並盛から一駅離れた場所にあるデパート。
品揃えが豊富でお買い特商品も並ぶそのデパートは、今日は平日だけどそれなりの混み合いを見せていた。
「うわぁ〜、人がいっぱいだねぇ」
「ぁ〜‥‥」
そんなデパートに白蘭と隼人、そして正一は足を運んだ。
人の多さに少し驚く白蘭。
隼人は白蘭に抱かれ、人混みに吃驚して白蘭の胸に顔を埋める。
「はぁちゃん、そんなに恐がらなくても大丈夫だよ?」
「そうですよ。白蘭さんに僕も居るんですから」
「ぅ〜〜‥」
そう言われても怖いものは怖い。
普段は大好きな白蘭にべったりな隼人。
白蘭が居れば他に何もいらない、と小さな胸で豪語している隼人だ。
家ではいつも白蘭と正一と一緒で、他に人も居なくて関わる事もあまりないという環境もあり‥極度の人見知りとなっている隼人にはこの人混みは少々堪えるのだった。
「ば、ばぁ〜らん‥」
「はぁくん‥‥//」
うるうると潤みきった瞳で隼人は白蘭を見詰める。
『白蘭‥ はぁくんを置いて行かないでね‥?』
白蘭の脳内にそんな隼人の言葉が聞こえた気がした。
「うわぁぁん!!勿論だよーっ!!はぁくんを置いてなんか行かないよーーっ!!」
「白蘭さんっ!?;」
突如隼人を抱き締めて叫び出す白蘭。
正一は予想付かない出来事に眼を丸くする。
‥‥‥‥というか、その叫びにデパート内の客達の眼は一斉にこちらに向けられ‥‥。
正直他人のふりをして離れたい気持ちになった。
でもそれでは奇人と化した白蘭さんに抱かれている隼人君まで同類と思われてしまう。
それだけは避けなければ‥!!
「ちょっ、白蘭さん‥」
「こんな所ではぁくん一人にしたらあっという間に攫われちゃうもん!はぁくん可愛いもん!だから‥だから僕は絶対はぁくんを離さないからねっ!?安心していいからねっ!!」
「ぅぅ〜vばぁらん〜v」
「え?チュウしたい?うん!良いよ!僕もしたいから‥」
「此処でしたらユニさんを呼びますよ?」
「 !!?? 」
正一の言葉にハッと我に返る白蘭。
ユニ‥?え‥?正ちゃん‥今、怖い事言った?
予期していなかった恐怖の呪紋に身を凍らせてガタガタと震える白蘭。
固まった白蘭の腕の中で隼人は、『にゅに〜?』と知っている名前を楽しそうに繰り返していた。
「白蘭さん。本当にユニさんを呼ばれたくなかったら少し落ち着いて下さい。此処は公共の場なので」
「う、うん;ごめん‥;」
素直に謝罪をする白蘭。その顔は真っ青だ。
今日は隼人(+正一)で楽しくのんびりとデパートでお買い物すると決めたのだ。
そこに恐怖のお姫様は‥‥出来れば遠慮願いたい。
「さぁ、隼人君。アホな白蘭さんは置いといて、一緒にお買い物しましょうね〜」
「ぁいっ!!」
「酷いよ正ちゃん〜;;」
硬直していた白蘭から隼人を抱き取り、正一はまず雑貨売り場へと足を向けたのだった。
「隼人君用にお絵かき帳とかクレヨンも揃えなきゃと思ってたんですよね〜」
「あ!正ちゃん!これとかどうかな!?」
嬉々とした白蘭さんの声に眼を向ける。
すると白蘭さんは多彩な色が揃った絵描き道具一式を持って眼を輝かせていた。
「って、これ油絵具じゃないですかっ!!」
「え?駄目?」
「駄目って‥考えなくても分かるでしょう!?隼人君はまだ1、2歳なんですよ!?」
「はぁくんならきっと使いこなせるよ☆」
「そうじゃなくて‥‥、もし間違って口に入れちゃったらどうするんですか!?」
「あ‥;;」
一気に青くなる白蘭さん。
やっぱりそこまで考えてなかったのか‥。
ふぅ‥。本当に隼人君を世話するのが白蘭さんだけじゃなくて良かったよ。
「ごめん‥。僕、はぁくんを殺そうと‥‥」
「ばーらん??」
「分かれば良いですから。ほら、いつまでも其処で蹲ってたら通行の邪魔です。早く来て下さい」
僕の言葉に白蘭さんは渋々と動き出す。
隼人君は一瞬白蘭さんを心配そうに見たものの、所狭しと並ぶクレヨンや折り紙等に興味深々で、僕の腕の中でクリクリとした丸い眼を仕切りなく動かし身を乗り出している。
そして雑貨に目移りしてはぁくんが自分を見てくれない‥と、白蘭さんは更に落ち込む。
