「山本、そろそろいいよ。ありがとう」


「気にすんなって。これくらい、いつでも手伝ってやるぜ?」



ニカッと昔と変わらない爽やかな笑顔を向けてくる山本に、ツナはゆっくり首を振った。



「いや、山本が手伝ってくれてホント助かってるんだ。今度、お礼をするよ」


「いいってツナ。ボスが部下を使うのは普通だろ?でも、そうだな……お礼だったらツナのキスがいいかな」

「ははっ。山本ってば。……雲雀さん呼ぶよ?」



ニヤリ、と答える山本に、ツナは間髪入れずニッコリと切り返した。



「もう居るよ。何?僕の沢田綱吉に手出すつもり?噛み殺すよ」



ピタリと首筋に当たるトンファーに、山本は苦笑した。



「相変わらず、ツナのことになると早いのな、雲雀」


「まぁね。それより、沢田綱吉。そろそろ時間じゃない?」



ちらり、と壁にかけてある時計を見る雲雀に、ツナと山本はつられて時計を見た。



「あ、そうだね。そろそろ…かな」



「あぁ、だな。んじゃ、俺は戻るわ。正直、もうアレは耐えられねぇしな」



そう言うと、山本は素早くツナの部屋から出ていった。



「んー……よし!気合い入れていこう!雲雀さんも一緒に居ますか?」


「僕は片割れの部屋に行くよ。出来る限り早めに引っ張ってくるから、その間は頑張ってね」



じゃあ、とツナの部屋から出て目的の部屋まで行く途中、雲雀の横を何かが猛スピードで駆け抜けていった。



「全く……廊下は走るなって言ってるのに。後で噛み殺さなきゃ。まぁ、今はアッチを優先しなきゃ沢田綱吉が困るしね」



雲雀にとって優先すべきことはツナに関係することのみ。
1にツナ、2にツナ、3・4がヒバート、5にツナというほどツナに惚れ込んでいる。
それが、群れるのが嫌いな雲雀がボンゴレファミリーに所属する理由。



「ワォ。この部屋、扉越しでもわかるくらい暗いね」


目的の部屋に着いた雲雀は、あまりの雰囲気にため息を吐いた。




一方、その頃のツナの部屋では……


今まさに台風が到着しようとしていた。



ドドドドッ!!



バタンッ!!



「10代目〜〜っ!!」

「獄寺くん。扉壊れちゃうから静かに開けようね?」



勢いよく入ってきた人物・獄寺隼人に向かって、ツナは驚くことなくニッコリと話し掛けた。
最初こそ驚いていたツナだったが、こうも毎日ほぼ同じ時間に駆け込まれては慣れてしまっても仕方がない。今となっては、この時間帯には誰もツナの部屋に近づかなくなってしまった。



