獄寺が飲み物を持って自室に戻ってくると、部屋の中で待っていた人物が若返っていた。


ああ、ついにこの時が来た。


「ここはお前の部屋か」


「ええ」


微笑み、飲み物を机の上に置き、獄寺は彼の……リボーンの隣に腰を付かせる。


オレンジジュースを注ぎ、リボーンに手渡す獄寺。


「どうぞ」


「酒はないのか?」


「すみません、今のあなたはアルコールは取らないもので」


「…何?」


それ以上は獄寺は語らない。過去を懐かしむように目を細め、リボーンを見つめ、笑んでいる。


「変わったものだな」


「そうですか?」


「ああ。骸を相手にしているみてーだ」


「それは……少しばかり心外、と申しますか…」


獄寺が表情を曇らせる。まさかあの骸と同一視されるとは。それは嫌だ。心外だ。


リボーンはジュースを口に含み、獄寺を見上げる。


獄寺はどこかそわそわしている。身体を揺らし、目線は泳いで落ち着きがない。


「緊張してるのか?」


「そうですね…緊張してます。ああ、いえ、あなたは関係ないのですが…」


「分かってる」


関係ない、か。リボーンは内心でため息を吐く。


本当にそうなのだろう。誤解なく、誇張なく。


獄寺は自分を見ていない。他の誰かを見ている。それが誰かは分からないが…


「これから誰かと会う約束でもしてんのか?」


「ええ―――…まあ」


獄寺は目線を揺らし、少し答えづらそうに肯定する。


…ふむ。


「そいつのこと、好きなのか?」


「―――――…」


獄寺が目を少し開き、そして閉じる。


問い掛けに即答出来ないのではない。リボーンに答えるつもりがないわけでもない。


リボーンに見えぬ相手のことを思い出し、その想いを思い直している。噛み締めている。



「………好きですよ」



暫しの沈黙のあと、獄寺は答える。


「愛してるんです。ずっと…ずっと前から」


獄寺は目を開き、リボーンを見つめる。


何故か自分が告白されたかのような、不思議な感覚をリボーンは味わった。


「…これから、返事を受け取れる手筈になってるんです」


「そりゃ、邪魔して悪かったな」


「いえ、いいんです」


「…上手くいくといいな」


「ええ。本当に」


我ながら、心にもないことを言ったとリボーンは思う。


けれど獄寺は言葉を正面から受け取り、真っ直ぐに言葉を返す。


こんなところは昔と変わらない。


そうしているうちに五分はすぐに過ぎ、リボーンは戻り、リボーンが帰ってくる。



「お帰りなさい」「構わんぞ」



二人の言葉は同時だった。獄寺は驚き、リボーンは笑ってる。


構わない。なんのことか。その質問は獄寺が10年前にリボーンに問い掛けたものだ。


「………本当ですか?」


「流石に10年越しのお前の思い相手に冗談は言わん」


「リボーンさん!!」


獄寺は思わずリボーンに抱きついていた。


小柄な子供と大人の体格差ではろくな抵抗も出来ずリボーンはソファに背を付ける。


「…つーかお前……」


「はい?」


リボーンはすうっと息を吸う。


「分かりづれぇんだよ!! オレはさっきまでお前がいったい誰が好きなのかずっと考えてたんだぞ!!」


「は?」


「オレはお前に告られるより前からお前のことが好きだったのに、諦めてたのにあんなこと言うなんて反則だろ!!」


「…は、はあ…」


リボーンはぽかぽかと獄寺を殴っている。全然痛くない。


「え…リボーンさん、オレのこと好きだったって……え?」


「気付いてなかったのか?」


「全然」


自分にはまったく興味がないと思っていた。信じていた。


「じゃあ、つまり、その………オレたちは両想いだったって、わけですか?」


「そうだな」


「……………」


獄寺は黙って考えて。


幸せそうに微笑んで、リボーンを力いっぱい抱きしめた。


「獄寺。苦しい」


「すみません、でも…オレ、嬉しくて」


獄寺は歓喜のあまりかリボーンに頬ずりしてくる。


まるで大型犬にじゃれつかれているようだ。とリボーンは思った。


視線を少し動かせば窓が目に入り、月明かりに照らされた雪がきらめきながら降っていた。





雪が降って、雪が舞って。


今日はホワイトクリスマス。





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今日はあなたに告白記念日。