ボンゴレのアジト内。

通常、ツナのみが使用する部屋に人が集まっていた。



獄寺に山本に雲雀。

それに、シャマルにディーノ。

更にはランボの姿まであった。


昔からボンコレに深く関わっていたものだけが『話がある』との事で呼び出されたのだ。


これは一体どういう事なのだろう。

もしかして、古株メンバーにしか言えないような事態がこのボンゴレ内部に発生しているとでもいうのだろうか。


集められていたメンバーは、この異様な空気にただ疑問を感じる事しか出来なかった。




「あの、10代目。……話って一体何でしょう…?」




重い空気の中、獄寺は訊ねた。


すると、ツナは。




「ああ、緊張しなくても良いよ。特別、警戒するような事態が起きたとか、そういう類の話じゃないから。」



ニコリと笑って言った。

そのセリフに、部屋に集まっていたメンバーの顔から緊張の色が抜けた。



「じゃあ、どうしたんだよ。何か相談事か?」



ほっとした様な表情で山本が訊ねる。



「うん。相談って言うか報告って言うか……。昔からお世話になってるこのメンバーには知らせておきたいことがあってね。」

「へぇ、君がそんな事を言うなんてね。一体何なの?」



わざわざボンゴレの幹部やボヴィーノのランボ、キャッバローネのディーノまで呼び出したのだ。

よっぽど良い事が有ったのだろう。

珍しく雲雀も微笑んだ。





が、次の瞬間その表情は凍りついた。





「実は俺、来月の頭に獄寺君と結婚するんだ。」






……………。







……えーっと。



何だ、そういう事ですか。

俺と10代目の結婚の事ですか。


確かに、それは皆に報告しなくちゃならないですよね。





……でも、10代目。

1つだけ言わせて下さい。







とりあえず俺、10代目と婚約した覚えがないんっスけど






静まり返った部屋の中で、獄寺だけが心の中でツッコんだ。






大騒動







「……ソレ、どういう事ですか、ボンゴレ10代目。」

「おいおいツナ。冗談にしちゃ、ちょっと面白くねぇぞ?」



硬い表情で訊ねるランボ。

山本も笑顔をひきつらせながら訊ねた。




「冗談でも何でもないよ。俺はもう決めたから。」



俺は何も決めていませんけどね。



獄寺は心の底から、そうツッコみたかったが、山本達から滲み出てくる殺気に負けた

空気が重過ぎてツッコミなんて入れられない。




「この間、ちょっとボンゴレの将来についてかんがえたんだ。これから先、ボンゴレを守っていくにはどうしたら良いのか…ってね。」

「へぇ……。それで?」



ディーノが微笑みながら話の先を促す。

だが、その目には何かドス黒いものが宿っていた。



とりあえず、表情を取り繕う余裕があるのならその手をムチから離した方が良い、という獄寺の心の叫びは、やはり獄寺の心の中だけに留まった。



「まだ20代って言っても、俺もいい歳だ。そろそろボンゴレの跡継ぎの事も考えなくちゃならない。」

「……で?」




今度はシャマルが静かに訊ねる。

表情こそ落ち着いてはいたものの、ディーノ同様その目は血走っていた




「ひと口に『跡継ぎ』って言っても、普通の子じゃ駄目だ。何て言ったって俺達はマフィア。しかもボンゴレだ。」

「……だから?」




青筋を浮かべつつ、雲雀が笑いながらが訊く。

『咬み殺したい欲』全開の笑顔だった。




「そこで!マフィアの経験が1番長くて、更にボンゴレの事をよく理解している俺の右腕、獄寺君を嫁にしようって思ったんだよ!」




……。



………はい?



え、どういう事ですか?

今やっぱり『嫁』って言いましたか?

