●ブランデー
果実酒、特にしろ葡萄酒を蒸留して作った洋酒
●酒
・1 米を発酵させてつくるアルコール含有の飲料。日本酒
・2 一般にウイスキー、ビールなど、アルコールを含む飲料
『酒を酌み交わす』
『酒に飲まれる(=酒に酔って正気を失う)』
小●館 国語辞典より抜粋
Rの初恋
「…で、一体何してんだ、オメーは。」
「リボーンさんに、甘えて、ます!」
「………何だソレは。」
アジトの一室。
その中の大型ソファに腰をかけ、新聞を広げる黒スーツの少年がいた。
言わずと知れた、最強のヒットマン、リボーンである。
その最強のヒットマンの膝元。
そこには
「――寒くないのか、この光景を想像して。」
「どーでも良いです!」
――どうでも良いのか。
この寒い状況で、言う事は『どーでも良いです!』なのか。
リボーンは内心でツッコんだ。
状況を説明すると、こうだ。
リボーンが、部屋でソファに座り、新聞を読んでいた。
そこに、獄寺が入って来た。
珍しく、ノックもなしに、だ。
そしてリボーンを見るなり、その膝に頭をのせ、ソファに寝転がった。
つまり、早いところ――『膝枕状態』というやつだ。
「オメー、何杯呑んだんだ?」
「呑んで、ません!」
呑んでるだろ、どう見ても。
ツッコみつつ、溜息をつく。
どう考えても、今の獄寺は酔っ払っている。
顔が赤いし、舌足らずだし、おまけに、全身から酒の匂いが漂っている。
これで、呑んでいないわけがない。
と。
「獄寺、新聞が読めねぇ。邪魔だ。」
「『甘えてます』って、言ったじゃ、ないですか!構って下さい!」
――これで、呑んでいないわけが、ない。
「どけ、オレは新聞を読んでるんだ。」
言って、手にした新聞をそのままに、身体を横にずらす。
リボーンの膝にのっていた獄寺の頭は、万有引力の法則に従って、ソファに沈んだ。
すると。
「――構って下さいって、言ってるじゃないですか。」
ぱしん、という音と共に、新聞が視界から消えた。
そして、その代わりに。
「……獄寺。」
新聞があったはずのリボーンの眼前に、獄寺の顔があった。
何故かその獄寺の目は、真剣だった。
「――たまには、甘えさせて下さいよ。」
「……獄で…」
獄寺、と呼びかけようとして。
「貴方が、俺のことを好きじゃない、ってのは、知ってます。」
獄寺に遮られた。
その獄寺の声は、真剣なものだった。
口調も、元に戻っている。
「昔から、貴方は俺には厳しかったですし。……でも――」
でも――と、獄寺が続けようとした。
が。
「あー!やっっっと!!獄寺さん発見です!」
「……ハル?」
バーン、という効果音が付きそうな程、ハデに登場したのはハルだった。
「駄目ですよ、獄寺さん!リボーンちゃんに迷惑かけちゃ!」
「……ハル?」
「はひ!すみませんリボーンちゃん!獄寺さん、酔っ払っちゃって!」
「……それは見れば分かる。」
訊きたいのはそこじゃない。
「何があった?」
「えーっと、その……」
もごもごと口を動かすハル。
どうやら、この酔っ払い作成者は、ハルのようだ。
「ハル、ここの厨房をお借りして、クリームパイを作ってまして。」
「パイ?」
「はい。…仕事で頑張ってる皆さんに、差し入れしようと思って…。」
そうなのか、とリボーンが相槌を打つが、ハルの歯切れの悪さは変わらない。
「それで、ちょっと味見しようと思ったとき、近くの廊下を獄寺さんが通ったんです。」
「それで?」
「で、ハルは獄寺さんに味見してもらおうと思って、厨房に入ってもらったんですよ。」
……何か、嫌な予感がしてきた。
「そしたら、その時……10年前のランボちゃんが現れまして…。」
――大体、想像出来る。
たぶん、10年前のランボが10年バズーカを使ったのだろう。
5歳児のランボがここに現れたというわけだ。
そしてその目の前にクリームパイ。
………。
「ランボちゃん、はしゃいじゃって……。クリームの隠し味に使ったブランデーを…。」
「獄寺に、浴びせた、と。」
「はひ……。」
予想通りと言うか、何と言うか。
もう少し気の利いたオチは無いのか、というか。
はしゃいだランボがテーブルに激突。
テーブルの上はブランデーの瓶。
その瓶が、はしゃいでいるランボを捕まえようとかがんだ、獄寺の頭に降り注いだ、と。
しかも、ほとんど丸々1本分。
結果、見事な酔っ払いが1人完成した。
……そう言う事だ。
「す、すみませんリボーンちゃん…。」
「いや、良いからその酔っ払いを医務室に連れていってやってくれ。」
「はひ!分かりました!」
言うと、ハルはびしっと敬礼をして、獄寺を引きずって部屋を出て行った。
手伝おうとリボーンも腰を上げたのだが、『獄寺さんがこうなったのは、ハルの責任なので!』と断られた。