「今日はどうしたの?何が原因?」


「う〜…聞いてくださいよぉ。リボーンさんってば酷いんすよ〜…」



今にも泣き出しそうな獄寺に、ツナは慰めるどころかため息を吐いてしまった。



「(だいたい予想はつくけど)何があったの?」

「リボーンさん、覚えて無かったんです…」

「何を覚えて無かったの?」


「……日っす……」

「え?ゴメン、聞こえなかった。もう一回言って?」



あまりに小さな声だったため聞き取れず、ツナは申し訳なさそうに聞き返した。



「記念日…リボーンさんと付き合って…一周年の…記念日…リボーンさん覚えて無かったんです…」

「それって、いつ?」

「…今日です…俺、リボーンさんに『今日は何の日か知ってますか?』って聞いたら…リボーンさん『知らねぇ』って…」



獄寺の言葉を聞き、ツナは内心舌打ちをした。


一方、雲雀は……



「入るよ」



ノックもせずにリボーンの部屋に入っていた。



「ワォ。予想通りに暗いね。赤ん坊、生きてるかい?」



部屋いっぱいに拡がる、どんよりした空気に流石の雲雀もリボーンが心配になってしまった。



「あぁ……雲雀か…どうしたんだ?」


「それは僕のセリフだよ。今日はどうしたんだい?何が原因?」



手近なソファーに座り、雲雀が問い掛ける。



「別に…雲雀には関係ねぇだろ?」



ぷぃ、とリボーンは顔を背ける。



「関係あるよ。僕と沢田綱吉との時間が邪魔されるからね。で、理由は?」



どうせ、くだらないんでしょ?と雲雀が言いながら机の上にあるクッキーを一つ食べた。



「勝手に食うな。それは隼人の手作りだぞ」



睨み付けてくるリボーンに、雲雀はニヤリと笑う。



「だったら、早く言いなよ。じゃないと全部食べるよ」


「チッ……わかった。実は……」



渋々といった感じに話しだすリボーン。

話を聞くにつれ、雲雀の表情は歪んでいった。



話が終わった頃、あまりな内容に呆れを通り越し『うざい』の感情しか生まれてこなかった。



「相変わらず限定でヘタレだね、君。理由はわかった。ソレなら話は早いから、沢田綱吉の部屋に行くよ。さっさと話して仲直りしてくれない?」


「もしかして、今から行くのか?」



嘘だろ、という表情で雲雀を見る。



「もしかしなくても今から行くけど?ほら、早くしなよ」



急かす雲雀とは逆に、リボーンは中々動こうとしない。



「行けねぇ。隼人、すげー怒ってたんだぞ」

「謝ったらいいんじゃない?君のせいだし」

「謝って許してもらえなかったら?」

「許してくれるまで謝れば?君のせいだし」

「嫌われたかもしれねぇし……別れたいなんか言われたら立ち直れねぇ」

「原因は君の発言のせいだけど、それは無いんじゃない?」



今まで『君のせいだし』を強調してリボーンの罪を肯定していた雲雀だが、最後の言葉だけは否定した。



「君は彼の気持ちが、それぐらいで無くなると本気で思ってるのかい?それに、君が仮にされたら嫌う?それだけの気持ちなんだ?」



挑発するように言い放つ雲雀を、リボーンは顔を上げて睨み付けた。


「俺の隼人に対する気持ちが、そんな軽いはずがねぇだろ」


「だったら、彼の気持ちも信じたら?ホント、ヘタレだね。嫌われてるかもしれないから行けないなんて」


「ヘタレって言うな。仕方ねぇだろ。それだけ本気なんだ」



ふんっ、と顔を背け帽子を深く被りなおすリボーンに雲雀は苦笑した。



「そうやって図星つかれたり照れたりしたら、すぐに深く帽子を被るよね君。だいたい、ヘタレだからヘタレって言ってるんだよ」

「ヘタレ連発すんな。死にたいのか?」



ジャキンッ……



「ヘタレには負ける気がしないな。今すぐ噛み殺したいところだけど、君には先に彼と仲直りしてもらわなきゃ、僕が沢田綱吉といれる時間が減るのは嫌なんだ」



トンファーでリボーンの銃をいなし、雲雀は部屋から出ていった。



「ヘタレじゃなければ、もちろんついてくるよね?」



ちらり、とリボーンを見ると……



「当たり前だ」



そう言って、リボーンは雲雀の後に付いて部屋を出ていった。





「それでですね、って聞いてます?!10代目っ!」


「あー、聞いてる聞いてる。ちゃんと聞いてるよ、獄寺くん」



―はぁ、早く戻ってきてくれないかな。雲雀さん。もう、俺限界……―



「10代目〜俺、リボーンさんに飽きられたんすかね〜」



うぅ、と今にも泣きだしそうな獄寺にツナは―殴りたい―と思ったとか思わなかったとか…



「獄寺くん。紅茶で酔わないでよ」

「今の俺は紅茶で酔えるんですっ!」



―あぁ、もう本気で殴りたい―



「嫌わないでくださいリボーンさ〜〜ん」



―うざい。ホントうざい。これほど獄寺くんをうざいと思ったのは初めてだよ―


「…助けて雲雀さん…」