おかしいですよ10代目。

婚約すらしてない…って言うか、むしろ付き合った事すらないとか色々おかしな部分があるんですが、これだけは言わせて下さい10代目。



とりあえず俺は男です、10代目。





「獄寺君の子供ならきっと頭脳明晰で性格も容姿も可愛くて……跡継ぎに相応しいよ!」




とりあえず俺男だから子供産めません10代目。





「ま、そういうワケだから。皆よろしくね。」




俺はまだよろしくされたくないです10代目。




何だかよく分からないツッコミを心の中で続ける獄寺。

その目が若干潤んでいるのは、どうしようもない事だろう。


と。




「……ちょっと待てよツナ。」




ゆっくりとした、ドス低い声があがった。


声の主は山本。

その顔を見れば、かなりとんでもなく穏やかじゃない表情をしていた。



「その結婚に異議を申し立てる!」
「あ、俺、山本の意見は初めから聞く気ないから。」




素早過ぎる反応で答えるツナ。

山本の発言との差、僅か0.5秒。


ツナの反応に、山本は動きを止めた。




「…何で?」

「『何で?』って、何が?」





動きを止めてから、約10秒程。

やっと山本が口を開く。


その問いに、にこりと笑いながら訊ね返すツナ。

だが、その目は笑っていない。

…というよりもむしろ『それ以上言ってごらん。すぐコンクリでその足固めて太平洋のど真ん中あたりにでも沈めてあげる。』といった感じの殺意がこめられている。



……が、そんな目にひるむ山本ではない。

逆に、『やれるもんならやってみろよ。死なばもろとも、お前も一緒に海の底まで連れてってやる。』という目で睨みつけた。




「何でいきなり俺の意見を聞かなかった事にしてるんだよ、ツナ。」

「だって山本は獄寺君とられたくないって個人的感情だけで意見してるわけだし。」

「………。」




勝者、ボンゴレ10代目。

山本VSツナの戦いに、その場に居合わせた全員が心の中で判定を下した。



「『個人的な感情』って事ならツナもだろ!?」




またしても一瞬動きを止めた山本だが、それでも、なお食いついてきた。




「大体、俺の気持ち知ってて獄寺を娶るなんてどういう事だよツナ!」




涙目での講義。

10年来の友人として同情を引くつもりなのだろうか。


が。



「…………だから?」

「え?」




ツナから帰って来たのはコレ以上ないくらい冷たい声




「確かに俺は山本の気持ち知ってる。だから何?ボスの結婚に口出しするつもり?」

「………。」





第2戦、勝者ボンゴレ10代目。




もう良い。

良いからこっちに戻って来い山本。




獄寺以外のメンバーは、心の中で山本にそっと呼びかけた。

が、そんな優しい声が獄寺の事でいっぱいいっぱいな山本に届くわけがなかった




「待てよツナ!さっき『ボンゴレの跡継ぎ』だなんて言ってたけど、それって獄寺を縛り付けてねぇか!?跡継ぎの事ばっかり考えて、そんなので獄寺を幸せに出来るのかよ!?」

「さっき山本も言ってたじゃない、『個人的な感情って事ならツナもだろ!?』って。俺だって獄寺君に対しては特別な感情を持ってるよ。……それと、『幸せに出来るのか』なんて随分前から獄寺君をストーカー行為で苦しめてきた張本人に言われたくないね。」

「………。」





勝者ボンゴレ10代目。

TKO勝ち。

その場に居合わせたほぼ全員がそう判断した。



2人の戦いを見ながら、獄寺だけが『何で俺が男で子供は産めないって事を誰もツッコまないんだろう』とか、『そう言えば俺って10年前から結構可哀相だったんだなぁ』なんて事を遠い目で考えていたのだが、その思いは誰にも伝わらなかった。





「俺も異議があるんだが……。」

「とりあえず年上はすっこんでて下さい酔いどれ医者。」




山本に助け舟を出そうとしたシャマル、山本に並んで撃沈

撃沈までの時間、僅か3秒。

撃沈されたシャマルの背中に哀愁が漂って見えたのは、きっと気のせいではない。




「俺だって異議ありです!」

「とりあえず君も黙ってろヘタレ牛。」



更にランボも撃沈。

所要時間2秒。




「まぁ落ち着けよツナ。俺には年上だからこその意見ってのもあるしさ。」

「ディーノさん…?」




ツナの眉がピクリと動く。





「確かにお前はボンゴレのボスで、ボンゴレの将来の事についてもちゃんと考えてると思う。……けどな、こんなに部下から反感買ったまま結婚して、それがボンゴレのためになると思うのか?」

「………。」




思わず目を丸くする獄寺とツナ。

思ったよりまともな発言に、内心驚いたのだ。




「僕も、それについては同感だね。」

「雲雀……?」




ようやく、引きつった笑顔をおさめた雲雀が声をあげた。





「このまま君が結婚を強行するって言うのなら、僕はボンゴレ自体を潰しにかかるつもりだよ?」




ギラリ、と雲雀の目が鈍い光を放つ。

その目は真剣そのもの。

冗談を言っているようには思えなかった。



が、そんな表情も暴走気味な結婚話に対してむけられているものだと思うと、むなしい事この上ない。





「…こう言う奴がボンゴレには沢山いる。お前はボンゴレのためにスモーキンボムと結婚するって言うけど、ボンゴレのためを思うならスモーキンボムとの結婚は考え直した方が良い。」