‥‥なんだろう。子どもを二人連れている気分だ。
しかも確実に白蘭さんの方が手が掛る。
そんな現状に息を吐きつつも、眼をキラキラとさせている隼人君は可愛くて胸がキュウッとなる。
そして隼人君が興味を示した折り紙やら玩具を粗方買い揃えた後、次は食品売り場に行く事にした。
食品売り場では、調度お米とか油とかが切れていた為、買い置きの分も纏めて買う事にした。となると大荷物になる事は必須。
そんな大荷物を持つ中、隼人君を迷子になったりしないよう安全に守れるかは少々不安で‥(白蘭さんの動向も注意しなきゃなんないし)少し悩んだが、隼人君をデパートに備えてある”子ども預かり所”に頼む事にした。
「あ、玩具が沢山ありますよ」
「はぁくんと同じぐらいの子も居るね〜!」
訪れた子どもを預かってくれる場所には、大きなアスレチックや小さい滑り台等の遊具。ボールプール等もあり、数十人の子ども達が遊んでいた。
そこで遊ぶ子ども達の年齢は様々で、小学校高学年ぐらいの子もいれば、隼人君と同じぐらい小さい子どもも居た。
「これなら隼人君も安心して遊べますね」
「よーし!まずはあの滑り台やろうか〜っ♪」
「ぁいっ!」
「って、なんで白蘭さんまで遊ぶ気満々になってるんですかっ!?やっぱり白蘭さんも精神子どもレベルですか!?‥それは分かってましたけど、今日は白蘭さんは荷物持ちしてもらうんで我慢して下さい!後で公園のブランコ乗せてあげますからっ!!」
「‥‥正ちゃん。それ、なんか酷い気がする」
「気のせいです。ほら、行きますよ?」
僕の言葉に白蘭さんは思いっ切り嫌そうな顔をする。
分かります。分かってますよ。
勿論本当に滑り台やりたくてそんな眼をしてるんじゃないですよね?隼人君が心配なんですよね?
それは僕だって同じです!!
自分で連れてきたものの、此処に隼人君一人にするのは凄く心配です。
だって、子ども達が此処で安全に遊んでいられるように数人の係の人が居るけど‥
それで本当に危険がないとは言い切れないですからねっ!!
もし隼人君が転んで泣いたら?
もし他の子ども達が隼人君にいじわるしたら?
もし見知らぬ人が保護者だと偽り隼人君を攫ったら?
もし係の人が隼人君の可愛さに耐え切れずに牙を剥き、連れ去ったとしたらっっ!!??
「ああああーーーーっ!!やっぱり駄目っ!!無理ですっ!!此処は羊と偽った狼の群れっ!!此処に一人にしたら隼人君は即効食べられてしまうーーっ!!!!」
「でしょでしょっ!はぁくんを置いてくなんてみすみす死なせる行為だよぉーーっ!!」
「ぅ?」
ああ、確かにこればかりは白蘭さんに同意。
そして良からぬ想像で半狂乱を起こした僕を係の人が必死に宥めた。
少し落ち着きを取り戻し、営業妨害としか思えない言葉を叫んだ僕に係の人はこの場所の安全性を熱心に説明する。
完璧落ち着いた僕は素直に謝罪した。
そうだよね、僕ったらつい取り乱して‥。
これで隼人君を此処に預けなかったら‥やっぱり僕はこの場所を安全だと判断しなかった。という事で、周りのお客さんにも悪影響を与えてしまうだろう‥‥
係の人達の必死さに、僕は隼人君を頼んで預けるほかなかった。
でも‥ でも‥‥
それでもやっぱり隼人君を一人にするのは胃が複雑破裂するほど心配で‥‥。
「お。白蘭に正一じゃねぇーか。何やってんだ?こんな所で‥」
「本っ当、γさんって良いタイミングで現れてくれますよねっ!!」
「γクン〜!はぁくんを頼むよぉ〜っ!!」
「はぁ?;;」
何が何だか分からない、といった様子のγさんに事情を話し、僕達が買い物してる間此処で遊ぶ隼人君を見てて貰う事にした。
「なんで俺が‥。」
「はぁくんの為だもん!」
「俺だって‥ユニに頼まれて此処に買い物に来たんだ‥。早く戻らないとユニに殺される‥;;」
「大丈夫!骨は拾ってあげますからっ!!」
「‥‥‥‥;;」
γに絶望を残し、正一は再び係の人に隼人君を頼みます!と懇願し白蘭と共にこの場を後にした。
「がぁま、こぇっ」
