風邪のクスリ(10年後設定)



ソファに背を預け、いつのまにか眠ってしまっていたのだろう。
とろとろとしたまどろみの中、閉じたまぶたの世界がすっと薄暗くなったように思われ自然と意識が浮上していく。

ボンゴレのアジト―――その、俺専用の部屋とはいえ、いつ何時他人が足を踏み入れるとしれないそこで、ボスの右腕ともあろう者が同じファミリーの人間相手だろうがこんな無防備極まりない姿を晒すわけにはいかない。
疲労がたまっているせいもあるのだろう、ここ数日体調がすぐれず、だがそれは言い訳にすぎないと自らを叱責し目を開けば――…

「ぇ…リボーンさ……っ!」

近づいてくるその人と目があい、けれどリボーンさんはひるむことなく―――それどころか、見せつけるような笑みさえ浮かべたその唇を、俺のものへと重ねてきた。

「ゃっ、……ふ…、んっ…」
薄く開いていた唇からするりと忍び込んできたリボーンさんの舌。
反射的に逃げを打つ俺のそれを、逃しはしないとばかりに絡めとり好き勝手に弄られる。
ろくに抵抗もできずされるがまま、すべてを奪いつくさんばかりの荒々しいキスに頭の芯がぼんやりしてきた。

仮眠とはいえ寝起きには濃厚すぎる口付けに息が上がり、そのうえ身体からはすっかり力が抜けてしまっている。
ようやく解放され、酸欠のためだろう鈍い頭で天井を見上げていればその輪郭をなぞるように耳朶を舐められ、ふるりと身体が震えた。
もちろんそれは嫌悪などではなくその証拠に、身体の奥底に小さくくすぶりはじめた熱。

「だ…め、です」
スラックスからシャツを引きずり出され、肌にじかに触れてきた手。それ以上の侵入を拒むため、切れ切れながら言葉をつむぎ端正な顔をにらみつけた。
「―――涙目で言われても、誘ってるようにしか聞こえねーぞ」
くくっと喉の奥で笑われ、その唇が音を立て目尻に触れてくる。

「ていうかおまえ、何年の付き合いになると思ってんだよ。いいかげん焦らしすぎじゃねぇか?」
「う゛っ…」
焦らしているつもりはないのだが、恋人として付き合うようになってからの短くはない年数、キス以上の行為を許していないのは事実だ。

「こ、心の準備が…」
内心冷や汗を流しながらいつもの言い訳を口にするがそんなもの、同性を好きになり、リボーンさんの性格上どうやら俺が受ける側になるらしいと気づいた時から覚悟はできてる。
じゃあどうしてかといえば……俺がリボーンさんの年の頃、まだ女とやったことさえなかったから…なんて、恥ずかしすぎて言えるわけないし。
けどまだ11歳…いや、12歳だったか?まぁ、どちらにしろこの年でってのは絶対に早すぎる!と、思う。……ただ単に先を越されたくないだけだったりもするけど。

「それに、あの…」
その視線は俺を咎めるものではないとはいえ、なんとなく居心地が悪いというのもまた事実で。
「俺、風邪ひいてるんで…これ以上体調が悪くなっても困るし…」
風邪自体は自己管理ができていないせいだが、口実としては通用する……はず。

「そういえば、明日はツナの護衛として交渉に同行するんだったな。―――そんなもん1人で行かせろ。おまえらあいつを甘やかしすぎだ」
「なんてこと言うんですか…!」
最後の一言は、10代目のためと厳しく接してきた元家庭教師だからこその一言なんだろうが、部下も連れず交渉に臨むなど万が一の事態を考えれば愚行でしかないことくらい、リボーンさんがわかっていないはずもない。
「ともかく…今日はだめです。俺のことを思ってくれるのなら俺のワガママ、きいてくれますよね?」
ずるいかなとは思いつつ、けれどこう言えばたいがいのことは許容してくれるはずだと―――うかがうようにその顔をのぞきこむ。

「おまえは…」
「はい?」
しばらく見つめ合ったあと大きく息を吐き出したリボーンさんは、どさりと俺の隣に腰を下ろしてきた。こちらへと伸びてきた腕に逆らうことなく身体を預け、いわゆる膝枕の状態で真上の顔を見上げる。

「俺以外の奴にはそれ、逆効果だって覚えとけ」
「?」
言ってる意味がよくわかりません、リボーンさん。

「明日、朝早いんだろ?もう寝ろ」
しかし、俺の問いかけるまなざしに与えられたのは別の答え。

「寝ろって…」
たしかに、仮眠をとることもあるかもしれないと大きめのソファを設置させてはいる、が。
なんというか、気恥ずかしいんですけど。
「寝ないんだったらヤるか?」
「ね、寝ます…」
その言葉に素直に目を閉じれば、こんな状態で眠れるはずもないと思っていたものの穏やかな指先に髪を梳かれなんだか気持ちよくなってくる。

「リボーンさん…」
「なんだ?」
「あなたに抱かれるのが嫌なわけじゃないんですよ…?」
ただ、素直になれない自分がいて、意固地になってしまうだけ。

「―――わかってる」
ほのかに笑われた気配を最後に、世界でいちばん大好きな人のそばで俺は眠りに落ちていった。

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アネモネ の雨宮さんが熊が元気ないからってリボ獄書いて下さいました!
きゅー! すすすす、素敵過ぎて鬱なんてどこか吹っ飛んじゃいますね! はぅーv
風邪ネタ、膝枕、頭なでなでと相変わらず萌え要素満載いっぱいで大好きなのです!!
てか付き合って数年なのにキスまでとか! 獄寺くんそれなんて拷問? でも理解力100%なリボ様に愛です。
雨宮さんありがとうございましたv