「呼んだかい?沢田綱吉」
「雲雀さん?!」



ツナが呟いたと同時に扉が開き、そこには(ツナにとっての救世主の)雲雀が立っていた。



「雲雀さん!逢いたかったです!」

「僕もだよ、沢田綱吉。あ、ちゃんと原因もつれてきたから」



そう言うと、雲雀は後ろに立っていたリボーンを差し出した。



「リボーン。早く獄寺くんをどうにかしてよ」


「リボーンさん……?」



ツナと雲雀の言葉に、ゆっくりと振り返る獄寺。



「隼人……」



リボーンと獄寺の間に、気まずい雰囲気が流れた。


「悪かったな…隼人」



先に言葉を発したのはリボーンだった。



「記念日、忘れたわけじゃねぇんだ。ただ、記念日で浮かれる奴に見られたくなくて……な」



ポツポツ喋りだすリボーンに、獄寺は黙って耳を傾けていた。



「なんだ。リボーンは獄寺くんにクールなところ見せたかっただけなんだ」


「そう。それで僕たちの時間が邪魔されたと思うと、噛み殺したくなるね」


「「相変わらずヘタレだ(ね)(よね)」」



息ぴったりに横やりをいれるツナと雲雀。だが、獄寺には二人の声は聞こえていなかった。



「じゃあ……俺に飽きたわけじゃないんすよね?」

「当たり前だろ」

「リボーンさんも、覚えてくれてたんすよね?」

「隼人と付き合った記念日だからな。これ、やるよ」



ぽい、と投げられた箱を獄寺が見事にキャッチする。



「これ……」

「記念日のプレゼントだ。………迷ったんだからな。返品不可だぞ」



そっぽを向きながら言うリボーンに、獄寺は大輪の華が咲き誇るような満面の笑みを向けた。


「リボーンさん!ありがとうございます!もうっ!大好きです!!」



ぎゅぅぅ、と抱きつく獄寺にメロメロなリボーン。

本人自覚無しに顔が笑っている。



「もう変な意地はらないでよね、リボーン。獄寺くん絶対俺の部屋に駆け込んでくるんだから(正直うざいんだよ?紅茶で酔うし)」


「わかった。気を付けるぞ(うざいって言うな。愛されてるんだな、俺)」



建前は言葉で発し、本音は二人にしか使えない読心術で話し合う。それを快く思わなかったのは……











雲雀だった。



「もういいでしょ?読心術で話し合っちゃってさ。僕たちには何言ってるかわからないし、何より僕が不愉快だよ。見つめ合ってるみたいだし」



むす、とした表情の雲雀にツナは微笑み、リボーンは苦笑した。



「行くぞ、隼人。雲雀が妬いてる。それに、お茶の続きがしてぇしな」


「はい!リボーンさん!」



最初の泣きそうな顔と打って変わり、ニコニコしながら獄寺はリボーンに続き部屋を出ていった。

リボーンから貰ったプレゼントを大切に持ちながら……



リボーンからのプレゼントが何かは、二人だけの秘密。



ただ、獄寺が幸せそうに笑っている姿を前よりも頻繁に見るようになったらしい。




終わり







オマケ



「雲雀さん。リボーンなんか目のしたにクマなかったですか?」


「あぁ、プレゼント何にしようかとか当日どうしようか悩んで、寝れなかったんだって」


「結局、リボーンも楽しみにしてたってわけですね。ってか、そこまで悩んで寝不足になるなんて……」


「そうだよね。彼の場合、不器用っていうよりも……」



「「ヘタレ」」



―――……‥
一方リボーンの部屋



「ヘックシ!」


「リボーンさん、風邪ですか?」


「いや、違う。噂されてんのかもな」



リボーンがくしゃみをしていたとか。


終わり








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素敵リボ獄を書いて頂いてしまいました…!!! たなみ様ありがとうございます!! 感激です!!
何に一番感激って、たなみ様は別ジャンルの方なのにリボーンを書いて下さったというところです。ほ、本当はパプワサイトなのに…!! ありがとうございます!!

何気に群れまくりな雲雀さんにも爆笑ですが愚痴を受けるツナ様の舌打ちもさり気にツボだったりしますww
そして本当に記念日を覚えてなくてそれを謝るのかと本気で思っていたら実は覚えていてしかもプレゼントまで用意していたリボーンさんが大好きです!!
雲雀さんに獄の元へ行くよう言われても「行かない」ではなく「行けない」リボーンさんも萌え。嫌われてたらどうしようって、リボーンさん!! ヘタレ!!
そして照れて帽子を深く被り直すリボ様………ど、どうしてこんなにも熊さんのツボを突きまくるリボーンさんなんですか!? その描写こそ熊さんが求めていたリボーンさんです!!

そしてリボーンさんの獄へのプレゼント…皆様は分かりましたでしょうか。熊さんは「もちろんこれですよね☆」とメールを送ったところ大正解したみたいですv ワオ☆

たなみ様本当にありがとうございました!!