「ん?ああ‥ 蛙のぬいぐるみだな」
隼人が自分達の去る姿を見て泣いたりしないようにと、胸を痛めながらも声を掛けることなく場を去ったのと見知った仲のγが居るのが功を成したのか、隼人は白蘭達が見えなくなったのをさほど気にすることなく、沢山散らばる玩具に興味を惹かれまくっていた。
「がぁま、こぇ‥」
「ん?それは‥‥えと、なんだ?」
蛙のぬいぐるみの次に、なにやら細長いぬいぐるみをγに見せに来た隼人。
γはそのぬいぐるみの動物名を教えようとしたが‥。蛇にしては上半身が平べったいその正体が‥よく分からなかった。
「いや、マジでなんだ?これ‥?」
隼人からそのぬいぐるみを受け取ると、『ツチノコ』と書かれているタグが付いているのが見えた。
「ツチノコ‥?」
「つ、のこ!かぁ〜い〜v」
その言葉喜び、再びγから受け取ったツチノコぬいぐるみをギューッと抱き締める隼人。
可愛いのか?と疑問を持たざるを得ないぬいぐるみに隼人は大はしゃぎ。
というか、マニアックなぬいぐるみだな‥とγは少し感嘆する。
その時、γの胸ポケットに入れられていた携帯が震え出した。
(( きた‥‥っ;; ))
その振動に、γは心臓を痛める。
恐る恐るバイブにしてあった携帯を取り出すと‥やはり、思った通りそこには更に恐怖を核心へとする名前が表示されていた。
白蘭と正一、そしてγの三人には共通している事がある。
それは、隼人を大切に想う事は勿論で‥。
あとは‥‥ユニからの着信音がダース○ーダーだという事だ。
今はバイブにしていたからその着信音は聞こえないが、心ではめちゃめちゃ鳴り響いている。
早く電話に出ないと恐怖の魔王の怒りを更に買うことになってしまう為、γは覚悟を決めると通話ボタンを押した。
『‥‥γ』
「ユニっ!!頼む!話を聞いてくれっ!;;」
『その前に貴方が私の話を聞きなさい。』
「うぐっ‥;」
有無を言わせぬユニの威圧たっぷりな声に押し黙るγ。
『γ‥。貴方は私の頼んだ買い物に一体何時間掛るのですか?』
「そ、それは‥!いろいろ事情がっ;;」
『言い訳は聞きたくありません』
「すみませんっ!!!!申し訳御座いませんっっ!!!!!!;;」
携帯を耳に当て、冷や汗を掻きながら深く頭を下げて謝罪を繰り返す金髪オールバックの強面の青年。
その姿にその場に居た子どもやら係の人達やらは動きを止め視線を向ける。
子ども達の視線を集めている事にも気付かない程テンパっているγは、少しでもユニの怒りを軽減させようとただひたすらに平謝りを繰り返していた。
土下座し、誰も居ない方に頭を下げながら。
『γ。五月蠅いです。私の鼓膜に支障を齎すつもりですか?』
「いえ!滅相も御座いませんっ!;」
『それで‥。こんなに遅くなるぐらいですから、私からの頼まれ事よりもよっぽど重要で大事な御用事が出来たんですよねぇ?』
「そんな事ありませんっ!!ユニの命が第一に決まってます!!」
『そう‥‥。じゃあ、今すぐ戻って来られるのかしら?』
「そ、それは‥っ;;」
『ふふ、出来ないという事は‥。嘘を吐いたという事ですね。
いいですわ。思う存分私よりも大切なその御用事を済ませてくれば良いじゃないですか』
「ユニ‥っ!頼むから話を‥っ!!;」
『帰ってくる時は‥‥覚悟を決めておきなさいね。γ』
プツッ。
そこで通話は切れた。
虚しく非通話の音が鳴り響く。
「ご、誤解だ‥ 誤解なんだ‥ ユニ‥;;」
俺は明日の朝日を拝む事は出来ない。
うわぁぁ!!と嘆き崩れるγ。
成り行きを見守っていた係の人達は、どうやら悪い方向で収まってしまったらしいγに哀れみの眼を向ける。一体何があったかは分からないが‥‥何故かもうこの先この青年を見掛ける事はなくなってしまう気がした。
その間隼人はというと。そんなγの奇行は既に見慣れていたのか、興味を惹く玩具を手に取り、御満悦に遊んでいた。
そしてその玩具を白蘭にも見せようと辺りを見回す。
「‥‥ぅ?」
辺りを見回し、白銀に輝く髪と柔らかい笑顔を探す。
「ぁぅ〜‥?」
そこで漸く気付いた。
白蘭が‥‥いない?