成人男性を一人でひきずっていくハル。
昔から『マフィアの妻になる』と言っていただけあって、中々逞しい女性に成長したようだ。
そのため。
その後、リボーンが拾い上げた新聞を逆さに構えていたという事実は、誰にも知られる事が無かった。
そして、リボーンは。
落ち着け。
落ち着け、俺。
落ち着くんだ、俺。
落ち着け、落ち着く時、落ち着けば、落ち着こう。
……何故か『落ち着く』を五段活用していた。
全く、落ち着けていなかった。
――リボーンは、焦っていた。
初めて、この感情に気付いた時、リボーンは混乱した。
早鳴る心臓。
異様な精神の高ぶり。
呼吸困難。
こんな事は、生まれて初めての経験だった。
今まで愛人だの何だのと、色んな人間に手を出してきたが、こんな感覚ではなかった。
――まわりくどい言い方は止めよう。
ホレた。
ホレました。
しかも初恋だ、文句あるかコノヤロウ。
無駄に乱暴な口調で、リボーンは思う。
何なんだ、アイツは、と。
初めて会った時から『やたら綺麗な顔をしているな』とは思っていた。
『人に好かれる顔だ』とも、思っていた。
思っては、いた。
が、この10年でその『綺麗な顔』には、更に磨きがかかった。
磨きがかかりまくった。
予想外の展開だった。
こんな予想外の展開に、ドキドキするなってのが無理なんだよ馬鹿野郎。
今まで『恋』とか『愛』とか思っていた感情は、勘違いだと思い知らされた。
『Love』ではなく『Like』だったのだ。
何だって、この俺が、男に。
そう思ったが、悩んでも邪念は去らない。
だが、思いを獄寺へ伝える術を、リボーンは持っていなかった。
(何てたって初恋だからな!)
(今までの愛人みたいに気軽に手を握るなんて心臓に負担がかかり過ぎて無理なんだチクショウ!)
若干開き直りつつ、考える。
――何で、手を出さない?
――だって、俺、獄寺に『貴方が俺のことを好きじゃないってのは知ってます』なんて言われたし。
――向こうは勘違いしてるんだ。
誤解を解けば良い。
――いったいどうやって?
――簡単だ。
たまに笑いかけてやったり、優しくしてやれば良い。
――俺が笑う程度で、獄寺の機嫌を取れるのか?
――可能性はある。
さっき、酔った勢いとは言え、向こうから膝枕されに来たんだぞ。
――そうだな、向こうから膝枕をされに――
……って、ん?
膝、枕……?
………。
アイ キャン フライ
リボーンの思考はショートした。
ベタな感情表現かもしれないが、顔が赤くなった。
ついでに、耳からよく分からない煙も、出た。
「!$○%▼Σ×\!!?」
絵に描いたような慌てよう。
声にならない叫び。
因みに、現在リボーンの脳内では葛飾北斎の『富嶽百景』の1枚が浮かび上がっていた。
日本1高い山、富士山が波に飲み込まれようとしている。
…いや、飲み込まれようとしているのは、ひょっとしたら富士山ではなく、リボーンの思考回路かもしれない。
「―☆◆◎√△%●□!!!」
最強のヒットマン、リボーン。
彼の初恋の行方を知るものは、いない。
ちなみに、リボーンが、手元にある新聞紙が逆さになっているのに気付いたのは、それから1時間後の事だ。
Rの初恋 Fin.
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えーっと。
リボーンさんをヘタレにしてすみません。(←第一声がそれか)
黛にしては珍しく、甘ギャグ(?)の作品だったのですが…いかがでしたでしょうか?
パイ投げバトンを下さった熊様に捧げるこの作品……実はかれこれ1年以上前にネタを作成しておりました。(←パイも腐るっちゅーねん)
何を隠そう、熊様に『リボ獄のリボ様=ヘタレ』を植えつけた元凶は、1年前熊様とオフ会をした黛ですからね…(←リボ獄界の神に何て事してんだお前!;)
…土下座するので許して下さい…!;
ここまで読んでくださった皆様、本当に有難う御座いました!
きゅー!! もももも萌えー!!! 顔を上げて下さい空様!! 大丈夫です萌えですからー!!
というわけで! 空様から頂いてしまいました甘ギャグリボ獄です!! ワオ!!
ああ、懐かしき獄誕に語って頂いたリボ獄がまさに! 今まさに熊さんの手の中に!! 待ってました空様! ありがとうございますね!!
獄が初恋のリボーンさん…有りです。全然有りです。文句なんてあろうはずもありません。
なんてったってリボーンさん10年後でも10歳前後ですからね!! むしろ普通です。戸惑いもむしろ年相応。熊さん続きを楽しみにしておりますね☆(おいー!)
…てか空しゃまー…リボ獄界の神って…そんな、他の人が見たら誤解しちゃうだろ!! 確かに色んな人にそう言われてるけどー!!(爆)