に、指を絡めて。
力を込めて、離れないように。


「心配くらいさせろ。何の為の恋人だ」
「…っあ……」




ヤバイ。
本当に泣きそうだ。
風邪にうなされて、弱っているときに。

どうしてこの人は、俺の求める言葉をくれるのだろうか。



「本部への連絡も、医者も、そんなのは後でいい」


指の絡まった右手をそのまま持ち上げて。
リボーンさんはそっと口付ける。

触れられた部分が、熱とは違う熱さを持つ。



「まず最初に俺を呼べ。連絡も医者の手配も全部俺がやってやるから」


だから俺を呼べ。


無理だって思う。
だってこの人はアルコバレーノだ。

大変な人で。
凄い人で。
偉い人で。

俺が恋人でいられることから奇跡で。


「ごめんな、さい…リボーンさん。…ごめ…ん、なさい」


涙が止まらなくなった。
リボーンさんの手のおかげで、この人には見えないはず。
でもきっとばれてる。

リボーンさんだから。


「だから…」
「ごめんなさい、リボーンさん…」


絡めた指に力を込めて。
合わせた掌は温かく。


「ありがとう、ございます…」


謝罪と、感謝しか…出てこない。

ごめんなさい。
ごめんなさい、リボーンさん。
ありがとうございます。
ごめんなさい。
ありがとうございます。


「獄寺」


彼が呼ぶ。

返事をしようとした。
でもそれすら遮られた。


「獄寺、獄寺…」


呼んでいるのではないのだと。
そう思えた。
だから。
黙って…。


「獄寺…」








「隼人」



…駄目だ。


「…っ……ぁ」
「隼人」


左手で、遮っているリボーンさんの左手に触れる。
彼が右手に力を込めたのが分かった。



初めてかもしれない。
この人に、名前を呼んでもらえるのは。
苗字以外で、呼んでもらえるのは。


「俺は俺の為に、お前といる」



光が…。

覆われていた温もりがどけられる。
一瞬、視界が真っ白になって。

貴方が見えた。



「俺から離れることは赦さない」


笑顔。
リボーンさんらしくて。
思わず見惚れてしまうほど、綺麗で。

嬉しかった。


「俺は買い物と外食に行きてぇんだ。さっさと治しやがれ」
「…っず、ハイ」



早く、治さなければ。

早くこの人と。
この人の隣に。

愛しい人の為に。


end...
言離様のサイトBlack Sanctuaryよりフリー小説を強奪してしまいました☆
だって、ちょ、り、リボ獄ー! リボ獄スキーの熊にとってこれ以上無いお宝ですね!
はぅはぅ、風引き獄寺くんにオレ様属性リボーンさんv 萌えと言いますか胸きゅんと言いますか感激です!
ふへへ、快くサイト掲載許可を下さった言離様ありがとうございました!!