「ば、ばぁーらんっ;」
ウロウロと探し回るも目的の人物は見付からず、
遂には翡翠の瞳に大粒の涙を浮かべ始める。
「あ‥‥;;あぅぅ‥‥っ」
探せども白蘭は見付からない、
周りには見知らぬ子どもや大人ばかり、
押し寄せる不安に隼人は本格的に泣き始めようとした。
「 おい 」
「う?;;」
その時、大泣きする直前に何者かが隼人に声を掛けた。
「お前、何やってんだ?」
「あ‥」
隼人の前に現れたのは、隼人と同じぐらいの身長の赤ん坊。
だが、その風貌は隼人と違いシッカリしていて身体には黒スーツを纏っている。言葉もたどたどしい等もなくハッキリとしていた。
泣きそうな隼人を心配するかのような視線を向ける赤ん坊。
でもその赤ん坊に出逢うのは初めて。
隼人は見知らぬ存在に怯え尻込んでしまう。
「なんだ?まさか怖がってんのか?」
「ぁぅ〜〜っ;;」
そんな隼人に赤ん坊は一息吐くと、やれやれといった様子でゆっくりと隼人に近付いた。
「ひぅ‥っ;」
「まぁ、そう怖がるな。見てろ」
赤ん坊は自分の被っていた帽子に手を向ける。
すると、帽子の上にいた緑色のカメレオンがするすると降り、赤ん坊の手の上に乗った。
「う?」
手に乗ったカメレオンに興味を示す隼人。
そしてカメレオンは隼人の見ている前で形状を変え、一本の花へと姿を変えた。
「ぉはな〜っ!!」
「‥ようやく泣きやんだか」
まだ涙で眼は潤んでいるものの、花へと変形したカメレオンに隼人は大喜び。
先程まで不安で青褪めていた顔には、ほんのりと朱が浮かんでいた。
「こんなことも出来るぞ?」
黒スーツの赤ん坊は口元に笑みを浮かべると、
花へと変わったカメレオンは、次は鳩へと姿を変えた。
「あ、ちゅんちゅん〜!」
「‥‥いや、これは鳩だ」
「ちゅんちゅんかぁい〜v」
「‥‥いや、だから‥真似るならせめて『ポッポー』とかだろ」
「ちゅんちゅんv」
「‥‥お前、馬鹿だな」
雀ではないと告げるも、隼人は雀の鳴き真似を繰り返す。
そんな隼人に『コイツは馬鹿だ』と赤ん坊は認識。
それでも無邪気に喜ぶ隼人の姿に、赤ん坊の胸には暖かいものが広がった。
「ちなみに俺は『リボーン』だ」
「り‥?」
「『 リ ボ ー ン 』だ」
今度は先程よりゆっくりと自分の名を告げる。
隼人もそれを一生懸命繰り返し、十回目ぐらいには口に出せる様になった。
「りびょ〜v」
「‥‥もういい」
その後何十回も繰り返そうと『りびょ〜』としか言わない隼人。
隼人自身にしてみれば満足の出来。
だが、リボーンは至極不満そうだ。
鳩から再び姿を戻したカメレオンを帽子の上に乗せると、リボーンは隼人の隣に腰を下ろした。
「お前の名前はなんていうんだ?」
「うう?」
「‥‥分からないか。ちょっと来い」
「あう?」
側に寄せた隼人の服を探るリボーン。
傍から見れば子ども同士の戯れに見える。
リボーンの呪い事情を知っている者から見ればリボーンが変態と化したように見える。
そして服を弄った結果、『隼人』という名前だという事が判明した。(隼人の持ち物には全て白蘭と正一が名前を書いていた)
「隼人か‥ どっかの馬鹿と同じ名前だな」
「う‥?」
「お前はあんな馬鹿になるんじゃないぞ?」
「う?ぁいっ!」
訳は分からないが、リボーンの言葉に素直に返事をする隼人。
リボーンはその素直な様子に胸がキュンとなり思わず隼人の頭を撫でた。
頭を撫でられるのが気持ち良いのか、隼人は眼を細めうっとりとしている。
「‥‥‥‥お前。可愛いな」
「うう?」
ポツリと呟いたリボーンに隼人は首を傾げる。
銀の髪に翡翠の眼。透き通るように白く滑らかな肌に、賢そうな顔立ちだがどこか抜けている頭。(子どもなら致し方ないが)
見れば見るほど頭に浮かぶ馬鹿と瓜二つな幼子。
リボーンは、そういえば幾日か前‥事件が起こったんだよな‥。と、一つの過程を思い出す。
だが先程の隼人の保護者と思われる人物が起こしていた馬鹿騒ぎをリボーンは見ていた。
もしも‥コイツが行方知れずの獄寺だとしたらあんな親馬鹿な連中の所に居るわけはないだろう。
あまつさえ、こんな子どもの遊び場で呑気に遊んでいる等‥‥‥‥
いや、あの馬鹿なら有り得るかもしれない。
もしや本当に?とリボーンは再び隼人を見詰める。
隼人はキラキラとした眼で頭上のカメレオンを見ていた。