「………。」




ディーノの、まともな様でいて、男に対して言うにはちょっとむなしいセリフにツナは黙り込む。


一方獄寺はと言うと。



ああ良かった。

寒すぎる論争がやっと終わりそうだ。



と、思ったのだが。


「ま、そんなワケだからスモーキンボムはボンゴレの同盟ファミリー、キャッバローネファミリー10代目のこの俺が貰う!」





……ああ、そうか。

コイツらはとことんバカだった。




獄寺はひっそりと涙を流しつつ、そう実感した。



「…何言ってるんですか、ディーノさん。」

「本当だよ。ふざけないでくれる?」



心の底から呆れたかの様な声で言うツナに、殺気の篭った視線を送る雲雀。


話の中心となるべき獄寺は最早完全に蚊帳の外だった。





「ふざけてなんかいねぇよ。良く考えてみろ。キャッバローネファミリーのボスの嫁になれば、ボンゴレ内部で問題が起きる心配もないし、同盟のキャッバローネファミリーとのやり取りも今まで以上に円滑なものになる。これ以上良い事はねぇぞ?」




何故か誇らしげに胸を張って言うディーノ。


が、それでも、目の前の2人は冷たかった。




「何ふざけてるんですかディーノさん。獄寺君差し出すくらいなら速攻で同盟破棄しますよ。

「そうだよ。彼が他のファミリーの嫁になんてなってみなよ。僕、そのファミリー全員咬み殺すからね。」





本当にボンゴレの事考えているなら、こんな馬鹿馬鹿しい事で同盟破棄なんて考えないで下さい10代目。


あ、あと雲雀。

お前は『咬み殺す』って単語抜きで会話しろ、頼むから。




3人のやり取りに、潤んだ目を押さえつつ、獄寺はツッコみ続けた。

が、それでも、そのツッコミは当然のごとく3人の殺気にかき消されてしまった。




まぁ、兎にも角にも今のやり取りでディーノも撃沈。

雲雀とツナだけがその場で睨みあう形となった。



因みに、既に撃沈されてしまった山本やシャマル、ランボはと言うと、部屋の隅っこで両手両膝を床に着き、がっくりと項垂れていたりする。




「それにしても君って馬鹿だよね。部下に対してそんなに個人的感情むき出しにしてて、ファミリーを背負って行けると思うの?」

「そう言う雲雀さんこそ。獄寺君関連の事になると冷静さが欠けてますよ?そんな状態でマフィアなんてやっていけると思ってるんですか?」

「言うじゃない。……1度君とはとことん話し合わなくちゃとは思ってたよ。」

「気が合いますね。俺も丁度そう思っていたところですよ。」





ああ、もう良いです。

好きなだけ話し合って下さい。

話し合うだけ話し合って下さい。

俺は明日辺りから遠い所へ旅に出ますから。

探さないで下さいね。



話し合う2人を目の前に、そんな事を考えつつあさっての方向を見ながら現実逃避している獄寺に目を向ける者は誰もいなかった。


山本、シャマル、ディーノの3人は部屋の隅っこで項垂れたり、体育座りしながらも、『どうやったらボスから嫁を奪って逃走出来るのかなぁ』なんて考えていたため、獄寺の様子を見る余裕が出来なかったのだ。





……それ故、この部屋の人口密度が少しばかり上がっている事に気付かなかった。





「………何なってんだ、テメーら。」

「…リボーンさん?」





話題の中心人物であるにも関わらず、結構放ったらかしにされていた獄寺に声をかけたのは、10代目ボス、ツナの家庭教師を務めていた事もあるリボーンだった。




「何か騒がしいと思って来てみたら、馬鹿な事やってんだな。それに何だ、ツナと雲雀のあの喧嘩は。ネチネチくどくど……陰険な女子高生か?」

「……そう思うならあの2人を止めてくださいリボーンさん。」




うんざりした表情で言うリボーンに、獄寺はやっぱり目頭を押さえたままお願いした。





「言われなくてもそのつもりだぞ。こんな馬鹿馬鹿しい話、万が一部下の耳にでも入ったら、とんでもねーしな。」




言いながら、リボーンの存在にすら気付かないまま口論を続けるツナと雲雀の方へと近付くリボーン。




ああ、やっぱりこの方は頼りになる。

流石だ。




獄寺には、ツナと雲雀に向かっていくリボーンに、後光がさして見えた。



しかし。





「何やってんだテメーら。獄寺は俺の愛人だぞ。何勝手な話し合いしてんだ?」






……貴方こそ何やってんですかリボーンさん。





ちょ……待って下さいよリボーンさん。

俺は2人を止めてくださいってお願いしたんですよ?