余程気に入ったのか顔を紅潮させ、カメレオンの変身をもっと見せてほしいとお願いするように、小さな手でリボーンの服をやんわりと掴んでいた。
( ‥‥まぁ、良いか。 )
一瞬にして思案を吹き飛ばしたリボーン。
考える事で時間を使うより、眼の前の隼人と遊んでやるほうが有意義だろう。
俺の判断は間違っていない。
そう結論付ける(というか完璧に開き直った)とリボーンは隼人に向き直る。
「りびょ〜?」
「レオンも良いが‥、こっちもどうだ?」
取り出した小型の銃の引き金を引く。
すると、出されたのは銃弾ではなく花やら紙吹雪やらだった。
それを見た隼人は至極楽しそうに笑い拍手を贈る。
隼人のその満面の笑顔に、自分の銃をこんなパーティグッズにしたジャンニーニに今度礼を言っても良いかな、と思えた。
「お、兎の耳がついたカチューシャがあるぞ。つけてみるか?」
「あいっ!」
「ん、似合うな。可愛いぞ」
「かぁいぃ〜?」
「今度はボールだ。欲しいか?」
「ほ、しぃ〜!」
「そうかそうか。じゃあ、取ってこい」
「あううっ‥!?」
少し速度をつけコロコロと転がっていくボール。
隼人はそれを必死に追い掛ける。
「あははは、お前は馬鹿だな〜」
最強のヒットマン。久々に心から笑い、心から癒された瞬間だった。
ボールを追い掛ける隼人を見守るリボーン。
そしてそんな隼人とリボーンを見守る周りの大人達。
赤ん坊が赤ん坊の面倒を見ている‥!と、なんともほのぼのした光景に心和ませるのだった。
(完璧犬扱いなのはこの際伏せておこう。)
漸くボールに追い付いた隼人。今度はそれをリボーンのもとへ持って行こうと、一生懸命幼い手でボールを押し進んで行く。
リボーンはそれを心の中で盛大に『頑張れっ!!』と応援し、ハラハラとながら見ていた。
「偉いぞ、あと少しだ」
もう少しでボールをリボーンに渡せる。
そんな距離まで来た時、隼人はピタリ。とその動きを止めた。
「‥‥?どうした‥?」
訝しげに思い、リボーンは隼人に近付く。
隼人の身体半分ぐらいの大きさはあるボール。
隼人はそのボールに身体を寄り掛らせながら微動だにしなかった。
「おい、隼人‥。っ‥‥!!」
流石に不安になったリボーン。
慌てた面持ちで隼人の肩に手を掛けると、なんと隼人はボールに寄り掛ったまま眠っているのに気が付いた。
白蘭を探したり愚図ったり、一生懸命ボールを追い掛けたりで‥少々疲れた隼人は、ボールを押しながら徐々に睡魔に襲われ、下がってくる瞼をどうにもする事が出来ず、そのまま力尽きたのだった。
リボーンはゆっくりと隼人から手を離し、崩れるように蹲り手で床をバンバンと叩いた。
外見一歳児。どうやら初めて”萌え”というものを知った瞬間だったらしい。
ひとしきり床を叩き、転げ回り、レオンを引っ張り伸ばしてみたりと悶え尽くした後、リボーンはこのままにしておく事も出来ないので、起こさないようゆっくりと隼人をボールから離した。
外見は赤子だが、力は常人以上にあるリボーンは容易く隼人を抱え上げる。
そして備え付けてある子ども用のソファーに腰を下ろすと隼人をそっと寝かせた。赤子二人なら充分に広さのあるソファー。隼人の安らかな寝顔に釣られるように、リボーンも隼人の隣に横になり‥自然と寝息を立てたのだった。
「あら‥?この子‥‥」
「さっきの凄い保護者の子どもよね‥」
「そうそう!保護者は凄かったけど、この子本当に可愛いわよね〜!」
「ええ!あんだけ過保護になっちゃうのも分かるわぁ!」
「あと、この黒い子って‥あの大家族の方が連れてた子どもよね?」
「いつの間にか凄く仲良しになったのね!この黒い子、子どものわりに大人っぽいし泣いたりしなくてシッカリしてるし、良い彼氏、って感じよね!」
「ほんとほんと!さっきは一緒に遊んでたし、今度は二人一緒にお昼寝しちゃって、とっても仲良しさんな恋人ね!」
まるで天使の様な寝顔で一緒にお昼寝している隼人とリボーンは子どもを見る係として配備されている大人達の中で『仲の良くお似合いの恋人同士』と、癒しの光景を提供していた。
皆がほのぼのと癒される中、一人愕然と顔を青褪め、何度掛け直しても繋がらない携帯をゴトリと落とすγの姿があった。
「な、何て事だ‥‥。隼人‥恋人‥‥だと?」
自分は、いい。隼人が認めた相手なら妥協だってするし、二人の愛が真剣なら応援だってする。
だが!!俺以外の奴らの反応はどうくるか‥!!
いや、想像しなくても‥分かってしまう。
取り敢えず今この子ども達が遊んでいる憩いの場は一瞬にして地獄絵図へと変わるだろう。
きっと問答無用であの黒い赤ん坊の命は消される。
まぁ‥隼人の幸せを切に願う白蘭と正一なら‥‥どうにか寸でで思い留まり、隼人の交際を認めてくれるかもしれない。ただしその場合正一は死ぬな。隼人と恋人のイチャつきを見た瞬間血反吐を噴射させるだろう。
そして‥同じく隼人の幸せを願っているが‥。その感情を上手く抑えられるか分からないユニ。
きっとあの黒い赤ん坊相手に『はぁちゃんを手にしたかったら私を倒してからになさいっ!!』とか言い、容赦なく鉄拳をぶちかますだろう。‥何度も言うが、赤ん坊相手に。
「γク〜ン!!お待たせ〜っ!!はぁくん、元気〜?」
ビクゥッ!!;;
最悪の未来を思い描いていたγは盛大に肩を揺らす。
そんなγの思いも知らず買い物を終えた白蘭と正一は笑顔(正一は疲れ切った顔)で足早に近付いて来た。
「あ‥;お、遅かった‥いやいや!早かったな!!;なんだ?デパートをもう一周ぐらいしてきた方が良いんじゃないか!?;」
その間にあの黒い赤ん坊をどこか安全な場所に避難させなければ!!
「え〜?そんなに早かった?だって、はぁくんが心配だったんだもん。ところではぁくんは‥‥」
「は、はは隼人なら先に帰るって言ってたぞ!!;」
「そんな訳ないじゃないですか。」
γの言葉に即座に返答。そして何かあったな‥と察する正一。
「何ですか‥?γさん‥まさか遂に隼人君に手を出したんじゃあ‥‥」
「ええっ!?そうなの?γクン‥っ!!;」
「んなわけあるかっ!!;ってか”遂に”ってなんだ!?;俺はそんな事しそうに見えるのか!?」
「「 だってγクン(さん)ロリコンだし‥ 」」
「違ぇーよっ!!;いい加減怒るぞっ!?」
「怒る前に隼人君を渡してくれませんか?」
「う‥っ;」
正一の言葉に怒りは霧散。再び冷たい汗を流すγ。
何とか眠る隼人と黒い赤ん坊が二人に見えないよう身体で隠していたが‥。
正一の威圧的な眼光に限界を悟る。(どいつもこいつも隼人絡みになると人格が変わりやがって‥!!;)
「ん?あれ‥?君、リボーン君だよね?」
「チャオッス。白蘭」
何ぃぃっ!!??
γの心情やら今までの葛藤やら努力を知る事もなく、白蘭と黒い赤ん坊は挨拶を交わしていた。
「な‥お前等、知り合いなのか‥?;」
「うん♪リボーン君は僕のお友達。小さいのにとっても強い子なんだよv」
「お前だってなかなかやるじゃねーか」
「な‥んだ‥知り合いだったのか‥‥」
しかもだいぶ仲が良いらしい。
そんな二人の様子に一気に肩の力が抜けるγ。
「だったらこんな焦る必要なかったな‥;白蘭の知り合いなら隼人の恋人になっても問題はない‥‥」
「え‥っ?」
「それ、どういう事ですか‥?」
気を抜き過ぎた!!;
そうだ、例え友達だろうと隼人の恋人にとなれば話は別じゃねーかっ!!