なのに、油に火を注いでどーするんですか







「何言ってるのリボーン!俺は獄寺君を嫁にするって言ってるんだよ!?なのに『愛人』!?獄寺君が可哀想だと思わないの!?」

「そうだよ。……それに、そもそも彼は僕のものだ。いくら君相手であっても、それについては譲るつもりはないよ。」





いきなり、わけも分からず嫁に出る俺もとことん可哀想だと思うんですがどうでしょうか10代目。



それから雲雀。

俺はお前のものになった覚えはねぇ。





「馬鹿だなテメーら。俺の愛人だなんてこれ以上ない最高の地位じゃねぇか。





リボーンさん……どっから湧いて出てくるんですか、その無駄な自信。





「よく考えてみろ。獄寺が俺の『愛人』って事は、俺と獄寺は愛し合いつつも、お互い何の拘束もない。つまり獄寺さえ望めば、お前等と俺とで獄寺を共有出来るってワケだ。」





俺と貴方はいつから愛し合っていたんでしょうか、リボーンさん。




「ちょっと待ってよ!それじゃあ獄寺君を娶れなくなるじゃないか!」

「落ち着け、ツナ。獄寺と結婚すれば、部下が黙っていないってのはディーノも言っただろーが。」

「……。」

「だったら共有した方が安全なはずだ。……違うか?」

「それは……そうかもしれないけど…。」





共有して部下が黙っても、俺は黙りませんけどね




「雲雀も。……どうだ?このままツナに獄寺を取られるより、獄寺を共有出来る方がまだマシだろ。」

「確かに悪くない提案だね。ま、最後に彼が選ぶのは、絶対僕なんだろうけど。」




いや、たぶん俺が最後に選ぶのは海外逃亡じゃねぇかな






「……ま、そんなワケだ、獄寺。せいぜい俺達の仲をこいつらに見せ付けてやろうじゃねーか。






…『俺たちの仲』ってどんな仲ですかリボーンさん。

アレですか。


ちょっとばかり暴君入ってる上司と振り回される部下とか。

そんな感じでしょうか。


それなら見せ付ける間もなく思いっきり周知の事実ですよ





不適に笑うリボーン。

その横には、いつの間にかちゃっかり復活している山本にシャマル、ランボ、ディーノが立っていた。




その姿を見て獄寺は頭を抱える。

あまりの展開に、頭痛はもちろん、眩暈まで感じ、最終的には何だか吐き気まで覚えた。



思わず、その場に倒れ込みそうになった獄寺。

それを見たリボーンは。



「ま、気楽に考えてろ獄寺。こんな提案したのは俺なんだ。きっちり責任とって面倒みてやるからな。




と、囁いたのだが獄寺の耳に届くワケがなかった





獄寺が海外出張と称して3ヶ月ほど行方をくらます3日前の出来事だった。







大騒動 Fin.










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何だかそろそろ土下座のしすぎで、デコが擦り切れて痛くなってきた黛です、こんにちは。(←何の挨拶だ)


えっと………色々すみませんでした!


せっかく『獄総受け前提リボ獄10年後ギャグ』をリク頂いたのに、リボーンが出番少な過ぎて…!;


ツナが黒すぎて申し訳ありません;

リボーンが暴君過ぎて申し訳ありません!;

何だか熊様には毎回恩を仇で返している気が…!;



本当に、毎回申し訳ありません!

どうかこれに懲りず、これからも遊びに来てやって下さい;




…と、言い忘れていたのですが。


皆様お気付きだとは思いますが、一応、作中で「火に油を」ではなく「油に火を」となっていたのは仕様なので、ご理解頂けると嬉しいです;



此処まで読んでくださった皆様、本当に有難う御座いました!





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切って洗って水の中 の空様から頂きました!

空様のごっきゅん総受けについにリボ様が参戦してくれて非常に嬉しい限りです!

ていうか空様そんな謝る必要性は全くないのでありますよー!

並み居る敵をばったばったとツナが倒していきツナ獄風味と見せかけしかし最後の最後でどんでん返し!

リボ様が颯爽と獄寺くんを奪うのはこれはもう黄金定理でありますからー!! 素晴らしいほどの王道でありました!

あとこのお話のおかげで黒ツナ様とあと何故かヘタレランボにときめきが芽生えました! あと総受け熱とか!!

空様本当いつもありがとうございます! これからもよろしくお願いしますなのですよー!!