なんて浅はかだったんだっ!!;;
γは悔やむものの既に前言撤回は出来ない状態となっていた。
「‥リボーン君。どういう事かな?」
「俺は知らねーぞ?ただ周りの奴らが勝手に騒いでただけだ。俺と隼人はお似合いの恋人同士だとな。」
ニヤリと口角を上げて笑うリボーン。
それはまるで挑戦状ともとれる不敵な笑みだった。
「あはは、幾らリボーン君でもその冗談は貰えないよ〜」
「俺は冗談じゃなくて良いと思ってるぞ?隼人‥とかいったか。アイツ、可愛いからな。俺の愛人に加えてやっても良い」
白蘭の笑顔が固く冷たいものへと変わる。
「愛人‥?はぁくんを愛人とかふざけるにも程があるよね」
「そうだな‥。じゃあ正妻にでもするか」
何その晩のおかずを決める的なノリ!!??;
軽っ!!軽すぎるだろっ!!;;
これが冗談の通じる相手なら構わないが、相手は隼人の事となると真面目になる白蘭!黒い赤ん坊‥リボーンとかいったか。お前、死にたいのか!?;
「今の俺なら隼人の恋人に調度良い姿だからな。」
更に白蘭から闘志の炎が燃え盛る。
熱い‥というか寒い‥!!実際に見えるわけないのに、絶対零度の冷たい炎が白蘭の背後にある気がした。
因みに正一は”隼人の恋人”辺りで血を吐いて倒れた。
「ま、冗談だがな」
「りびょ〜?」
リボーンの言葉の後に聞こえたのは隼人の声。
いつの間にか昼寝から覚めたらしい。
「はぁくん‥!!」
「!? ばぁーらん〜〜っ!!」
うぁぁ〜〜っ!と、今まで逢えなくて寂しくて、そしてやっと逢えた嬉しさにより泣き出す隼人。
白蘭はそんな隼人を抱き締め『ごめんね!一人にして本当にごめんね〜っ!!』と宥めるように頭を撫でた。
「ぅ‥く‥っ、ばぁ‥らん‥‥」
徐々に鳴き声は収まり嗚咽に変わる。
小さくしゃくりをあげ眼を赤く腫らして白蘭に擦り付く隼人は今までの寂しさを全て露わしているようで‥酷く可哀想で‥胸が締め付けられるようだった。
白蘭は隼人をキツク抱き締め、もう離れないからね、と誓うのだった。
「リボーン君、さっきのは冗談だったんだね。はぁくんと一緒に遊んでてくれたみたいで助かったよ‥有り難う」
「ああ。」
「りびょ〜」
漸く隼人が落ち着き、白蘭自身も冷静さを取り戻してリボーンに礼を言う。
隼人は白蘭の腕からリボーンを見ると、近くに行きたいと言うように手をパタパタと動かした。
ゆっくりと隼人を床に降ろすと、隼人は拙くも前に進みリボーンの側に寄る。
「はぁくん、リボーン君の事気に入ったみたいだね」
「りびょ〜v」
「‥‥でも交際は認めないからね?」
「あう?」
その言葉に隼人はキョトンと眼を丸め、リボーンはククッ、と耐え切れぬ笑いを漏らす。
「安心しろ。本気でこんなガキに手は出さねぇーぞ。‥‥それに。馬鹿は一人いれば充分だからな」
こんなにも一つの存在に振り回され、更に愛情の籠った眼を向けて壊れものの様に大切に扱う白蘭をリボーンは初めて見た。
この隼人は白蘭にとってかけがえのない存在なのだろう。
欲しい物は力ずくで奪ったり、時には冷酷さを見せる白蘭だったが‥‥大きく変わったと思う。
どこか胡散臭さも漂う笑みも、隼人の前では自然な心からの笑みの様に思えた。
「お前もようやく人間になった、って事か」
「え?何それーっ!僕は最初から人間だよーっ!」
プンプンと頬を膨らます白蘭。
‥可愛くねぇな。
それはγも同じ思いだったようで視線を泳がせている。
その時遠くから、『リボーンく〜ん!』と自分を呼ぶ声が聞こえた。
奈々にランボにイーピン。そしてフゥ太にリボーンのメンバー今日このデパートに買い物に来ていたのだ。
(そして走り回るランボに手を焼いた奈々は、自分は大丈夫だというのに、リボーンをこの遊び場に預けたのだった)
「んじゃ、俺も迎えが来たみてぇだからな。そろそろ行くぞ」
「うん!リボーン君、今度僕の家に遊びに来てね♪」
「そうさせてもらうぞ」
「りびょ〜‥」
リボーンが帰ってしまう事を察したのか、隼人は寂しそうな声をあげる。
今日一日一緒に遊んだ同じ年頃(外見のみ)の友達。
普段大人と接するのが多い隼人にとってそれは新鮮で、もっと一緒に遊びたいと思っていた。
自然と隼人はリボーンの服を握り締めていた。
「そう寂しがるな。またすぐに逢いに行ってやる」
「う‥。やぁぁ‥」
「そんな顔されたら帰れねーだろ。‥しかたねぇな」
「‥って、はぁくんお持ち帰りは駄目だからね?」
「チッ、」
泣きそうな顔をする隼人を抱えて帰ろうとしたが、即座に白蘭の制止の言葉が掛る。本気で持ち帰ろうと思っていただけに舌打ちがリアルだ。
「馬鹿親な白蘭が駄目だと言うから‥。やはり今日はここでお別れだ」
「やぁぁぁぁ‥!」
「え?何?僕が悪いの?」
二人から非難の声をあげられてたじろぐ白蘭。
うう‥はぁくん。さっきはあんなに僕の帰りを喜んでくれたのに‥;
このままリボーン君に心変わりなんて許さないんだからぁぁ;;
「じゃあな‥。寂しくねぇように、贈り物をしてやる」
「りびょ‥?」
チュッ、
響くリップ音。
何故か帽子を深く被って顔を隠しながら足早に去っていくリボーン。
状況を把握するのにたっぷり十秒は要した。
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叫び声をあげる白蘭さんを宥めて何とか帰路に着く。
現在は隼人君を胸に抱き抱えてブツブツと何かを唱えている状態だ。
正一は問題の出来事の直前辺りで眼を醒ましたのだった。
眼を覚ましてすぐに見たのは、隼人にキスをするリボーンの姿だった。
眼覚め最悪。目覚めなければ良かった。
思わず眼鏡は粉砕。ついでに胃も粉砕しかかった時、白蘭が雄叫びをあげたので何とかとどまった。
きっと、帽子を深く被り顔を真っ赤にしていたリボーンの姿は末裔まで忘れないだろう。
隼人君はというと、白蘭の腕の中で『りびょ〜、ちゅう〜//』とリボーン君とチュウした事を恥ずかしがっていた。
恥ずかしがってる隼人君のその顔が嬉しそうなのに、僕と白蘭さんは深く傷を負う。
「よばない‥絶対リボーン君をお家に呼ばない‥。来ても絶っっ対お家に入れないんだからっ!はぁくんに逢わせてあげないんだからっ!」
ヒートアップする白蘭さんの呟き。
それには僕も同感。
これ以上隼人君とリボーン君が逢瀬を重ねてその仲が親密になったら‥‥
「呪ってやる‥。末代まで呪って祟ってやるぅぅ〜〜っ!!」
自然と僕にも移る呪の言葉。
オシャブリ持った赤ん坊は敵。僕達の信念となった一日だった。
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「はぁちゃんに恋人?」
「そ、そそそうなんだ;俺はそれを見届けるのに時間が掛って‥‥;;」
「見届ける?排除したのではないんですか?」
「は‥排除?;;」
「チッ、この役立たずがっ」
「す、すまん!!ユニっ!!;」
「買い物が遅れた挙句にはぁちゃんに忍び寄る魔の手を見届けてどうするんですかっ!!やっぱりγに明日の朝日は必要ないようですねっっ!!!!」
「やめっ、ユニ‥‥っ、ぎゃぁぁぁぁああああああああああああっっ!!!!!!」
聞く者の魂を揺るがすような断末魔。
γから得た情報で、黒スーツの赤子は敵!!と決まったとか。
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神なお方の子獄の恋人がリボーンさんという言葉で思い至った話。
外見的にもお似合いですねv
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青嵐の月虹さんより書いてもらいちゃいましたー!!! きゃー!!
はい、このお話は月虹さんのサイトのパラレルのお話の番外編となります。はぁちゃんと白蘭さまの生活の真相が知りたい方は月虹さんのサイトへゴー! したのち小説→長編小説→白蘭家族参照ですよ!! 白獄のお話にリボーンさんが参戦です!! しかも隼人の彼氏!! きゃー!!! 萌え!!
隼人の可愛さにあのリボーンさんが初萌えを体験してしまいました!! あのリボーンさんが萌えた…!!! そしてお昼寝!! 萌え!!
そしてお別れにちゅーですよ!! んもうリボーンさんてば気障!! 出会ったときも隼人を泣きやませるため花を贈るとかもうどれだけ気障なんだと!! 萌えるけど!! きゅーきゅー!!
リボ獄を常日頃から求めている熊にリボ獄分たっぷりのリボ獄ありがとうございました!!